プロローグ
初投稿作品です。
至らない点が多々見受けられると思いますが、ご容赦下さい。
感想など頂けると嬉しいです。
思えば必然だったのかもしれない。
僕は幼い頃から、穏やかな環境で暮らしてきた。周囲の人間はみんな優しく、不満とは無縁の生活だった。それを僕は何より大事に思い、今までその幸せを噛みしめて生きてきた。
でも、もしその穏やかな毎日が、忽然と消え失せたとしたら、僕はどうなるだろうか。
今まで見ることすらなかった人間の本性が、むき出しに現れる世界が訪れたら、僕はいったいどう判断するのだろうか。
夜の農村。普段なら虫の声が響きわたる静かな場所だ。だが、今は人の悲鳴や絶叫で溢れている。
凄惨な状況を尻目に、僕はがむしゃらに逃げ続けている。人間ではない、醜悪な魔物に追われて。
頭をただ恐怖だけが支配し、正常な判断を鈍らせている。僕は目の前で襲われている人や道路に数多く横たわっている人を、ただの障害物としか認識していない。どのようにそれらを乗り越えて逃げるかのみを考えている。
ひたすら刺激を避けて感情の起伏に乏しい生き方をしてきた僕は、本能に対し脆弱に育ってしまったのだろうか。
自分に誇りを持って生きていた。立場を問わず状況を問わずに、人を助け人を受け入れる生き方をしようと心に決めていた。だが、その決意はいとも簡単に崩れ去ってしまった。
僕の背後を無数の赤い眼孔が、闇の中で残像を帯びながら移動している。彼らは目に付く人間を手当たり次第に襲っていた。僕もその例に漏れることなく、彼らに目を付けられている。
『さあ、始めよう。魂をかけたゲームを』
その言葉が全ての始まりだったのだろう。今や現実世界はコンティニューのきかない、初見殺しのデスゲームに変わった。
恐怖で足をもつれさせながら、僕は涙を流す。
母を見捨てて逃げてしまった。魔物に襲われている母を置いてきたのだ。後悔してもしたりない。僕はあの魔物に立ち向かうべきだった……
暗闇をがむしゃらに走り続け、気付けば僕は森の奥深くまで逃げていた。
走りながら後ろを何度か振り返る。次の瞬間、蹴るはずの地面の感覚が消え去った。踏み外したとすぐに自覚する。しまったと思った頃には、すでに体が落下していた。そのまま、地面へと叩きつけられ、頭部を強打する。そこで僕の意識は断ち切られた。