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三題噺  作者: 執筆挫折マン
3/9

白鳥・眠気・液晶テレビ

これには苦労しました。液晶テレビが曲者。どないせえっちゅうねん。

 むかしむかし、オデットという娘がいました。

 ある日、オデットは花畑で花を摘んでいると、悪魔ロットバルトが現れ、彼女の姿を白鳥に変えてしまいます。オデットは悪魔の呪いによって、月の光のある夜にしか人間の姿に戻ることができなくなりました。

 ある日の夜、白鳥の姿で湖を泳いでいたオデットは、湖のほとりに立っている美しい王子様に恋をします。ですが、白鳥の姿をしたオデットには叶わぬ夢。オデットがそう思った時、それまで空を覆っていた雲から月がパッと姿を現し、湖を照らしました。

「ああ、なんと美しい娘だ」

 王子様はオデットの姿に一目惚れしてオデットに迫りますが、オデットは、悪魔によって白鳥に変えられた身の上を話します。

 そして、かけられた呪いを解く方法はただ一つ、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうことだと告げました。それを聞いた王子様は、明日の舞踏会に来るように、とオデットに言います。オデットは必ず舞踏会に来ることを王子様に誓います。

 次の日、月明りで白鳥から美しい娘へと姿を変えたオデットは、舞踏会に行こうと王子様のお城に向かいました。ところが、その途中に、悪魔ロットバルトが現れました。

「城に行けばきっと後悔するぞ。誰のものにもなるな。そうすれば、お前は美しいままでいられる」

 ロッテバルトはオデットに告げました。

「嫌よ、行かせて。私は王子様と約束したの」

 オデットは立ち塞がるロッテバルトを突き飛ばし、お城に走りました。

 お城では、既に舞踏会が始まっていました。王子様の姿を探したオデットは、そこで愕然とします。王子様の隣にいたのは、オデットとそっくりの姿をした娘だったのです。娘はオデットになりすまし、王子様と顔を近づけて永遠の愛を誓おうとしていました。

「離れて、偽物!」

 間一髪、オデットは自分とそっくりの姿をした娘を突き飛ばしました。

「私は、オディール! 悪魔ロッテバルトの娘にして、恋と美を操る悪魔の仔!」

 オデットの姿をした娘は、全てを知った王子様とオデットに向かって、高らかに笑って告げました。

「よくぞここまで来た! あなたの呪いはこれで解けるであろう! だが、本当の苦悩はここから始まるのだ! ずっと呪いという名の眠気まどろみに身を任せていればよかったものを!」

 呪いのような言葉を告げると、オディールは白鳥の姿になって飛び去りました。そして、王子様とオデットは、ついに永遠の愛を誓うことができたのです。


 ついに、呪いは解けました。


 しかし、それは決して、幸福の始まりではありませんでした。呪いの解けたオデットは――誰よりも醜い娘だったからです。

「これは悪夢なのか」

 王子様は苦悩しました。王子様は、美しい姿のオデットを愛していました。しかしそれは、オデットの本当の姿ではありませんでした。白鳥の姿と共に悪魔が作り上げた偽りの姿だったのです。オデットは、白鳥に変えられるまで自分の姿を見たとこはありませんでした。

 醜い姿のオデットを、もはや王子は愛せませんでした。王子様は、まもなくオデットを捨ててしまいました。

 永遠の愛など嘘でした。悲しみに暮れたオデットは湖に向かって涙ながらに訴えました。

「この愛が嘘だと言うのなら、あの日の誓いだってきっと嘘よ。ロッテバルト、私にもう一度呪いをかけて」

 ですが、オデットに呪いがかけられることはありませんでした。神も、天使も、悪魔も、一度口にしたことを翻すことはできないのです。

 絶望したオデットは、とうとう湖の中に身を投げました。それから、その湖は――『白鳥の湖』と呼ばれるようになりました。



「……というわけで、白鳥の湖は感動の話よ。ぜひ後輩君も見てみるといいわ」

「先輩、なに真っ赤な嘘を語ってるんですが」

 液晶テレビの前で熱弁を振るう先輩は、僕の話など聞かない。一人で延々と、捏造話の自己解釈を語り続ける。

「悪魔の与えた呪いは『幸福な夢』だったのよ。でも、夢の中で最後まで幸せになってはいけなかった。なぜなら、白鳥の湖は悪魔の力で幻を映す魔法の鏡だったから。だから、オデットが美しいままでいるためには、ずっと湖の中にいるしかなかったのよ!」

 先輩は熱弁を振るい続ける。後ろの液晶テレビに映っているのはバレエ。演目は――そう『白鳥の湖』だ。

「オディールがオデットと同じ姿をしていたのも説明がつくわ! いいえ、あれはオデットの姿じゃない。恋と美の悪魔、ロッテバルトが作り上げた幻よ! ロッテバルトは、本当はオデットのことを愛していた! だから、自分の作り上げた魔法の鏡の中に閉じ込めて、美しいオデットであることを守ろうとしたのよ!『ずっと呪いという名の眠気まどろみに身を任せていればよかったものを!』とオディールは言ったわ。それは、醜い顔のオデットが現実で傷つき、不幸になるくらいなら、魔法の鏡の中でずっと夢を見て暮らせばいい、ということだったんだわ!」

「もしそうだとしたら、『本当のシナリオ』のほうが幸福な結末だったと思えてきますね」

「本当のシナリオにも大きく分けて二つの結末があるわ。一つは呪いが解けず、二人とも湖に飛び込むバッドエンド。もう一つは呪いは解けて二人は結ばれるハッピーエンド。ハッピーエンドは、オデットが醜い娘でも王子様は愛し続けることができた、ということかしらね」

 先輩はひとしきり語り終えると、液晶テレビの上をポンと叩いて言った。

「そんなわけでソニー製の液晶テレビ、今月からさらに五万値下がりしたのよ。ぜひぜひ買って素晴らしいバレエを見てちょうだいね」









白鳥の湖で頑張ってみましたが液晶テレビェ……。

迷ったらオチはギャグでいくしかない!

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