アベさんの過去
アベさんと騎士団との会議に混ざれず、ひとり焚き火の前で武器の手入れをする俺。異世界の巫女ファタリがそんな俺に声をかける。彼女が語るアベさんの過去とは?
#twnovel 異世界なう。外にありったけの台とテーブル出してキャンプファイヤーのように大きな焚火を焚き、全員で夕食。巫女さん軍団は結構な量の食糧も持参しており果物やワインっぽい酒もある豪華なメニュー。侍女の人はアベ邸の粗末な台所でも流石の手際を見せ、クマゴリも高級料理に。
#twnovel 異世界なう。俺は椅子やテーブルは遠慮し、末席にマントしいてあぐら。どうせ会話には混ざれないし、騎士さんとは…なんか壁あるってか。日本ではない感覚だが「身分の差」みたいな?仕事の結果は認めて貰えるがお互いの分は越えないって暗黙の空気を感じる。…正直、居心地悪い。
#twnovel 異世界なう。トレイを直接地面に置いて食べる。旨い!腹減ってたんだ。特に果物旨い!染みる旨さ。とても現実と思えない毎日だが、食って旨いと感じウンコしてスッキリしたと感じる「自分が生きてる感」は現世よりはっきり、鮮やかに感じるんだよな。埼玉生活ではあまり感じない。
#twnovel 異世界なう。食事が終わるとアベさん、騎士団、巫女さんはアベ邸に。軍議?俺は侍女のおばさんと片付け。どんな会議してるか気になる。しかししつこいようだが言葉が…。片付けも終わったが…あの人達の用件、戦いでもあるのかな?グッズのメンテしとくか。朝一出発もありえる。
#twnovel 異世界なう。アベ邸は二人で住むには広いが十人入ると手狭。…やはり会議中か。狩猟グッズのザックと予備の矢弾、メンテ道具の箱を回収し、また外へ。アベさんが目線をくれる。「…ほっといてすまん。」だな。いや仕方ないっしょ。軽く笑顔返しつつ、まあ少し寂しいのは寂しい…。
#twnovel 異世界なう。キャンプファイヤーは崩れ、一回り大きな普通の焚火に。…寒。座るのにいい感じの丸太…とか中々ないのよ。大体森歩いてて丸太に出くわしたことある?これは…太さはいいが長さが。五人は座れる。…この際仕方ない。石は冷たい。火の近く座りたい。うりゃ!引きずる。
#twnovel 異世界なう。なんかこの二、三日で色々あったなぁ…俺の剣、よく見ると傷と脂だらけで微妙に臭い。ワックスとボロ布で一度きつめに拭いて研ぐ。砥石ってレンガみたいなの置いて三つ指付いて…じゃないのな。棒ヤスリとガリガリ君の太グリップ砥石バージョンみたいなので順に研ぐ。
#twnovel 異世界なう。二週間前は東武線沿い行ったり来たりしながらコンビニやファストフードで飯食って録画したバラエティ見て暮らしてたのにな。今、異世界の焚火の前で自分の剣研いでる。研げばいいってもんじゃないのよ?知ってる?刃筋が真っ直ぐなるよう研げ具合確認しつつしないと。
#twnovel 異世界なう。日本刀や包丁はどうか分からないけど、俺の剣は峰とか刃とか一律の鋼。刃先とはじっこの尖り具合が斬れ味だから神経使う作業。腕が生半可だからな、道具はせめてベストな状態にしときたい。あ、そだ。家の鍵!革紐付けて首から下げるようにしよ。つい忘れるんだよな。
#twnovel 異世界なう。「隣、座ってええ?」うおうっ!誰?…っつっても巫女さん、ファタリさんだっけ?しかいない。どぞ、とは言ったものの俺この娘ニガテだ。この子見てるとプラスとマイナスの感情がこう…ぎゅんぎゅん渦巻いて叫びたくなる。で態度が、硬くなるのよ?分かる?この感じ。
#twnovel 異世界なう。「昼間はおおきに。すごかったな自分。シマンティの腹ん下潜り込んでや。」いえ、それ程でも。「うちの魔法、祈りに時間かかるやん?自分がシマンティの気ぃそらしとってくれんかったらあのまま全滅やったわ。」…。うーん、この子自体は気さくないい子なんだよな…。
#twnovel 「…言葉解りづらい?」いやそうじゃなく。「自分も大阪から来てんやろ?驚いたやろな、大阪弁しゃべる女がおって。」人の出身地を浪速に決めつけて巫女さんは自分の事を語り始めた。総括するとこうだ。王都神聖庁の大臣の末娘で今回の任の巫女に志願した。流暢な大阪弁は?魔法?
