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 目映い光を伴って、鋭く輝く切っ先が高速に飛来する。

 周囲に蠢く有象無象は、目にも留まらぬ刺突の猛襲に晒され瞬く間に消滅した。


 強いとは聞いていた。ARゲーム経験者はゲームのコツが分かっている。だからこそ、より無駄なく、より安全に魔物を倒すことができる。彼もその延長だろうと。僕は意識せずともそう解釈していた。

 だが、眼前で起きた光景は僕の予想を遙かに凌駕している。明らかに一方的な展開。魔物は彼に攻撃する隙も与えられぬまま消え去った。


「ここに沸いていたモンスターはこれで最後かな」


 鮫島さんは事務作業でも終えたかのように、坦々と告げた。

 早朝から開始された探索は、順調に進んでいた。昨夜のお化け事件があったため、旅館の周辺を一通り見て回ってから(死体などは何も発見されなかった)、今は神社に向かっている最中だ。


 鮫島さんを含む『ZO』プレイヤー達のおかげで、ここまで危険な状況は一度もない。彼らの強さは『RWO』においても発揮されていた。

 僕は戦闘が終わると同時に、撮影停止と思考した。僕の視界にある『REC』という表示が消える。


「動画、撮ってたのか?」


 隣を歩く悠が質問する。


「あとで、鮫島さんの動きを勉強しようと思ってね」


 僕は答えながら、視覚映像をストレージに保存した。『v-memory』を使えば五感情報を記録しておくことができる。カメラのような機器がなくとも、自分の見聞きした物を残しておけるのだ。

 動画や音声を残し、それを分析する。地道な方法だが、少しでもこの状況に適応するために考えついた、僕なりの方法だった。


「鮫島さんがあそこまで強いなんて、知らなかったよ」


 僕が呟くと悠が当然と言わんばかりに返す。


「鮫島さんは元アスリートだからな」

「アスリート?」

「もしかして、何も知らないのか?」

「えっと、鮫島さんが旅館の館長やってるってことは知ってるよ?」

「おいおい! 結構有名だぞ? トップアスリートがプロゲーマーに転身ってニュース」

「ごめん、知らない……」

「何も知らずに、鮫島さんと会話してたんだな」

「面目ない」


 スポーツには興味が無いため疎いんだ、という言い訳を口にしかけて止める。これは純粋に自分が情報弱者であっただけに過ぎない。


 そんな僕に、悠は鮫島さんについて丁寧に教えてくれた。

 なんでもフェンシングの選手だそうで、その整った容姿から、貴公子とまで言われていたらしい。その時代はメディアの露出も多かったらしいが、プロゲーマーになってからは表だって活躍することは無くなってしまったそうだ。


 鮫島さんに会って、どこかで見たことがあると思っていたが、なんて事はない。有名人ならテレビで見ることもある。


「知ってると思うが、『ZO』は自分の『v-memory』に記録されている筋肉量、肺活量、血圧とかの情報をプレイヤーのステータスに反映してる。だから、実際に足の速い人は回避力が高いし、筋力がある人は攻撃力が高くなるのさ。つまり、プロアスリートクラスが『ZO』をプレイすれば、ステータスは常人より高い数値になるんだ。『ZO』で活躍していた鮫島さんだ。この『RWO』で同じように動けるのも当然だな」


 何故か悠は、誇らしげに語った。

 確かに、彼の言うとおりだろう。昨日の話し合いで『ZO』と『RWO』のシステムがほぼ同じという事が分かった。それが事実なら『RWO』における鮫島さんの強さも頷ける。

 すると、先頭を歩いていた鮫島さんが一瞬振り返える。


『そんなにおだてても、何も出ないぞ』


 どうやら聞こえていたらしい。頭の中に鮫島さんの声が反響する。

 鮫島さん達とはパーティーを組んでいるため、お互い思考を飛ばすことができる。


『事実を話してただけですよ!』


 悠はすぐさま返事をした。


『持ち上げてもらっても困るよ。僕はみんなより、スキルの熟練度が高いだけさ』


 熟練度はスキルの経験値みたいなものだ。ベーシックスキルと呼ばれる種類のスキルには熟練度が設定されているらしく、貯まるごとにスキルの能力を強化できるそうだ。

 初期スキルもベーシックスキルに分類されているため、能力強化が可能らしい。強化する項目は三つ程度設定されており、僕の持つ【炎球】なら、『攻撃力』、『効果範囲』、『待機時間縮小』が選択できる。

 因みに鮫島さんは【刺突】スキルの『攻撃力』を一段階上げたそうだ。


『それ、嫌みにしか聞こえませんよ! 熟練度上げて強くなるんじゃ、誰だって鮫島さんみたいになれますよ』


 悠が訴える。


『そう言われてもなぁ。僕を過大評価しすぎだと思うけど』


 鮫島さんは困り顔をしながら答えた。

 確かに鮫島さんの言うように、スキルの強化もプレイヤーの強さに関係するだろう。だが、あの極まった動きはスキルに依るものでは無い。高いステータスと、これまでに蓄積してきた技術。それらがあって初めて、実現するものだろう。

 それから悠は魔物が出現するまで、鮫島さんに強さの秘訣を問いただし続けた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 探索をすること数時間。時刻は十一時を回ろうとしていた。


「一旦、引き返そう。続きは午後だ」


 鮫島さんがそう告げ、みんな元来た道を戻り始める。そんな時、僕は道沿いのずっと先に、人陰を見た。


「あれ! みんな見てください!」


 僕は咄嗟に指を指す。みんな僕の言葉に振り返り、指し示す先を凝視した。


「人だ。生きているプレイヤーがいたぞ!」


 僕たちは、そのまま人影の方へと走って行く。近づくにつれて、人となりがはっきりしてくる。背は低く、白髪頭。色黒の顔に……

 そこで、僕はそれが誰だか気づいた。僕は叫ぼうとしたが、先に隣の悠が叫ぶ。


「じいさん!」


 それは秋の祖父だった。虚ろな目で、右足を引き吊りながら僕たちの方へ歩いている。悠はまっしぐらにおじいさんの元へ走る。

 おじいさんは悠の顔を見て安心したのか、悠の方へ倒れる。それを悠は何とか受け止めた。


「じいさん、大丈夫か!」


 叫ぶ悠に遅れて、僕や鮫島さん達もおじいさんの元にたどり着く。


「あ……」


 消え入りそうな声で呟く。荒い呼吸のなか、必死に何かを伝えようとしている。


「じいさん、どうした?」

「子供たち……ばあさんが……神社に……」


 辛そうに話し続ける。


「このままじゃ……のたれ死ぬ……助けが……」


 そこで、おじいさんは意識を失い脱力した。


「おい! じいさん! しっかりしろ!」


 悠は叫ぶ。


「旅館まで彼を運ぼう!」


 鮫島さんがそう告げると、悠はおじいちゃんを担ぐ。

 それから、急いで旅館へと帰った。

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