異国の品々大陸の武器と火薬
さて、義経一行が屋敷に逗留することになってしばらくの後の日のことです。
例の商人が荷物を沢山積んで屋敷へとやってきたのです。
「こんにちは奥方様。
本日は異国の珍しい品物をいくつかお持ちいたしました。」
「ありがとうございます。
では、中へどうぞ」
私は彼を屋敷にいれ品物を寝殿の床に広げさせました。
その間に下人に使いを出させ逗留している義経一行や義仲様をお呼びしたのです。
屋敷の床に広げられたのはまず武器類。
短刀である連還刀、護手狼牙刀。
双剣である胡蝶刀、鴛鴦刀。
長柄の刀であるである朴刀、三尖両刃刀、青龍偃月刀、眉尖刀、乾坤日月刀、九環刀。
槍である槍、十字鎌槍、双鈎鎌槍、拐刃槍、虎牙槍、標槍。
黒色火薬を用いる特射な槍である火槍、梨花槍。
原始的なロケット兵器である火箭、神火飛鴉。
原始的な手榴弾である震天雷。
原始的な肩に背負って使う砲である大銅砲。
(バズーカ砲のようなものただし威力や射程はしょぼしょぼ)
原始的な火炎放射器である猛火油。
棒術でつかわれる棍、梢子棍。
長柄の月牙铲、単戟、方天戟、三叉。
斧である大斧、斧。
鈍器である狼牙棒、金瓜錘、双鈎、硬鞭、锏、拐。
軟兵器である皮鞭、九節鞭、短梢子棍、三節棍、縄镖、流星錘、飛爪。
暗器である匕首、峨嵋刺、镖、筆架叉、乾坤圏、腰帯剣、鐵笛、鉄扇など。
そして弩と短弓です。
短弓の素材は竹ではなく木と動物の腱をほぐしたものと角や骨を膠で貼り付けてあるようですね。
いわゆるペルシャ弓と呼ばれる合成弓です。
義仲様と義経一行の男性陣が目を輝かせてズラッと並んだ武器を眺めています。
「うわぁ、ほとんど百貨店ですね。
いくつかって数の種類じゃないですよ……」
私も正直びっくりしました。
「手にとって見てもいいのか?」
義仲様は商人にそう聞きました。
「ええ、どうぞ」
その言葉を聞くと男性陣は我先にと刀や槍に手を伸ばしたのです。
まあ、弁慶だけはその様子を少し後ろで眺めているようですが。
”ビュオウ”
「なんじゃこりゃ?」
連還刀を振り回した伊勢義盛が刀を見て不思議そうにしています。
「それは、馬を驚かせるために円環を取り付けた刀ですな。
ふれば大きな音が出るようになっています。」
主な馬の産地である北方を抑えられた宋の国は金の国の重装騎兵に歩兵で対抗しなくれはならない関係から武器がいろいろ発展しましたが、連還刀などは騎兵対策として作られたものの一つです。
武器を持っては振り回しはしゃいでいる男性陣を尻目にその他のものを私は見ました。
硫黄と燐を使ったマッチ、2動作ピストン式ポンプ、馬具である頭絡と蹄鉄、絹でできた落下傘、磁気羅針盤と海図などなど。
その他吊橋のかけ方や水門の作り方が記された書物、アルキメデススクリューを用いた揚水機の図面、鎮痛剤になる芥子の実……。
まあこれは精製すればアヘン、モルヒネ、ヘロインになるわけですが。
また『太平聖恵方』・『聖済総録』・『和剤局方』などの医書も持ち込まれています、原文そのままなので私には読めませんが……。
また『欧希範五臓図』や『存真図』と呼ばれる身体を解剖した様子を記した解剖図もありますね。
また人体のツボを示した『銅人腧穴鍼灸図経』とそれを基に銅で作られた人形である鍼灸銅人も持ち込まれています。
2000年頃には整骨院には骨格標本や経絡図などが置かれていましたが、おおよそそれと同じようなものです。
これが有れば手技、鍼灸、吸玉等のマッサージを行うときに効率的に施術を行うことができるようになるでしょう。
「ところで火槍って槍の穂先に中をくりぬいた竹筒をつけて黒色火薬に金属片を詰めて相手に向けて放つものだったはずですよね。
結構暴発事故も多かったはずですが」
そう言いながら私は火槍を手にしたのです。
「おお、よくご存知ですな。
それは宋の国でも最新の武器でして火薬というものを用いるものなのですよ。」
いや、一応知ってます。
封神演義や三国志演義、水滸伝などの物語に出てくる武器が多く出てくるのもこれらの物語が宋の時代以降に作られたからです。
二次創作で現代の武器を過去の時代に持ち込むというのも昔から行われていたことなんですね。
ついでに言えば三国志で出てくる関索は史実には存在しない二次創作の人物です。
それを言うなら私や弁慶などもすべて二次創作の疑いがあるわけですが…ね。
閑話休題
「それをお買い上げいただけるのでしたら、火薬の作成法と火薬を作るのに必要な”中国の雪”こと 硝石の作り方もお教えいたしますよ。
無論少々値はありますが、いかがでしょう?。」
火薬といえば火縄銃ですね、が残念ながら私は火縄銃の細かい制作方法がわかりません。
宋の国の火器が金に広まり、金と宋を滅ぼしたモンゴルに伝わりモンゴルが行ったヨーロッパ遠征でヨーロッパに伝わりそのヨーロッパで発達した鉄砲が日本に来るのはずっと時代を下って戦国時代ですからね。
大銅砲を元にして改良していくしかないでしょう。
もう一度閑話休題
「分かりました。
