鶏と家鴨と果樹と胡桃
さて、国を支えるのは人であり人の生活を支えるのは衣食住と
その上で余裕があれば娯楽ということになります。
つまり食べるものの確保が安定すれば兵や職人を確保するのも楽になるというものです。
この頃の食事の主食は穀物で米
大麦、小麦、カラスムギと言った麦
アワ、キビ、ヒエ、ソバなどの雑穀です。
貴族階級は主に白米を主食としていましたが
麦をうどんやそうめんのような麺にして食べることも多少はありました。
そして武家階級は玄米や麦飯、もっとまずしいものは米に雑穀を混ぜて食べています。
ちなみに玄米や麦飯、雑穀入り飯のほうが栄養的にはバランスが取れるのですが。
主食の栄養を補完するものとして豆類やイモ類が添えられました。。
豆類は大豆、小豆、黒豆など
芋はじゃがいもやさつまいもはこの時代はないので
山芋や里芋、自然薯などになります。
野菜のメインはウリ類で、青瓜、白瓜、冬瓜、
熟瓜、黄瓜、瓢箪などです。
南瓜や西瓜はまだこの時代の日本にはありません。
おとなりの中国には有りますけどね。
そのほかにねぎ、ニラ、にんにく、らっきょうなどの蒜類
大根、ごぼうなどの根野菜、油菜、高菜、野沢菜、芥子菜、青菜、茄子、蓮根などの野菜
せり、ジュンサイ、ふき、ワラビ、ゼンマイ、うど、タラの芽などの野草
更にたけのこ、きのこ類といったものが添えられています。
魚は海の魚はイワシ、ニシン、タイ、カツオなど。
川の魚はアユ、コイ、フナ、サケなど。
貝類はハマグリ、アサリ、シジミ、アワビなど。
その他イカやタコ、スッポンなども食べています。
海藻類は昆布やワカメ、ひじきなどです。
肉は雉、山鳥、鳩、鴨、鶉、カモメ、ウミネコ、スズメなどの野鳥
その他は山ではシカ、タヌキ、イノシシ、ウサギ、クマ、アナグマ
海ではアシカ、アザラシ、クジラ、イルカなどの野生動物が食べられています。
果物は桃、李、梅、柿、梨、枇杷、蜜柑、石榴、柚子などです。
また信濃以外ではあまり食べられていないのですが
蜂の子、イナゴ、ザザムシ、カイコのさなぎ、ゲンゴロウ、タガメ
カミキリムシの幼虫などといった昆虫や蛙も食しています。
ミツバチが集めた蜂蜜も食用とされていますね。
味付けに用いられる調味料は主に塩と酢、大豆を発行させた醤というしょうゆの原型になったものと、味噌、わさび、山椒などでした。ただこの時代の味噌は結構高級なものされていました。
信濃の主な穀物は米と麦と蕎麦です。
米のメリットは収穫量が多いことと連作の障害が起きないこと。
デメリットは水を大量に必要とすること、そのための用水路などの
整備が大変なこと、泥水の中での作業が大変なこと。
寒さに弱いことです。
蕎麦や麦は冷害や旱魃に強く更に蕎麦は成長が早いため年2回収穫でき
脱穀がたやすいというメリットがあります。
米に比べると収穫量は落ちますけどね
また蕎麦には米や豆のフィチンによるミネラル欠乏症を防げるというメリットも有ります。
ちなみにこの時代は蕎麦も米と同じように煮炊きしてたべ麺にしてたべるわけではありません。
「ふむ、そう考えると最初に手に入れたほうがいいのは鶏と家鴨ですね。
あと扁桃(いわゆるアーモンド)や胡桃みたいな木の実が
あると良いのですけど。食料元としても絹の元としても蚕は大切ですし
蜂が巣を作る場所やタガメやゲンゴロウを飼える池もあったほうがいいでしょうか。」
この平安時代末期において鶏も家鴨、合鴨も存在しましたが鶏は主に鑑賞や闘鶏などに
家鴨や合鴨は鑑賞に用いられ食用にはされていませんでした。
この時代の貴族階級では鶏の肉や鶏の卵を食べると悪いことが起こると信じられていますが
実際として卵というのはとても栄養価が高くビタミンやミネラルが豊富な食べ物ですし
鶏は牛や豚などに比べて糞の匂いが少なかったり食べさせる餌が少なくてすむ上に
ある程度の広さのがあればたくさん飼うことが出来ます。
