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絶望はしょっぱくて

光の試練の間に踏み込んだ俺たち。待っていたのは見渡す限りの白い平原。まったく。作った奴のセンス最悪。魔法使いって奴の気が知れん。進むに連れて俺たちの眼前に拡がる異様な光景。訪れる最大の危機!今回ばかりはクリアできる気がしない!これで終わりか?ここまでなのか?俺⁉

#twnovel RPGっぽい異世界なう。最後の試練、だよな。伝承を素直に理解するなら。扉に手をかけたアベさんが一同を振り返ると、小さく頷いた。皆もそれぞれ小さく頷く。キィ、と小さくきしんで扉は開いた。ふわっ、と眩しい光が溢れる!思わず目を細めたが、つぶりはしなかった。…なのに。


#twnovel 異世界なう。目開けてたしその場から動かなかった。アベさんが扉を開け、眩し!と思ったその瞬間!立っていた石造りの広間は消え、全く違う場所に立っていた!真っ白!見渡しても!振り向いても!何が起きたか解らない。アベさんの手は扉を押した形のまま。…やれやれ、また魔法か。


#twnovel 異世界なう。すい、と不安げに寄り添って来るファタリに、ちと笑いかける。こういうの俺二回目だからな。珍しく他のメンバーより、ややゆとりが。試練の仕掛け自体も「扉」の機能に近いものになって来てるってことだろう。残念。ボーナスステージではないみたい。…に、しても白い。


#twnovel 異世界なう。あれのパクリだ。「精神と時の部屋」。でも足元は…砂。真っ白な。空?も一様に白く光ってる。作成前の3DCGの空間みたいなイメージ?一瞬俺たちがワイヤフレームになったり…はしないが。広い…てかどの方角も白い地平線だぞ?マトリックスで武器の棚が来る前状態。


#twnovel 異世界なう。いや、一個異物が。空に太陽みたいなのが光ってる。なんか白く光ってて…大きくて遠いのか、小さくて近いのか…距離感と大きさが掴めん。相変わらず気持ち悪ぃなあ!魔法が絡む出来事は。ファタリの自然現象増幅系魔法に気持ち悪さがないのは元が自然現象だからだろう。


#twnovel 異世界なう。呆気に取られるメンバー。みな不安なんだろな…俺は溜息を一つつくと、わざと大き目に笑った。みんなが驚いて俺を振り向く。あ、すんませ。俺がこの世界に来た時と一緒っす。俺はまだ生きてます。みんなも元気で生きてる。…これからどうします?じっとしときますか?


#twnovel 異世界なう。「…そやな。じっとしてても始まらん。移動しよ。あの太陽みたいなもんを目指そか?…他に目印になるよなもんも見当たらんしな、やて。」うん、いつものアベさんだ。メンバーもそれぞれ頷く。あの太陽自体が移動したりして…と、ちょっと思ったが黙っといた。


#twnovel 異世界なう。ひとしきりうろたえて、あの太陽を目指す判断をするってのはこのステージをデザインした奴の意図通りな気はする…通常のゲームならシナリオが進行する訳だから「ははぁん♪」て感覚なんだが、この場合行った先が「死の罠」って可能性もあるからな…手放しでは喜べない。


#twnovel 異世界なう。まぁ、ここまでさんざっぱら手の込んだ試し方しといて、最後に槍だらけの落とし穴に落とすようなマネはしないだろう。だったら入ってすぐ落とし穴でいいし。ただなぁ…例の『試練を越えし者の魂を…』みたいな展開はあり得る。だったらムカつく。扉壊して引き返そう。


#twnovel 異世界なう。とは言え例によって選択肢はない。じっとしてても食料と水がなくなったらどっちみち終わりだしね。ここまでは…バッドエンドのフラグは踏んでない気はするんだが…シュールなライターのシナリオだと何をどう踏んでもシュールに終わるからなぁ。結局、製作者次第、か…。


