電波・道・ふれあい
更新再開します。
むかーし、むかし。大きな戦争がありました。
戦争で、たくさんのひとが死にました。大きな光が国を燃やし尽くし、しまいには天から流れ星のように降ってくる大きな岩が大地に衝突してたくさんの煙を巻き上げ、分厚い雲が星を覆い尽くしてしまい、ついには太陽の光が届かなくなってしまいました。
もう、戦争どころではない。そう人々が気付いた時には、何もかもが手遅れでした。
人類は文明の粋を集めて作り上げたたくさんの武器で、自分たちの文明を破壊してしまったのです。
そして残された爪痕は……
「俺が――ガンダムだ!」
ガンダムの足に乗った子供が、大きな声で叫びました。
街角にはガンダムがありました。それは、銃や爆弾でボロボロに壊れたビルにそっと寄り添うように、膝を立てて腰を下し、笑う子供たちを見つめていました。
それは、穏やかな顔で羽を休める優しい巨人でした。
「こらこら、大仏様に失礼をしてはいけないよ」
「大仏じゃないよ、ガンダムだよ!」
「ガンダムは我らが街の守り神様だ。我々は敬意を以て大仏様とおよびしているのだ」
もう、ガンダムが動くことはありません。だからこそ、ガンダムは優しい大仏様でいられるのです。旅に出ていた人がこの街に戻ってくるたびに、ガンダムを見て「ああ、ここに戻ってきたなあ」と実感するのです。
ガンダムは、街の心のふるさとでした。
「おかあさん……おかあさん!」
ガンダムのそばで、一人の男の子が泣いていました。
「どうしたんだい、ぼうや」おばあさんが男の子に尋ねました。
「携帯が繋がらないんだ! せっかく、お母さんからもらったのに……!」
「貸してごらん」老人は『携帯』を男の子から受け取って耳に押し当てました。
ですが、『携帯』から聞こえるのはノイズばかりです。
「ダメだねえ。今日は○○粒子が濃いからねえ。携帯無線は使えないよ」
「お母さん、すぐ戻ってくるって言ったのに。昨日の夜には帰ってくるはずだったのに……」
「大丈夫だよ。大仏様にお祈りしてごらん。きっとすぐに会えるから」
「うん……」
男の子はガンダムに向かって手を合わせました。
「不便なものですね。こんな日には通信すらできないとは」
「……そうでもないよ」
近くにいた壮年の男の言葉に、おばあさんは独り言のように答えました。
「本当は、これが自然だったのさ。どこにいても繋がってる、なんて、息苦しくて仕方が無かった。一分一秒を争うばかりの時代で、便利便利といいながら、生活はどんどん窮屈になって……。私もねえ、ちょっと連絡が遅いと上官に叱られたもんだよ」
「上官……? ではあなたは、軍属だったのですか?」
「昔はねえ。あの頃は通信兵をしていたよ。情報はスピードが命、なんて言いながら、暗号化もしなきゃいけない。大変な時代だったねえ」
おばあさんはしみじみと言いました。
「何かを得れば何かを失う。だから逆に、何かを失えば何かを得られる。私はそう思うんだよ。ほら、この大仏様をご覧」
おばあさんはガンダムを見上げました。
「あれはね、○○粒子によってミサイルが使えなくなったから、近接戦闘を行うための兵器として開発されたんだ。あれも元々は人を殺すための機械。……あのガンダムも多くの人の命を奪ったよ」
「でもねえ、そのガンダムは今や子供の遊び場さ。それに、もし○○粒子がなくて電波も通じていたら……私らがここで語り合う必要も無くなってしまう。どこか適当な場所にサーバーを立ててインターネットの掲示板で語り合えばそれで済む話だろう。だけど、それは寂しいと思わないかい? 顔も合せずに何でも決めてしまうなんて」
「まあこうやって道の真ん中にガンダムが立っているのは、ある意味のどかなのかもしれませんが……」
「戦争は悲惨だったけど、いいこともあった、と思うよ。少なくとも、人は戦前よりも力強く、生き生きと生きている気がするのよねえ」
「……かもしれません。あの頃はまだ私は幼かったが、それでも人々は自分の道を見失っているようにも見えました。きっと電子の網は我々が見るには広すぎた。情報が多すぎて、自分を見失っていた」
「電子の海は壊れ、私たちは現実世界へと追い出された。だが、だからこそこうして、道の途中で色々な人と触れ合えるのかもしれない。そう、私は思うねえ」
「そうですね、私たちがこうして巡り合えたのも、きっと何かの縁でしょう」
「そりゃあ大仏様さ。ガンダムが私たちを巡り合せたのさ」
「それならきっとあの男の子も――」
「会えるだろうさ。母親にね」
遠くから、女の人が誰かを呼ぶ声が聞こえる。蹲って泣いていた少年は、パッと顔を輝かせて立ち上がった。
「そう――ガンダムの下で、きっと」
ガンダムの下で――花を咲かせよう。
あなたが、道を見失わないように。
俺が……俺たちが、ガンダムだ!