巫女さんになんかしたらバチって当たる?
クマゴリとの捨て身の激戦を経て満身創痍の俺。アベさん達ともはぐれ、巫女さんと二人きりで魔の森の一夜を過ごすことに。何を思ったか俺の服を脱がし始める巫女さん。ちょ!なに⁉「うちを…受け入れて。」どうなる、俺!
#twnovel ここ…どこだ?俺、なんで地面に寝てるんだ?空が紅い…夕焼け?考えがまとまらん…ぐるりと首だけを回して辺りを見る…あれ?目のピントが合わね。ぼんやり白い服の小さな女が踊ってるのが見える。妖精か?また出た。非現実的な…現実?違う!思い出した!RPGっぽい異世界なう!
#twnovel RPGっぽい異世界なう。意識がはっきりした瞬間!ズシィンッ!大音響と共に稲妻が落ちた!さっきのは妖精じゃない。遠くで巫女さんが祈りの踊りを。稲妻の落下点ではメラメラと焚き火が燃え始めていた。…派手なチャッカマンだな。身を起こそうとしたその時!いででででででっ!
#twnovel 異世界なう。思わずうめいてまた倒れる。あ、そか…クマゴリラとのガチバトルでボロボロにされたんだっけ。カッコ悪いな、俺。最後は助けるはずの女の子に助けられて。アベさんのようには行かねぇや。…アベさん達、大丈夫かな?無茶振りの人、竪琴の人、侍女さん、無事だろうか?
#twnovel 異世界なう。「ヒロ!気ぃついたん!」巫女さんが駆けて来る。あれ?巫女さんマントは?あ…俺にかけてくれてるのか。どうりでさっきからなんかいい匂いすると思った。「おおきに!ヒロ!おおきに!うちな、ほんまに、ほんま〜っに怖かってん…死んでまうって本気で思ったわ…」
#twnovel 異世界なう。巫女さんは俺にすがるとぽろぽろ涙をこぼし始めた。「ごめんな、ヒロ…ごめん。こんな…痛い目ぇみさせて。」泣かないで、ン・ファタリ。無事で良かったです。「やめてや!ン、なんて!ファタリでええよ。ヒロはうちの命の恩人なんやさかい。」…そりゃお互いさまっす。
#twnovel 異世界なう。みんなは?「判らん…無事とは思うけど、もう日も暮れるやろ?ここやで!って合図と焚き火の口火を兼ねて、カミナリ落としてみたんやけど見えたかな?」なるほど。この子も賢いな…「何?うちの顔に何か付いてる?」や、いい考えだと思って。「やろ?ここで待ってみよ。」
#twnovel 異世界なう。巫女さんは大きな木の近くに焚き火をセッティングしてた。肩を借りて移動。いででっ!いでっ!「大丈夫?」死んではいません。木に寄りかからせて貰い火に当たると、痛みも少し和らいだように感じた。辺りに静かに夜のとばりが降りる。あ、俺の剣!どうしたっけ?
#twnovel 異世界なう。「これ拾っといたで。」あ、剣!ありがとう。気も効くなぁ。暗くなると探せないが、夜にも要る場面があるかもだからな。…もっとも俺がこんなだから、何も来ないことを祈るしかないが。「さて、始めよか?」え?何を?巫女さん、テキパキとおれの鎧や服を脱がし始めた!
#twnovel 異世界なう。ちょ!ファタリ!「ええから!ジタバタせんで!脱がし辛いやんか。気ぃ楽にして。力抜いて。全部うちに任せてんか。」ええ!任せたらどうなるの?上半身裸にされた俺。巫女さんの右手が俺のみぞおちに当てられる。「身構えると効きが悪なんねん。うちを、受け入れて…」
#twnovel 異世界なう。巫女さんの左手がすっ、すすっと宙に何かを描く。巫女さんの唇が微かに動くと神秘的なメロディが流れた。言葉?歌?楽器の音?どれにも似てどれでもない旋律。次の瞬間、みぞおちの手がぼんやりと輝き、温かい何かが俺の中に流れ込んで来る!これ!回復魔法か!すげえ!
#twnovel 異世界なう。俺、回復魔法で治療されるの初めてだよ。当たり前だけど。なんだろ、胸から体の末端に向かって熱めのお湯が流れ込んで行くような感じ?命の力そのものを注ぎ込んで貰ってる感じ。それより何よりこれ、…あ、らめ…すご…気持ち、いい…あはぁ…ちょ、こういうもんなの?
#twnovel 異世界なう。らめら、き、気持ち…うっ…よすぎるぅ。回復魔法やばい、ファタリ、あの、一回、止めて?…巫女さんはやめない。手続き上、途中で止められないのか?…ああっ…溶ける、もう…どうにでもなれ…ってところで、はた!と魔法は止まった。あぁ良かったような残念なような。
#twnovel 「ふう、久しぶりにしては上手くいったやんな?」ええ、そりゃもう必要以上に。「どんな?体の具合。」あ…気持ち良さにかまけて気付かなかったけど痛みがない…おお!立ち上がれる!ってかむしろいつもより体軽いくらいだ!すごいなファタリ!ありがとうっ!「ふふ、見直した?」
#twnovel 異世界なう。屈伸や前後屈など一通りラジオ体操してみるが全く問題ない!ベホマに当たる魔法か。こんな大技使ってファタリは大丈夫?「うち?うちは平気。月の神様の御力を借りての魔法やから…」赤い頬でうつむく巫女さん。どうした?やっぱ疲れが?「…服、もう着てええで。」あ!
