蚊、蝿、鼠と疫病と埋葬
さて、突然ですが人類の長い歴史の中で最も人間を多く殺してきた生物は何でしょう?
熊?虎?ライオン?鮫?毒蛇?毒蠍?いいえ、違います。
人間を多く殺してきた生物は蚊と蝿と鼠です、これ等は致死的な病気の媒介となって人間をたくさん殺してきました。
蚊はマラリアやフィラリアのような原虫、日本脳炎、デング熱のようなウィルスなどを吸血行為によって広く伝播します。
平清盛はマラリアによって死んだという説もありますね。
蚊に対しては蚊遣り火という手段がありますが、少し効果が弱いので除虫菊や馬酔木を使った蚊取り線香と蚊帳を作るのが良いでしょうか。
「というわけで至急こういったものを作って下さい。」
私は蚊帳の作成図を記して水車小屋で紡績や機織りを行っている下人に命じて蚊帳を作らせるとともに除虫菊や馬酔木を練りこんで作る香取線香も作成させます。
蝿は不衛生な場所に生息し生物の死骸や糞尿にたかります。
その時に大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、赤痢菌、腸炎菌などのいわゆる病原性腸内細菌群や
細菌性赤痢・コレラ・チフスなどの病原性細菌を撒き散らします。
蝿に対してはめんつゆトラップが有名ですがそれを酒と酢に置き換えても大丈夫ですから酒と酢を水で薄めたものを小鉢に入れておいておきます。
蝿は液体が羽根に染み込むと飛べなくなりますからね。
「まあ、このくらいなら誰かに命じるまでもないですね」
私は酒と酢を用いたはえとりトラップを寝所や飯炊きをする場所などにおいて回り毎日取り替えるようにします。
平安時代では貴族や武士は土葬や火葬され墓も有りましたが、庶民は一定の場所で、まとめて風葬とされました。
遺体を野ざらしにする風葬が一般的だったので、野辺河原ににうち捨てられることも多かったのです。
これが平安時代の京において疫病が流行した理由のひとつなのです。
ネズミも不衛生な場所を徘徊するため、体中にはノミ、ダニ、シラミなどの害虫やさまざまな病原菌がついているのです。
ペストが有名ですがサルモネラ菌やツツガムシ、チフス、またネズミの糞や尿にも病原菌が含まれ、しかも彼らは移動しながら糞や尿をまき散らします。
これを考えると米蔵に鼠が入るこむことが危険なことは理解できるでしょう。
鼠に対して一番有効なのは猫を買うことです。
しかし猫は鶏や家鴨に対しても攻撃してしまいますから、小屋に猫が入れないようにしないといけませんね。
あとネコ自体がのみやシラミを持ってしまうこともあるのでそれにも注意は必要ですが。
私は猫を買い求めると米蔵付近に長い綱をつけて放ちます。
ノミ、ダニ、シラミに対してはこまめに梳き櫛を使って成体やその玉子を落とすのと入浴をこまめに行うことが重要です。彼らは基本的に湯を嫌いますからね。
また、筵や畳などの寝具をこまめに日光に当て、人間のふけや髪の毛、害虫の糞などを叩い落とすことも大事です。
ちなみにこの時代の平均的な寿命男性が33歳、女性が27歳で40歳を過ぎると老人で、60歳過まで生きられたのは全体の5%以下でした。
人間50年どころか30年なので15過ぎたら行き遅れと言われるのも納得というものでしょう。
その中でも武士が比較的長生きしていたのは肉食や玄米食をしていたのと体をちゃんと動かしていたからでしょうね。
この時代の疫病としては有名な豌豆瘡(現代の天然痘)、赤斑瘡(現代の麻疹)赤痢、咳逆(現代のインフルエンザ)労咳(いわゆる結核)、瘧(マラリア)癩(現代のハンセン病)などがあります。
その他としては中風(脳卒中)、消渇(しょうかち=糖尿病)、脚気などがありました。
性病は淋病はこの時代すでにありました。
ペスト、梅毒、コレラ、エイズ、エボラ、などはこの時代の日本にはなかったかあっても目立たない存在でした。
ペストはモンゴル軍がインドを攻撃したあと、ヨーロッパ方面に進むとともにヨーロッパで猛威を振るい、梅毒はコロンブスのアメリカ発見後に世界中に広まり、コレラはイギリスのインド植民地化後に世界で猛威をふるう事になります。
ペストやコレラはインドの特定地域の風土病だったのですが仏教的な交流や交易などで東西に広がることになります。
というわけで木曽松本においての庶民の埋葬場所を村々において制定し、病気により死亡の場合必ず火葬にするように村にふれて回ることにしました。
遺体を川に流したり河原に積んだりするのは禁止し、埋葬を徹底するのです。
人間の遺体を使って肥やしや硝石を作ることも出来ますが……まあ倫理的に問題も有りますしやめておきましょう。