Ⅳ
「上から来るぞ」
「うん」
悠が華麗な剣さばきで魔物を押しのけ、秋が追撃する。
僕たちは秋の祖母達を救うべく、十六夜神社を目指していた。探索チームは計十二人。旅館にいる『ZO』プレイヤーの殆どが参加していた。
「快斗! 気を抜くな」
悠の檄で我に返る。僕はあわてて、空から滑空してくる敵へ狙いを定める。
黒い翼で飛行する【鴉天狗-からすてんぐ-】は厄介な敵だった。子鬼に比べ動きは緩慢だが、上空から襲ってくるため、近接攻撃を当てにくい。遠距離攻撃ができるのは僕だけだ。僕が頑張るしかない。
深紅に輝く炎が魔物の羽を焼き尽くす。
『break!!』
翼を失った鴉天狗は地面に急降下し、プレイヤー達に袋叩きにされる。
何度か狩り続けていると、アイテムが貯まってくる。
鴉天狗がドロップするアイテムはスキル【浮遊-フユウ-】と回復薬だ。【浮遊】は地面を伝うタイプの攻撃を無力化するスキルだ。飛行能力が付与された防具を装備する必要があるため、今の僕らは使うことができない。
稀に【鴉槍】という武器も落とすらしい。秋が装備している槍がそれだ。黒い芯に嘴をあしらった縁が黒く光る。
因みに悠の持つ【緑剣】も、魔物からのドロップだ。蔓が剣の柄に巻き付いているようなデザインで、神聖な雰囲気を醸している。
度重なる魔物の攻撃も一旦止み、一時の休憩時間ができた。
「おっかしいなぁ」
悠は不思議そうに肩を回す。
「調子悪い?」
僕が聞くと悠は首を傾げる。
「よく分からん。妙な違和感があるんだ。剣を刺した感覚が遅れて伝わってくる」
「旅館に戻ったほうがいいんじゃないの?」
僕はそう口にする。
デスゲームのただ中にいる僕らは、万全の状態でなければ死につながる。その不調が彼を危険に陥らせないか、僕は心配でならなかった。
「いいや、大丈夫さ。戦闘に支障をきたすほどじゃない。それに、俺も秋の家族が心配だ。このまま神社へ行きたい」
「でも、今はどんな不安要素も取り除くべきだと思う。自分の体調を把握できるまで待機してるべきだよ」
僕はいつもとは違い、悠に食い下がった。
「快斗は心配性だな。自分の体調は俺がよくわかってる。大丈夫さ。それに、鮫島さん達も一緒だ。危険な状態には陥らないさ」
悠の言うとおり、旅館の人達がいればこの近辺で遭遇する魔物には対処できるだろう。ただ、僕はその油断がどうしても取り返しのつかない事を引き起こすのではないかと、疑わずにはいられなかった。
「それより快斗、結菜ちゃんと何かあったのか?」
悠は無理矢理に話題を変える。しかも、僕にとって痛い所をついてきた。朝のやりとりで悠は気づいていたのだ。
僕は虚を突かれ、どもりながら答える。
「……まあ、ちょっとね。昨日、僕がちょっと突き放すような事、言っちゃって。ちょっと気まずくなったんだ」
すると、秋がぼそりと呟く。
「結菜ちゃんが今朝から寂しそうにしてたのは、それが原因だったのね」
その言葉が僕の心に突き刺さる。結菜ちゃんには申し訳ない事をした。帰ったらすぐに謝ろう。
「快斗は真面目だからな。どうせ、黙っとけばいいこと、言っちまったんだろ?」
悠が僕に言う。
「まあね」
「旅館に戻ったら、しっかり謝れよ。……おっとまた敵だ」
悠の視線の先に黒い塊が何体か浮いていた。
「敵の頻度増えてきてない?」
秋はうんざりした表情で訴える。
「まあ、もう少しで神社だ! それまで頑張ろう!」
そう叫んで、悠は駆けていった。