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「ふ~洗濯終わりっと」
私は真っ白なタオルを木でできた洗濯竿へと背伸びをしてかける。
腕を上へ伸ばし体を伸ばしノビノビとする。気持ちのいい春風が吹き、太陽が照らしポカポカとした陽気であり、眠たくなってくる。誰にも咎められる事は無いので、このまま緑の上に大の字になりたいところだけど、私はそんな事しない。堕落しきっているあの人のようにならないためにも。
洗濯桶を持ち、振り返り、目の前にある木造でできた家の前に立つ。街から少し離れて木々に囲まれているけど、中々快適な生活をおくることができている私の家だ。私以外にもう一人住んでいる人がいるのだけれど、あの人はまだ起きてこない。まったく一日何時間寝ているのやら。もうお昼時だって言うのに本当に堕落している。考えただけで思わずため息が漏れてしまう。
とりあえず私は家の中へと戻り、木のテーブルがある居間の左奥にある調理場で昼食の準備を始めていく。元はとある屋敷でメイドをやっていたので、料理は得意なほうだ。手際よく調理して行き、数十分後には完成する。けどまだあの人は姿を見せない。仕方ない起こしに行くとしようかしら。
中央の部屋を抜け、調理場とは正反対の方向ある廊下へと向かう。この廊下には扉が三つ並んでおり、それぞれ一つの個室となっている。
一番手前にあの人の部屋。次の真ん中に私の部屋。廊下の突き当りにある部屋は空き部屋だ。
その一番手前の部屋をノックする。どうせ反応が無いから無駄な事だとはわかっている。けど人としての一応のマナーだ。
数秒後。やはり反応が無い……。わかっていたけれども思わずため息がこぼれてしまう。
「もぉ~先生! お昼ですよ~!」
茶色い毛布を床に落とし、真っ白いシーツのベッドの上で眠っているおっさ……ゴホンゴホン男の人。
茶色い髪をし、眼鏡をかけており髭はボサボサだ。まさにこの人の堕落ぶりを表しているとも言える。
服装はハクイと言うらしい物を着ており、しわだらけだ。
私はこの人のことを先生と呼んでいる。と言うより呼ぶように言われている。
事の発端は一ヶ月前だ。私はこの近くにある町の屋敷でメイドをしていたのだけど、ある出来事から解雇されてしまったのだ。
それから私が行く当ても無く彷徨っていたところ、不思議と誘われるようにこの森のこの家へとたどりつくことになる。
夕暮れ時にも関わらず、家に明かりが点っていなかったので空き家だと思っていたのにこの人はまだ寝ていたのだ。
行く当てもなかったことだし、なによりこのまま放っておいたらこの人は本当に駄目になりそうだと私の直感がよぎり、頼み込んで住み込むことにしたのだ。その条件として、先生と呼ぶことと、ナース服と言うらしい、ピンク色の服を先生が何も無い空間から取り出し、着るように命じられた。
メイド服に似た可愛さがあったので、着ることに抵抗はなかったのだけど、着替えた後、先生が満足そうにうなずきながら顎に手を乗せ、いやらしい視線を送り、じろじろ見られたのを覚えている。生活を保障してくれた人じゃなかったら、本当に殴っていたかもしれない。今思い出しただけでも手に力が入る。
それでもここでの生活はそれなりに楽しい。たまに私みたいに何かに惹かれるようにこの家を訪れる人も居るし。
あっそうだ。そろそろ先生を起こさないと。まったくたまには自分で起きてほしいものだ。
「先生~! いい加減起きてください。もうお昼ご飯出来てますよー」
「ん……」
何度か体を揺さぶり起こそうとする。しばらくしてようやく先生がうっすらと目を開ける。
「おーエルムちゃん、おはよう。今日も可愛いね……」
そう言い再び目を閉じる先生。その上、私の胸をナース服の上から触る始末。
っ! この人は本当に……本当にっ。
「バカーーー!」
「ぐあっ!」
怒りで震える右手を先生の頭上へと振り下ろす。
こうして私と先生の遅めの一日が始まっていく。