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 時刻は二十二時。僕はなかなか寝付けずにいた。目を閉じれば忙しなく襲ってきた事件の数々が、僕の脳内に去来する。


 突如始まったデスゲーム。倒れゆく母。結菜ちゃんとの出会い。紅鬼との戦い。鮫島さん達との会話。おばあちゃんの死体。


 思い返せば、どの場面においても自分は何も出来なかった。

 不甲斐ない。ただそう思う。僕は紅鬼に挑んだあげく、気絶する体たらくだった。

 この悪趣味なゲームがいったいどれくらい続くのか、もしくはクリアするまで続かないのかもしれないけれど……


 どちらにせよ、今の自分では、この世界で人を救う事などできない。

 自分を守ることすら、ままならないのだ。そんな余裕の無い人間に、他人を守れるはずがない。


 悠や秋、そして結菜ちゃんの顔が浮かぶ。

 僕は彼らが悲しむ顔は見たくない。そのためにはこのゲームで生き抜く力や技術(ノウハウ)が必要だ。


 僕は高ぶる感情を沈めようと、部屋を出る。

 外の風にでもあたろうか、と考えていたところで僕を呼ぶ声が聞こえた。


「快斗、さん?」


 振り向くと、浴衣を着た結菜ちゃんがそこにいた。首をかしげ、僕の顔を見ている。


「ああ」

「こんな遅くに、どうしたんですか?」

「昼にずっと寝てたせいかな。全然眠れなくってさ。気晴らしでもしようかと思って。結菜ちゃんはどうしたの?」

「あたしも全然寝付けなくって、意味もなくさまよってたところです!」


 寝付けなくて困っているはずの彼女は、何故かニコニコと楽しそうに話している。

 それから、話しでもしようということになり、僕たちは縁側に二人で腰を掛けた。


「今日は、本当にありがとうございました」

「いやいや、僕は何にも出来なかったから。全部、悠や秋のおかげだよ」


 すると、唐突に彼女は僕の方へ身を乗り出して言い放つ。


「そんなこと無いです!」


 彼女の顔が僕の顔へ接触寸前まで近づく。柔らかな甘い香りが、ふわりと香る。

 慌てて僕は彼女と反対方向に体を傾けた。


「あっっ。ご、ごめんなさい」


 彼女は照れながら、素早く元の位置に戻る。

 僕も照れながら言葉を発した。


「だ、大丈夫」

「ご、ごめん……なさい」


 再度、今度は消え入りそうな声で彼女は謝る。

 彼女のそんな可愛らしい様子に僕は、少なからず癒されていた。

 彼女の印象は落ち着きのある、丁寧な子というイメージだったが、本来の彼女はどちらかと言えば活発な子なのかもしれない。知らない人間に囲まれ、今まで気を使っていたのだろう。 


 彼女は足を庭の方へ投げ出すと、足を左右交互にぷらぷらと揺らし始める。

 少しの沈黙の後、彼女が話を切りだした。


「あたし、目が覚めたら。地面に倒れてたんです」


 きっと、ゲーム開始直後の事だろう。彼女は真面目な声色で話す。


「近くで、車が横転して燃えてました。よく見れば、あたし体中が痣だらけで。多分、その車に乗ってたか、跳ねられたかしたんだと思います」


 僕は黙って話を聞く。深刻な表情で彼女は続ける。


「それに、何でここにいるのか。自分が誰なのか、何一つ思い出せなくて。それで、どうしようと途方にくれていたんですけど。今度は獣があたしの方へたくさん寄って来て。怖くなってがむしゃらに走ったんです。その後は快斗さんの家に逃げ込んで、息を潜めて隠れてました。そしたら、快斗さんに会ったんです」


 彼女はそこまで言って、僕を見る。背丈が同じなためか、ちょうど目線が合う。僕は恥ずかしくなり目線を反らす。


「すごい、心細かったです。すっごい、怖かったです。でも、快斗さんに会えてすごくほっとしました」

「僕なんかが訳にたって、良かったよ」

 僕は彼女の視線を頬に感じながら、偽りのない感想を伝える。

「秋さんに聞いたら、見ず知らずのあたしを助けるって、怖いモンスターに立ち向かったって。あたし、すごい感動して。そんな事、普通はできません! あたしすっごい嬉しかったんです!」

「それは……」


 僕はその時、申し訳なく思っている自分に気づいた。結菜ちゃんが救いたくて、紅鬼に立ち向かったという事実を、僕はどうしても否定したくなる。そう、僕は分かっていた。自分がそんな綺麗な人間ではないことに。

 そんな思いに支配され僕は、感情の赴くままに口を開いた。


「僕は、結菜ちゃんが考えてるような人間じゃないよ。僕は母が襲われてる時も、近所の人達が襲われてる時も、自分の事しか考えないで逃げ回ってたんだ。悠や秋みたいに、友達のために動いてた訳じゃない。僕はそんな自分が許せなくってしょうがなかった。だから、自分の罪悪感を清算するために、君を助けたに過ぎない。つまり僕は、卑怯で自分勝手な奴なんだ。そんな奴の事を、敬う必要なんてこれっぽちも無いよ」


 そして僕は、立ち上がる。見下ろすと、彼女は寂しそうな表情で僕を見上げていた。

 僕は申し訳ない気持ちになる。彼女の僕に対する感謝の気持ちを踏みにじってしまった。僕は最悪のタイミングで、下らない事を話してしまった。

 彼女はそんな僕に対し、何か言葉を投げかけようと口を開く。


「そんな……」

「ここに居ると冷えるから、早く部屋に戻った方がいいよ……ごめん」


 僕は彼女の言葉を遮って言い放つと、これ以上失言しない用、そのまま彼女の前から消えるように歩き去った。

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