#twnovel 異世界なう。基本は森と同じ。アベさんの号令で一時間程度歩いて十分程度休む。三回目の休憩は大休憩で一時間程度休んでメシ。足元砂だし、そんなもんだろうな。案外普通に長く歩かされるだけで、出口の扉が見えて来るかも知れないし。取り敢えずその、良いイメージを抱いて歩こ。


#twnovel 異世界なう。二回目の休憩。景色変わらない。みんななんも言わない。んー…こういう「間」って埋めたくなるが、空気はやめろと言ってるな。ふとファタリと眼が合う。うちは大丈夫やで、って感じで微笑まれたから反射的に微笑み返したが…恋人同士みたいだと意識して照れた。


#twnovel 異世界なう。三回目の休憩。景色その他に変化なし。硬いジャーキーを皮袋の水で流し込む。…疲れてるからかな。いつもよりしょっぱく感じる。旨くはない。そういやこの世界に来て初めて食べたものがこのカッタいジャーキーだったっけな。目玉ヘドロから助けられた後、アベさんと。


#twnovel 異世界なう。砂地の長距離行はふくらはぎと足首にクル。しっとり熱いってか重いってか。比較的軽装の俺でもそうなんだから騎士ズはしんどいだろうな。装備は作戦によって吟味すべき…あ、でも吟味してあれなのか。実際ボス戦とかもあったから妥当じゃないとも言い切れないしね…。


#twnovel 異世界なう。ファタリの巫女姿…やっぱこの子はこのカッコのが似合うってか、こなれてて収まりがいいなぁ。疲れたか?ファタリ。「んーん。平気や。…にしてもまた、行けども行けども、やなぁ。階段ん時みたいに堂々巡り、じゃないよな?」…ありうるな。何か目印つけとくか?一応。


#twnovel 異世界なう。俺は黙って立ち上がると剣を抜いた。みながサッと緊張する。あ、ごめ、大丈夫っす。階段の時の事もあるんで念の為、地面に目印を。みなの輪から少し離れ、白い砂にでっかく書いた。「HOPE!」…トランクスのマネ。欧米か!ってツッコミを最後に聞いたのいつだっけ?


#twnovel 異世界なう。「なんて書いたん?」…希望、って。「…ヒロ、その言葉、好きやなぁ。」…好きとかじゃない。多分、必要なんだ。のっぴきならないレベルで。花に水が必要なように。体に食べ物が必要なように。俺たちの心には、希望が。…キザすぎ?「うん…そうやな。ほんまにそや。」


#twnovel 異世界なう。五度目の休憩。何キロくらい歩いたかな。人間の大人の歩行速度が約時速4キロだったよな。足場が砂なのと疲れ具合をさっぴいて、時速3キロ換算で…15キロか。くそ!造った奴!せめて『海老名SAまで2km』とか『ここまでをセーブしますか?』とかなんかないのか?


#twnovel 異世界なう。六度目の休憩。これで手持ちの食料も尽きる。だが景色に変化が。遠くにぽつぽつ白い岩みたいなものが見え始める。…堂々巡りではなかったか。みな疲れの色が濃い。当然か。アベさんとか…「すまん、ヒロ。おんぶしてくれへんか、やて。」とかなってもおかしくない。


#twnovel RPGっぽい異世界なう。白い平原に白い岩。表面微妙にキラキラしてるな。雲母?大きいものだと一抱えの…大っきめのスイカくらい?小さいのは拳大。形も様々。微妙に長い奴もある。一様に角は無く、粉っぽい。…てこれ、もしかして。剣の腹でえい!と叩くと塊自体がぐずっ、と。


#twnovel 異世界なう。砂岩…にしても脆いな。それにこの砂、触るとなんかベタつきが…まさか、これ。ぺろ。…しょっぱ!塩!間違いない。ってことはこの砂漠自体…全部塩⁉ 何億トンあんだよ⁉ …魔法使いの考えることは解らん。数値入力の時に寝ぼけてテンキーのゼロ、押しっぱなにした?


