Ⅴ
悠が助かってから数日、僕らは死体の埋葬に時間を費やした。農村の惨憺たる状況は、僕らの想像を遙かに越えていた。森や畑など、その至る所に死体は転がっている。それは僕らの手に余るほど、度を超えた数に及んだ。みんな、日が経つにつれ生気を失っていった。
それでも結菜ちゃんは死体を見つけ続けた。自分にしかできないことだと、彼女はがむしゃらに頑張り続けていた。
悠が生きていたことで、秋は以前ほどではないが元気を取り戻した。だが、彼女にとって鮫島さん達の死が、重くのし掛かっているようだった。その証拠に、彼女は外を出歩く事を極力避けるようになった。死体を踏んでしまうのではという恐怖に、襲われているようだった。
悠はというと、後遺症で下半身にしびれが残ってしまった。歩けないという訳ではないが、以前のような機敏な動きは、できそうもなかった。それでも、旅館の中で一番明るく振る舞っていた。秋が元気を失ってしまった分を、補おうとしているようだった。
おじいさんやおばあさん達は旅館の活気の中心になっていた。おじいさん達のおかげで、旅館の平穏は保たれているような気がした。
そして僕は今、母の前に立っている。
「母さん、あの時は逃げてしまって、ごめん」
僕は今まで言いたかった言葉を、母に贈る。
だが、母は僕の言葉に対し、何も言わずにそこに寝ている。それもそのはず。母はもう、死んでいるのだ。布団をかけられ、かろうじてそこに何かがいると分かる。それが今の母だ。
母は家にいた。ダイニングで倒れていた。僕が見た最後の光景そのままに、安らかな顔で寝ていた。
「救えなくて、ごめん」
僕は聞こえるはずもない言葉を贈り続ける。それは、僕の完全な自己満足で、僕の勝手な約束に対する勝手な懺悔の言葉。
「僕は弱かった。自分の恐怖に従って、大事な物を見失った。でも……」
母を置いて逃げてからの全てを思い出す。僕はいつも悩み、狼狽え、迷っていた。でも、逃げる事だけはしなかった。絶対に諦めずに挑んだ。
「あれから僕は逃げなかったよ。母さんや父さんに恥じない行動をしたつもりだ。それで、母さんにしてしまった事を、帳消しにしてもらおうなんて甘えた考えはしてない。でも、そう生きる続けることで僕は示したい。僕の正義を。
そう、僕は見つけた。父さんの信じる正義や母さんの思う正義とは違うかもしれない。いかなる状況でも、みんなの平穏を守る。僕なりの正義」
僕は断固とした口調で放つ。
「このゲームを企画した奴らは、人間を価値のない存在だと思ってる。生きているだけだと、笑ってる。生きている事は、それだけで価値があると、奴らは分からないんだ。僕はそんな奴らが許せない。みんなの平穏を土足で踏み荒らす、悪質な行為を認めるわけにはいかない。奴らから、みんなの大切な平穏を取り戻してみせる。必ず奪い返してみせる」
僕は右目にした眼帯を直し、母に背を向ける。
「見ていて母さん。僕が正義を貫けるか。父さんのようになれるか」
僕は歩き出す。このゲームを終わらせるために。みんなの幸せを奪還するために。
「僕は何があろうと諦めない。絶対に」
僕の戦いは今、始まる。




