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 時は過ぎ、気づけば戦闘が始まって、そろそろ二十分が過ぎようとしていた。【絶幻】を打ち破ってからは、今までの苦戦が嘘のような容易さで、幻天狗のライフ(HP)は削ることができた。その結果、ニ体の幻天狗は僕たちに翼を破壊され、より弱体化していた。


『もう、ちょっと!』

『おいよ!』


 秋と言造さんは息を切らせながらも、鋭く重い斬撃を放つ。赤い綱を付けた幻天狗のHPは残り一割を切る。もう虫の息だ。


「えりゃっ!」 


 視界の右前に、オレンジの幻天狗へ襲いかかる静子さんの姿が見える。彼女の動きは心なしか鈍い。また彼女の後方にいる朝倉兄弟も、肩で息をしながら辛そうな表情を浮かべていた。

 みんな、体力が尽き始めている。常に精神を張りつめたまま、休むことなく動き続けていたのだ。相当疲労が蓄積しているはずだ。もう数分ももたないかもしれない。


『あと一押し!』

『『おう!』』


 僕のかけ声に数人が返答する。

 もう少しで幻天狗を倒せる。ここが正念場だ。


 僕は幻天狗に接近しすぎないよう、距離をとりながら攻撃のチャンスを伺う。幻天狗は片方だけぶら下がった翼を邪魔そうに払って、言造さんに切りかかる。だが、奴の剣は言造さんの強靱な腕力によって強引に弾かれ、腕と共に跳ね上がった。

 そこへここぞとばかりに、秋の繰り出す槍ががら空きの腹部を突く。腹を突き破るように放たれた一閃は、幻天狗のHPをわずか一ドットまで削った。


『快斗!』


 秋の叫びが僕の脳に木霊する。だがそれより早く、僕はスキルを発動していた。目映いオレンジの光が形作られ、それは弾丸のように天狗の頭部に向け放たれる。それはそのスピードを維持したまま、奴の尖った鼻諸共、顔面を焼き払った。火の粉が顔面を境に飛び散り、煙が立ち上る。

 そして赤い綱に身を包んだ漆黒の天狗は、細かい光の粒となって消滅した。


『よっしゃぁぁぁぁ!』

『やった!』


 一体目の幻天狗撃破に喜ぶ面々。その様と重なるように、僕の視界にアイテムドロップとスキルの熟練度が貯まったことを知らせるアイコンが、同時に表示された。

 その時だった。全員の気が一瞬ゆるんだこの瞬間。叩きつけるような爆風が周囲に巻き起こった。


「なっ!」


 僕が言葉を発する時にはもう、僕の身体は宙へ投げ出されていた。

 僕は地面を擦りながら、天狗の石像近くまで転がる。風圧は一瞬でおさまり、すぐに目を開けることができた。

 見れば、僕だけでなく全員が吹き飛ばされていた。


【天墜撃】


 それが、発動したのだと直感する。今までと比べて威力は小さいが、風圧を発生させる技は他にない。翼を無力化すれば使えないと思っていたが、誤算だった。


「があぁぁぁぁぁぁ!」


 耳を劈く叫びが聞こえる。

 天狗はその輝く剣を、朝倉兄弟の幸太に向け突き立ていた。

 僕は立ち上がろうとしたが足の筋肉が震え、すぐに立ち上がれない。いつの間にか足に疲労が蓄積していたようだ。こんな時にもどかしいことこの上ない。僕はそれでも何とか立ち上がる。

 すると、今度は甲高い音が周囲に木霊した。


 スキル【喚き】。誰かが、攻撃を受けようと発動したのだろう。だが、見る限り立ち上がっている人間は僕以外にいない。みんな、予想以上にダメージが大きいのかもしれない。立ち位置から考えて、僕が一番被害が少なかったのは明らかだった。

 幻天狗は地面に蹲る朝倉兄弟から視線を移し、森の方を凝視した。僕もそちらに視線を移すと、そこには結菜ちゃんがいた。

 結菜ちゃんは幻天狗を見つめ、再度【喚き】を発動する。


『ダメだ!』


 僕は咄嗟に思考を飛ばす。それに対し、彼女は落ち着いたまま思考を返す。


『私がこいつを引きつけます。それまでに体勢を立て直して下さい!』


 その言葉を言い放って、彼女はそのまま森の中へ駆けていった。続けて幻天狗も、彼女を追いかけて走り去る。


『待て! 待つんだ!』


 僕は懇願するように思考を飛ばす。だが、返答はない。

 僕は無理矢理に足を動かし、彼らを追おうと試みる。すると、僕の足を誰かが掴んだ。


『待って!』 


 秋だ。彼女は苦悶の表情を浮かべながら、僕を見る。


『快斗、冷静になって。彼女の言うとおり体勢を立て直す時間が必要だわ』


 周囲を見る。みんな、未だ一様に地面に伏していた。奴の攻撃が如何にすさまじいか物語っている。一撃で状況を逆転させてしまった。


『わかるでしょ? 今、彼女を助けに行っても意味ない。ここであなたが追っても、無駄死にするだけよ』

『確かにそうかもしれない』

『なら……』

『でも、行かなければ彼女は確実に死ぬ。それを認めることなんかできない。奴だって瀕死だ。僕だけで何とかしてみせる! 秋! 行かせてくれ! 今、彼女を助けに行けるのは、僕しかいないんだ!』


 僕は有らん限りの思いをぶつけた。そして秋の手がゆるむ。


『ありがとう』


 僕はそれだけ言って、森へと走った。

 必ず助ける。そう誓って。

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