#twnovel RPGっぽい異世界なう。塩の塊が点在する塩の平原。沈黙の行進が続く。あー…空気重い。俺、観てなくてもテレビつけっぱなにする派だから長い沈黙自体ニガテ。歌でも歌うか、一発ギャグでも言いたいが、ここでも言葉の壁が。ファタリとしりとりでもすっか?それも…なあ。


#twnovel 異世界なう。リンゴ「ゴナ・ラブロ」ろうそく「クゥディッス」…とかなりそうで、しりとりやったぞ感は恐らく皆無。まあ沈黙さえ埋まればいいっちゃいいんだが。…あ、あの塩の柱、ぼんやり人間みたいなシルエットだな。いつまで続くんだ、この行進。かれこれ20キロは歩いてるぞ?


#twnovel 異世界なう。あ、あの塩の塊なんか、四つんばいになった人間みたい。…こっちは…何かから逃げてる人間みたい。あれは…ちょっと待て。…進むに連れて…手足、頭がはっきり。これ!人間の形!…ていうより、まさか。いや、でも!塩にされた…もとは生きた人間ってことか?これ全部?


#twnovel 異世界なう。他のメンバーもその異様さに気付いたようだ。はじめ角のないぼんやりした人型だった塩の柱は、進むに連れてディテールのハッキリしたリアルな人間の彫像に。うわ…これなんか、なんか叫んでる口の中の歯やベロまで…怖!この人達に何が起きたんだ?…胸騒ぎがする。


#twnovel 異世界なう。何かに襲われてこうなったなら…その『何か』は今から俺たちに襲いかかってくるってことじゃ?…動悸が早まる。息苦しい。何が来るんだ?どこから?いつ?「ヒロ。」わぁっ!びっくりしたぁ!あ、ごめんなさい。なんでもないです。…おどかすなファタリ。どうした?


#twnovel 異世界なう。「この人達ってやっぱり…」…多分な。元は生きた人間だったんだろうな。もんすごい手の込んだ、激タチの悪いイタズラって可能性もゼロではないが。…人間を塩にする怪物の伝説とかないのか?この世界に。「ん…怪物じゃないけど。」ないけど?「…古い神話の天罰で。」


#twnovel 異世界なう。ああ、それなら俺の世界にもあったな。罰当たりな犯罪都市みたいのが焼き払われて、その様子は見るな、って禁を破った人間が塩になるって…確かそんな。「こっちもにたよなもんや。太陽神エル・エソォに背いた国の民が、罰の光に打たれ、塩になる、ゆう…」…原型説?


#twnovel 異世界なう。ん?神様、なんの神様だっつった?「太陽の神や。太陽神エル・エソォ。」いや…まさかな。幾ら光の間だからって。空のあれも太陽に似てるけど太古では一般的な魔法照明に違いない。第一俺たち、なんも罰当たりなこととか…その時!騎士団長が悲鳴を上げた。一体何が⁉


#twnovel 異世界なう。騎士団長の足にキラキラ虹色に光る…五百円玉くらいの大きさの「光」が。よく見ると、その光は強烈なスポットライトのようにあの、空の太陽モドキから一直線に伸びている。隊長は後ずさるが、光はそれを追う。足から腰、腹…胸、とゆるゆる登って行く。…これ?照準?


#twnovel 異世界なう。パニクった団長が回りに助けを求めるが、みんな距離を置いて後ずさる。…悪いけど俺も、ファタリをかばいながら団長とは距離を取った。すまん団長…どうしようも…いや!待て!塩の柱には影があるぞ。ファタリ、訳してくれ!団長、塩の柱の影に…とまで言った瞬間‼


#twnovel 異世界なう!バンッと強烈なフラッシュが目を焼いた!咄嗟に目を閉じ、手で顔をかばう。うわ目の前、焼きつきで一面緑色。目をしばたたかせ、やっと回復した視界が捉えたのは足元から塩になってゆく団長だった。こっちを見て、はあはあ荒い息をつく。信じられない、といった顔で。


