骨・茶漬け・結婚
旅行帰りで疲れた身ではちょっとしか書けなかった……。
「……やっと、ここまで来たか」
男は、簡素な墓の前に風呂敷で包まれた何かを置いた。
「ずっと、ずっとお前を待っていた。せめて、ほんの少しでも、お前に会って、この手で触れたかった。……なのに、お前と出会った時には、お前はもう……」
男は小さな風呂敷の包みをゆっくりと解いた。
中に入っていたのは、バラバラになった、細くて白いものの集まりだった。
「せめて、お前の骨だけのでも拾おうと思ってさ。だけど、すまない。集められたのはこれだけだった……」
男は、静かに項垂れて言った。
「酷い話だよな。お前を轢いていった車はそのまま走り去って、止まろうという気配すら見せなかった。俺は、見ちまったんだ……。お前がバラバラになる瞬間を、この目で、見ちまった。自分の見たものが信じられなくて、ずっと、これは夢なのかっと思っちまって……俺は、何も、できなかった。……ハハ、情けないよな、俺」
墓も、骨も、何も語らない。男の言葉に応える者は誰もいない。
「あの日以来、何度も何度も、あの時の悪夢を見た。片時だって忘れることはなかった。だけど、もう俺は……」
男は涙声になって一度洟を啜った後、静かな声で告げた。
「本当は、お前と会ったら結婚しようって言うつもりだったんだ。でも……もう、こんな姿じゃそれも無理なんだよな……」
男は、今度は墓の前に茶碗を置いた。
「これ、お前の好きな梅干し茶漬けだ。冷蔵庫に食材が無いとき、いつも一人で食べてるって聞いてさ。ずっと心配してたんだ。栄養は大丈夫かって。……でも、美味いな、梅干し茶漬け。どうせなら二人で食いたかった。一緒に……食べたかったよ……」
男は墓の前でおいおいと泣いた。
「――気は済んだか」
カチャリと、音を立てて部屋の扉が開いた。男は、パソコンでその面積の大半を占領されているデスクから顔を上げた。
「……ああ、もういい」
男は立ち上がり、流麗な絵柄で少女が描かれた紙の箱を後にした。
コトリ、と音を立てて、バラバラになったフィギアの足が机の上を転がった。