槍、猛火油、火箭、震天雷、大銅砲、飛雲落雷、方天戟と梨花槍それと狼牙棒、弩、小弓、飛爪を頂きましょう。
道具は全部ください。」
そして私は男性陣に聞きます
「皆さんはどれがいいですか?」
「俺はこれがいい」
十字槍を手にして義仲様が言います。
「私はこれを」
双剣である鴛鴦刀を手にして義経が言いました。
「では我々はこれを」
鎌田兄弟が手にしたのは朴刀です。
「俺は断然これだな」
伊勢三郎は連還刀でした。
使う場所には気をつけないといけませんが、これはこれでありでしょう。
「弁慶殿はいらないのですか?」
腕組みをして武器を眺める弁慶に私は一つの武器を手にとって渡します。
「これなどは天下無双の豪傑にふさわしいかと思いますが」
そう言って私が渡したのは青龍偃月刀、三国志に出てくる関羽が使っていたとされる武器です。
もちろんその時代には本当は存在しませんが。
「かたじけない、ならば有りがたく使わせていただくとしよう」
弁慶は受け取って嬉しそうにしていました。
「おお、さすが奥様なんともお目が高いですな。」
大量に売れたことが嬉しいのでしょう。
商人はニコニコしています。
「ちなみに猛火油には草生水が必要ですよね?」
草生水とは臭水、いわゆる石油のことです。
「ええ、そうですな、よくご存知で。
確か信濃の国では浅川や黒川の方で湧き出ていたはずですな。」
「信濃の北の越後都の県境。
善光寺や長野の方ですね。」
確かに新潟や秋田には結構な数の油田があったはずですが長野にもあったのですね。
そして私は硝石の作り方が印刷された紙片を手に入れたのです。
それと引き換えにごっそり銭を持って行かれたのは言うまでもありません。
彼はほくほく顔で屋敷から去って行きました。
男性陣がそれぞれ各々の部屋に戻ると私は紙に目を落とします。
硝石の作り方はいくつかあるようです。
まず一つ目が古土法。
土間や家畜小屋、の土を掘り返して硝石が含まれた土を水に浸して抽出し釜で灰汁とともに煮詰め、綿布で上澄みをろ過したあと液体を自然乾燥させる。
これはいわゆる古土法と言われているものですね。
作業工程は簡単でしたが、硝石の純度はやや低かったようです。
また一度使用した土は、10~20年ぐらい経たないと再使用できないために、大量生産には適さず、原料集めに苦労すると書かれています。
その次が培養法。
屋敷や家の地炉や囲炉裏の周辺に穴を掘り、その底に春に十分に乾かしたヒエがらやソバがらを鋤き込み、夏になったらこれまた十分に乾かしたカイコの糞もしくは鶏糞と土を混ぜたものを加え、秋になったら山草、サク、ヨモギの干草をさらに加える。
時々掘り返して空気を混ぜる。
そして5年ほどの間発酵させる。
十分に発酵したら硝石が含まれた土を水に浸して抽出し、釜で灰汁とともに煮詰め、綿布で上澄みをろ過したあと、液体を自然乾燥させる。
最初に硝石ができるまでは、4年~5年掛かりますが、その後は毎年硝石を作ることが出来るそうでまた純度も高めとなっていますね。
最後の一つは硝石丘法
さらにもう一つは禁足区に指定した場所に雨水が入り込まぬように小屋を立てその中に上田土、麻畑土などの土とひえ、たばこ、よもぎ、そば、さく、あさ、うど、よもぎ、むらたち、くさや、しゃきなどの植物と人間の糞尿や蚕の糞、獣の内蔵、石灰石などを混ぜ積み上げて小山を作ります。
時々小山の土を混ぜ直して時々十分に腐敗した糞尿を追加します。
上記の作業を繰り返し3~5年経って十分に泥土化したら、表面の土を掻き取り集めて、他の方法と同じように抽出~煮詰め~乾燥すれば硝石が出来ます。
ある意味堆肥や下肥と同じように微生物の力を借りて発酵させるわけですね。
そして硝石ができたらそれと硫黄と木炭を混ぜて黒色火薬にします。
黒色火薬の作り方ですがまず木炭と硫黄と硝石を用意します。
この時の配合比は木炭15% 硫黄15% 硝酸カリウム70%です。
細かい手順としては、小さく砕いた木炭をすり鉢とスリこぎを用いてすり潰す。
砕いた硫黄を同じようにすり鉢とスリこぎを用いて粉末状にする。
木炭と硫黄の粉末をを加えて混合する。
木炭と硫黄の混合物を内側が皮張りの容器に移して硝酸カリウムを加える。
この時に水分を加えて爆発燃焼しないようにする。
樫の木の棒でよくすり潰して丸め、布で包んで板で挟み圧搾して比重を高める。
その後、破砕する。
黒色火薬は湿気ても乾燥させれば使えるようになるため、保管時には水を加えてしけさせておき、使用時にはゆっくりと乾燥させて使えるように戻す。
だそうです。
「では、早速硝石の抽出にかかりましょうか、別に試しに使うくらいだからそんなに量は必要ないけど」
私は下人に命じ土間や厩舎などの表面土を掘り起こさせて書いてあった手順にしたがって、硝石を作成するよう命じました。
また地炉や囲炉裏の周辺に穴を掘り稗ガラを埋め組むことも始めました。
硝石丘法に関しては、まだ火薬をうまく使えるかどうかわからない割には、硝石丘の周りを疫病の流行防止にために立入禁止にしないといけないとか、あまりにも臭いので作業が大変などの理由で今回はやめておきます。