#twnovel 異世界なう!みんな隠れろ!塩の柱の影だ‼ ファタリが俺の叫びに重ねて叫ぶ!ば、イケメン!団長はもう無理だ、早く隠れ…団長の様子に驚愕したまま立ち尽くすイケメンの背中に、あの虹色キラキラが光るのを俺は見た!バンッ!…ヴァルキュリアス!塩の大地に、イケメンが倒れた。


#twnovel 異世界なう。ファタリをかばいつつ大きめの塩の像の影に…だめだ二人は入れん!人型って遮蔽面積せめえ!ファタリ!ここにいろ!「ヒロッ!行かんといて!」叫ぶファタリを尻目にダッシュ!ジャンプ!ころがってデブの大男の塩の像の後ろへ。…ふう。これで一旦…。くそ!みんなは?


#twnovel 異世界なう!虹色キラキラは獲物を探るように地面や塩の像の上をゆっくり移動してる。アベさん、ファタリ、竪琴の人、俺はそれぞれ別の塩の像の影に身を隠し、息を殺す。団長の悲鳴が響き渡る。見ると太ももまで塩に…思ったより塩と化す速度は遅いようだが、それって逆に残酷だ。


#twnovel 異世界なう。倒れたイケメンは動かない。何かぶつぶつ言ってるのは…祈り、だろうか。奴も足首まではもう塩だ。アベさん、剣を抜いてチラチラ太陽モドキの様子を伺ってるが手が出せ…出せるわけあるかぁっ!なんだこのステージッ‼ クリアできない設定としか思えんっ!ふざけんな!


#twnovel 異世界なう!何が試練だ!嘘っぱちだ!結局手間暇かけて、冒険者を塩にして殺す為の塔なんだ!ここは!…扉も!希望も!異世界も!ない!ここには!何も!くそう…なにが「試すつもりなのは間違いない」だ。なにが「異世界の勇者」だ。なにが「笑顔の魔法」だ…!くそう!くそうっ!


#twnovel 異世界なう。まんまと一杯くわされたんだ、俺たち!相手が太陽の神?光線に当たれば死確定?逃げ場も出口も攻略アイテムもない?100%バッドエンドじゃん!悔しい…今までの苦労はなんだったんだ?何を間違えた?来るべきじゃなかった?悔しい…無力だ。俺。何も…もう何も…!


#twnovel 異世界なう。ファタリを見ると、塩の像の影で小さく縮こまって震えている。…すまん!ファタリ!最後まで護り切ってやれず。こんなことに…俺の脳裏に塩になるファタリのイメージが浮かんで消える。涙が溢れた。とめどなく。無力な俺が悔しく、ファタリの死が…受け入れられず。


#twnovel 異世界なう!その時!太陽モドキに変化が!太陽モドキ本体から小さな光の玉が…子機?ヤバイ!子機はスーッと音もなく俺たちの目の高さまで降りてくると、ふわふわ周囲を巡回し始めた。ちいいぃっ!どうあっても俺たちを塩にする気か⁉ あ?子機!竪琴の人の方へ!逃げろ!ン・ポ!


#twnovel 異世界なう。子機から身を隠すように塩の像を回り込む竪琴の人!いかん!後ろ!本体の照準光線が…バンッ!ポォッ‼ 叫んだ拍子につい隠れてる塩の像に手を付く。ぐらぁって…え!嘘!そんなに力込めてねえぞ!やめろ!倒れないでくれっ!ああっ!願いも虚しく像は倒れた!粉々だ。


#twnovel 異世界なう!アベさん、ファタリが驚いた顔で俺を見る!はは、やっちった…逃げる!他の影へ!子機…こっち来る!ああ…次の影、遠い!あれ、左手なんかあったかいぞ?わ!これ!くそ!虹色キラキラ!やだよう!くう!腕を登って…影、間に合わない!さよならみんな…ここまでか…!

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