田植えの6日後に生後2週間の家鴨や合鴨の雛を水田に放し飼いにすれば
雑草や害虫をなどを食べ水田を綺麗にしてくれますし
泳ぎながら水田を掻き回してくれることによって
水を濁らして水温を上げ稲の成長を助けさらに、
稲についている虫をアヒルが食べる接触刺激が
稲に作用し茎を太くしてしっかりした稲を作り
さらに家鴨や合鴨の排泄する糞尿が肥料になるのです。
一見良いことずくめですが雛でない家鴨や合鴨だと
稲も食べてしまうので1年以上立った場合は
雛を生ませるか卵を取るか食肉にするしかありません。
が水鳥の羽は断熱効果が高くたくさん集めれば羽毛布団が作れるかもしれません。
しかしなにせ今は力こそ全ての時代です。
そして鶏や家鴨や合鴨は飛べません、誰かに取られてしまったら堪ったものではないです。
「柵を作るとともにやはり田の近くに舎を作って管理した方がいいでしょうね。
狸や狐に襲われないとも限りませんし
日が出たら放し、日が落ちる前に戻すようにしましょうか。」
もちろん鶏と家鴨は別々に飼わなければなりませんが。
鶏は気性が荒く攻撃的で水はあまり必要ないですが
家鴨はおとなしく従順な代わりに臆病で水を大量に必要とします。
義仲様に相談したうえで許可が得られたら早速手配するといたしましょうか。
「(かくかくしかじか)というわけで食料の入手を安定させるために
鶏と家鴨の飼育や果樹を屋敷で育てたいのですがを如何でしょうか?」
私の話を聞いた義仲様は少し考えたあと
「ふむ?鶏や家鴨を大量に手にいれ飼いたいと?あとは庭に木を植えるのか?」
「は、兵力を増やすには食料が不足しないようにしなければならないと私は思います。
そのため一環とお考えいただければ。」
義仲様が首を傾げながら答えました
「まあいい、この屋敷の管理者は巴だし、巴が良いと思うならそれを早速実行してくれ。
適当なところで結果も教えてくれればそれでいい。」
「かしこまりました、ありがとうございます。」
さっそく鶏と家鴨を集め野犬や狸などに襲われぬように小屋を作り
食用昆虫や蛙を飼うための池を造成することをはじめました。
鶏は確か京の都に七条修理太夫信考という人がたくさん飼っていたはずです。
例の人買い商人に掛け合って木の苗ともども手に入れてもらいましょう。
人を使いに出して彼に連絡を取り、しばらくして鶏12羽(雄3羽:雌9羽)に家鴨12羽(雄3羽:雌9羽)。
そして桃、李、梅、枇杷、柿、栗、銀杏、梨、石榴、胡桃、扁桃、柚子の苗などを携えて
若狭屋の広幡善治が木曽の屋敷にやってきました。
大量の銭と引き換えそれを受け取ります。
にこやかに彼が引いてきました
「毎度ありがとうございます、こんなところでよろしかったですか?。」
「ええ、ありがとうございます。
思っていたよりだいぶ早く手に入って助かりました。」
「これくらいならば私にとっては難しいものではありません。
今後とも若狭屋ををごひいきにどうぞ。」
・・・
「うふふ、これでゆで卵が作れますね。果樹や胡桃はしばらく先でしょうけど。
まあ種からに比べれば苗からなら多少は育成期間が短縮できますね。」
なにせ桃栗3年柿8年、梅はすいすい13年、柚子は9年でなり下がり、
梨のバカめは18年、銀杏の気違い30年です。
もっとも挿し木や接木をすればさらに短縮することもできるはずではありますが。
胡桃の成長は早いはずなので実がなったら種を分けて回ってもいいかなと思っていますが。
また信濃には多く自生しているさるなしも植えてゆきます。
これはミニキウイなどとも呼ばれる果実を実らせる木で熟した果実はジュースにも出来ます。
またツルは非常に丈夫で腐りにくく吊り橋の材料にも使用できます。
更に山葡萄を庭へ移植します。
うきうきしながら私は小屋へ鶏や家鴨を入れ、苗を屋敷の適度な場所に埋めていったのでした。
池の造成にはしばらく時間がかかるようです。