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青生生魂(あぽいたから)

 さて私は私の部屋へ戻り考えました個人的強さを求めるのなら武器防具の強化を行いたいです。


「何を考え込んでいるのですか、巴様」


 小百合が悩んでいる私へ声をかけてきました。


「え、あ、うん、私が強くなるにはどうすればいいかってことを考えててね」


「今以上に強くですか?」


「うん」 


 この時代の主武器は竹を張り合わせた大弓で太刀は副武器。


 足軽は打ち物である長刀などでした。


「大弓の威力を強くするならもちろん、3人張りではなく4人張り、5人張りといった物を仕えるようにならないといけないけど」


「5人張りといえば源為朝並みということになりますが」


「為朝という人間ができたことが私にできないわけがないと思うの」


「ああ……まあ、そうですね」


 とはいっても弓を強化する方法は弓自体の「3人張り」とか「5人張り」といった、つるを張るときに必要な強さを変えるしかないのです。


「となると太刀と刺刀(さすが)を何とかしたいと思ってるんだけど……」


 刺刀というのは組討のときに使う補助の短刀です。


  後の打刀と脇差しに相当するものですね


 さて、太刀と刺刀を強化するにはどうすればいいでしょう。


「何かいい方法があるのでしょうか?」


「うん、青生生魂ってたぶんあれだと思うから…。

 ただいろんな意味で危険なのがちょっとですけどね…」


 青生生魂の原材料はおそらく銅と青い石です。


 厳密には緑ですけど日本は緑も青に含めることが多いんですよね。


 そして緑柱石というのは淡い青から淡い緑色です。


「たし美濃国の近衛家の荘園である遠山荘あたりに緑柱石が取れる鉱山があったはずですね」


 さてもうひとつが問題である


「水銀がこの時代不老長寿の薬だと一部では思われてるんですよね。

 信濃に水銀の鉱山はないですし。

 そこまで希少というわけではないのがまだ救いですが」


 こういうときは困ったときの商人頼みですね。


 例の人買い商人にあてて文を送ることにしました。

 翌日は蚤を使って凝灰岩を切り出してきます。


 その後3日ほど経ち例の商人が屋敷に訪ねてきました。


「お久しぶりでございます、巴様。

 今回のご入用は緑柱石と水銀と聞きましたがいかほどお望みでしょうか?」


「はい、ともに四両分売ってほしいのですがありますか?」


「ええ、大丈夫でございます。

 水銀一両が200文でございますが

 今回はなにと引き換えにいたしますか?」


「では、玄米4石でいかがでしょう」


「結構でございます」


「あと、水銀を少し入れられるお椀の青銅器か陶器がほしいのです」


「青銅器か陶器ですか。

 玄米一石といったところですがよろしいですか?」


「ええ。かまいません」


「ではこちらをお持ちください」


 そういって渡されたのは陶器でした。


 むむ、やはり青銅器は難しかったですか。


「それではこのたびはこの辺でよろしいでしょうか?」


 そういって去ろうとする商人を呼び止めます。


「あ。

 ちょっと待ってください。

 あなたは唐の大陸から来た秦氏ですか?」


 その言葉を聴くといつも彼が浮かべていた笑みが消えました。


「あなた方は木曽の田舎者と思っていましたが、どうやらそれだけではないようですね」


「はい、と入っても私も詳しく知っている訳ではありませんが。

 現在大陸にあるのは宋国ですね。

 宋国式の治水や灌漑、農作の知識を持っているものを売って頂くことはできますか?」


 彼の目が細められました。


「できないことはありませんが、もちろん御代が少々高くなりますがよろしいですか?。

 男なら15貫文、女なら10貫文といったところですな」


 この人はおそらく大陸との交易も行っており、大陸の人間も売り買いしてるのでしょう。


「わかりました。今すぐではなくてかまいませんのでよろしくお願いしたします」


「では、あてがつきましたらこちらより連絡いたします」


 そういって彼は立ち去りました。


 さてさて、ようやっと必要なものがそろいました。


 まずは、凝灰岩を炭で熱します。


 岩が十分暖まるまでの間、陶器のお椀に少し水銀を取り分け入れた後、銅と緑柱石を少しずつその中に入れていくと粘土の様な状態になってゆきます。


 それを柄を抜いた太刀の全体にきべらで満遍なくぬり伸ばします。


 太刀の茎を鍛冶用のはさみではさんで熱した凝灰岩に押し付けます。


 刀身が熱されるにつれ、水銀の銀色が抜けていくのが見えます。


 はさみでひっくり返しながら両面を満遍なく熱し色が黒緋色になったら凝灰岩からおろして冷やしたあと皮でよく磨き、表面を平らにします。


 その作業を8度ほど繰り返すと緑がかった青色の金属でメッキされた美しい刀身が出来上がりました。


「ふふふ、成功してよかったですね」


 緑柱石というのはベリリウムの入り混じった鉱物です。


 宝石のアクアマリンやエメラルドはこれの美しいものですね。


 そして水銀を使いによるアマルガムメッキをしてみたわけです。


 銅は鉄よりも柔らかいですが、ベリリウム銅は硬度が高く耐摩耗性や耐食性にも優れています。


 要するに切れやすく折れにくくさびなくなるわけです。


 いわゆるメッキの方法である水銀アマルガム焼着法に灰吹法を合わせてみたわけです。


「しかし、頭がくらくらしますね…」


 水銀の蒸気に鉛の蒸気さらに多少はベリリウムの蒸気も混じっているのでしょう。


 そのため私は翌日一日寝込むことになったのでした。

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