手回し扇風機と水車を使った自動機関
さてさてとある夏の日のことです。
本日は月のものが二日目なので屋敷でじっとしていることにしました。
生理痛もひどいし出血も多いしこういう時に女の体というのは不便なところです。
月帯と呼ばれる生理用の女性用ふんどしみたいなもの下に折りたたんだ布を当ててじっとしているわけですが…。
「もーお、暑いし蒸れるし水浴びしたいよぉ……」
この時代は2000年頃よりも平均的な気温が3度から5度ほど高く、奥州などの東北地方では豊作が続いた代わり西日本では旱魃の被害が度々出ていました。
寝殿造りが壁がなくやたらと風通しが良い作りになっているのも夏の暑さ対策のためです。
「あーもう、何か暑さをしのぐいい方法はないですかね」
パタパタと扇で自分を扇ぎながらしばし考えます。
クーラーなどのような電化製品はもちろん無いですし……。
夏に備えて今度氷室でも作りましょうか。
春先に山に残っている氷雪を山中の掘った大きな穴や洞窟の中にわらで包んで地に埋めておけば案外溶けずのこっているものですからね。
とは言えいまはないものを考えていてもしょうがありません。
扇風機は電気がないから無理ですが、扇風機のような形をしたものにぐるぐる回す取っ手をつけて回せばいいような気がします。
早速私は設計図を書くと下人に命じて作ってみました。
要は扇を回転する軸に斜めに取り付けそれを取っ手で回せばいいはずです。
そして構造は簡単なので案外早くできました。
これで取っ手を回して風を送れば涼しくなるのでしょう。
早速取っ手を回してみたのですが……
「……自分の方に風が来ない」
扇風機の後ろに取っ手をつけたのが間違いでしたか。
扇風機の横に取っ手をつけ歯車で回転を伝達するようにしてみます。
「……むしろ暑くなった気がします」
考えてみればいくら風が来ても自分で取っ手を一生懸命高速で回せばむしろ暑くなるのは当たり前でした。
「発想自体は間違っていない気がするのですよね、うーん……」
もう少しかんがえてみて、取っ手の側に大きな径の扇側に小さな径の歯車をはめてみてはどうかとかんがえます。
早速作り直して回してみましたところ
「おお、これは涼しいですね」
取っ手を回すときに力は多少必要ですがしゃかりきになって回す必要がなくなりました。
これがあれば皆涼しく過ごせるでしょう。
私は下人に命じて同じものを幾つか作ると、義仲様や木曽屋敷以外の義仲様の逗留される屋敷に送ったのでした。
その結果が好評だったのは言うまでもありません。
まあ、普通は下人にやらせるのだから自分でなんとかしないといけない理由はないのですが。
そういえば水車と歯車を使っていろいろな作業を行えばだいぶ楽になる気がしますね。
回転式の石臼や木臼と杵を使って穀物の脱穀や製粉をしたり、原木を水車の回転やピストンを使ってのこぎりを動かして切断し木の製材をしたり。
樹の皮を砕いてそれをすいて和紙を作ったり。
蚕の繭から絹糸や麻の葉から麻糸を作ったり、機織りをしたり。
溶鉱炉のふいごを吹かせたり、刃物の研磨や鉄の棒を挟んで伸ばしたり一定の長さに切断し、釘や針をつくったり。
植物油の圧搾に使ったり。
これらも早速作るとしましょうか。
私は設計図の作成にとりかかり、大工衆を呼び寄せて川沿いに水車小屋を立てさせたのです。