#twnovel 「ちゃうちゃう、魔法って意外に不便やねん。そんな色々思う通りいかへん。」彼女が言うには彼女の世話係の一人が異世界からの来訪者の大阪から来た女だったそうだ。え!その人は今⁈「少し前に死なしたわ。大分ばあちゃんやったさかい。」死んだ?年老いて?帰れなかったのか?
#twnovel 異世界なう。しかも神聖庁とかってこの世界の宗教の偉い人の「るつぼ」だろ?…目の前が暗くなる。帰還フラグがマッハで飛び去って行くイメージ。「ちょ、大丈夫?」…どうでしょう?話題変えよ。あの…アベェさんなんですが、どういった方なんでしょうか?とてもただの狩人とは。
#twnovel 「あぁ、ン・アベェンスグストゥス?」…誰?…アベさんのフルネーム?アベさんそんな名前だったのか。俺ニックネームを更に略してたよ。彼女の話をまとめると。アベさんは下級貴族の次男坊で騎士だった。…やはり。文武に優れ仲間からの信頼厚く、王から直接言葉を貰う程だった。
#twnovel 異世界なう。出自こそ低目の身分だがそれを補うに充分な実力で将来を期待されていた時、事件は起きた。辺境の砦警護の任に当たっていたアベさんの十人隊。深夜近くの村から危急を知らせる村人が。山賊が村を襲っているらしい。隊長は留守。任務は砦の警護。隊長代行はアベさん。
#twnovel 異世界なう。マニュアルでは直近の憲兵隊の詰所に使者を出し、砦を離れてはいけないことになっていた。だがそれでは遅いのは明白。アベさんは決断する。砦に二名を残し、一名は憲兵隊の詰所へ、残り七名でもって即座に村の救援に向かった!いいぞ!それでこそアベさん!かっけー!
#twnovel 異世界なう。村は三十人からの山賊に襲われている。アベさんは三人一組の二班で戦うよう指示、自分は単独で山賊の中を戦いながら縦横に駆け抜け、敵の混乱を誘う。彼我戦力比四倍以上…しかしアベさん達は必死に戦った。一人でも多くの民間人の命を救う為に。それこそ命を賭けて。
#twnovel 異世界なう。夜が明け空が白み始める頃、ようやく遅すぎる憲兵隊が到着。山賊の姿はない。疲れ果て傷付いたアベさん達が立ち尽くすのみ。アベさんの仲間は、一人が腕を失い、一人は戦闘の傷が元で翌日亡くなった。亡くなったのは王位継承権を持つ高位の貴族の子息だった。
#twnovel 異世界なう。アベさんは誰に言われるでもなく全ての責は自分にあるとし職を辞した上、自らへの罰として残る一生を魔の森の住人としてひっそり暮らす事を誓った。騎士にとって任務は絶対。だが民を護る仁の心も不可欠。誰もアベさんを非難も称賛もできず、処遇に異も唱えなかった。
#twnovel 異世界なう。今でも若い騎士への教育課程でアベさんの逸話は必ず語られるらしい。正解はない。だがいざその立場なら決断しなければならない。アベさんのように。…だからアベさん騎士と絡む度に複雑な顔してたのか。…いかん、俺、泣いてる。初恋の先輩似の女の子の前で。でも…。
#twnovel 異世界なう。うぅ…涙が止まらん。いや俺でもそうしてたよアベさん!俺がその死んだ騎士だとしても悔いなしだよ!少なくとも正しい事に命賭けたと思えるよ!絶対そうだよぉ…。誰かアベさんを庇おうって奴はいなかったのか?こんな寂しい場所に追いやって…。…可哀想過ぎる。
#twnovel 異世界なう。アベさんの不遇を想い、ぐすぐす鼻をすすっていると巫女さん、俺を気遣って…歌を歌い始めた。「踊り疲れた〜ディスコの〜♬」…大阪で生ま○た女?何故?あ、そか。先代異世界トリッパーの。くそう、なんか分からんが余計泣けるぞ。焚火の中の薪が、音を立て弾けた。