#twnovel RPGっぽい異世界なう。焚き火の火でクマゴリラの肉を焼く。通常、ナイフがあるので、肉を捌くのも、肉を刺す焼き棒づくりもナイフの出番だが、今日は無理やり俺の剣で。倒したクマゴリにいつもの黙祷してたら巫女さん不思議そうにしてたよ。…これ、アベさんルールなのね。
#twnovel 異世界なう。道具ザックも通学カバンもかなぐり捨てて走ったからな。マントはクマゴリが谷に投げちゃったし。所持品が鎧と剣のみ。ファミコン期のアクションRPGのキャラかって。…寒い。ぶるっと身震いすると巫女さん、ずい、と寄って来た。自分のマントを二人にかける。…近い。
#twnovel 異世界なう。「大阪の話、聞かせて。」誤解を解いておきたいんだが、オオサカって世界の名前じゃないぞ。街の名前だ。「えー、そうやったん?カオルが大阪帰りたい、大阪帰りたいっていつも言ってたさかい、うちてっきり…」カオル?ああ、先代異世界迷子の。気持ちは解る。…南越谷。
#twnovel 異世界なう。カオルさんと仲良かったんだな。「おもろかったで、カオル。いつも冗談ばかり言うて、うちを笑かしてくれてん。大阪の話も一杯してくれてや。道頓堀、通天閣、阪神タイガース、食い倒れ人形…」あれ?食い倒れの奴ってお店潰れたんじゃ?と思ったが黙っといた。
#twnovel 異世界なう。「ヒロはタコ焼き食べた事あるん?」ああ、まあ。「ええなあ、あつあつで美味しいんやろ?」そだな。今日みたいな日に、友達や好きな人と食べると最高だ。なんか笑顔になる。「ヒロの世界は魔法にあふれとるなぁ。」え?いや…そうかな。「笑顔の魔法や。」どゆこと?
#twnovel 「カオルはいつも周り笑かしてた。タコ焼きは食べると笑顔になる。知ってるで吉本新喜劇。テレビって道具で舞台が観れるんやんな。家族みんなで大笑いするんやろ?」…うん。「USJに行けば神話や物語の世界に入って遊べる、海遊館では世界中の魚が観れる。子供は大喜びやろな…」
#twnovel 異世界なう。「この世界には、そんなもんなんもない。日々生きて、掟や身分に縛られて、病気や魔物に怯えて、年老いて死ぬ。」…「前に扉閉めに行った巫女さん、帰ってこんかってん…」えっ⁉「帰って来たのは騎士一人。傷ついて。その死の床でのうわ言を記したのが今ある伝承や。」
#twnovel 異世界なう。…死んだのか?みんな?「判れへん。帰ってこんかった人らがどうなったのか、どこにも書いてないねん。」みんなはそのことを?「もちろん知ってるで。承知の上で志願した人らばかりや。うちも含めて。」なんで?帰って来れないかも知れない…死ぬかも知れないんだろ?
#twnovel 異世界なう。「なんでやろな?騎士としての使命感、名を上げたい功名心、歌のネタにしたい好奇心…」あ、竪琴の人。「ン・アベェはヒロの為ちゃう?」え?俺の?「ヒロを連れてっていいなら引き受けたる。ダメならこの話はナシや、って。」アベさん…「意外やったわ、あの返事。」
#twnovel 異世界なう。「ン・アベェ自体もっと怖い人やって聞いててん。」そうなのか。「ン・アベェは魔の森に住んで魔獣の肉を食べる内に人の心を失った、いうてな。前に会った人は『冷たい石のような男』って。」へえ…ピンとこないな。アベさん結構優しいし、割とニコっとかするぜ?
#twnovel 異世界なう。「魔法の力やな。」アイテムか?なんか持ってたっけ、アベさん。巫女さんが笑う。あ、今の可愛い…!「ヒロの魔法や。ヒロの世界の…笑顔の魔法。」俺⁉またジョブチェンジ⁈「一緒におったら解るわ。ヒロからは…なんやろな。匂いがすんねん。」慌ててちょっと離れる。
#twnovel 異世界なう。くんくん。体臭は自分でも気になってるんだよ…。巫女さん、また寄って来てマントを俺の肩に掛け直す。「ちゃうちゃう。臭いって事やない。この世界の人にはない、希望の匂い。明るい明日を心から信じてる、爽やかな希望の匂い。」…和田アキ子?いや…自覚ないなぁ。
#twnovel 異世界なう。「ン・アベェを変えたのは、ヒロや。ヒロの一生懸命さや欲の無さ、優しさは、接してて気持ちええ。騎士達もそうやで。たった二日でヒロの事をみんな好きになっとる。それだけやない。騎士達同志の雰囲気も柔らかく仲良うなっとる。」うーん…落とす前フリか?関西式の。
#twnovel 異世界なう。持ち上げ過ぎだ。俺なんて向こう帰ったらどこにでもいる普通の大が…ワカモノだよ。「ほんまにそうなん?誰が来てもヒロみたいやった?あのカオルですら、時々泣き崩れて死んでまいたい、って。」まあ俺は…呑気な方だから。「ヒロじゃなくても、うちを助けてくれた?」
#twnovel 異世界なう。「ィアゴ相手に命賭けて。ボロボロになって。力尽きて谷に落ちそうになってまで…」…するさ。同じ年頃の男の子なら。「嘘やん。泣きわめいて逃げるような人もおるやろ?みんながみんなヒロみたいなわけあれへん。それくらいうちにも分かるわ。」やっぱ賢いな、この子。
#twnovel 異世界なう。「…ヒロ。」巫女さんが潤んだ眼で俺を見る。なんかヤバイ!上手く説明できないヤバさを感じて、俺は質問で返す。ファタリはなんで志願したんだ?今回の仕事。「うち?」大臣の娘さんなら、暮らしに困る事もないだろ?姉さんだっているんだから自分じゃなくても…。
#twnovel 異世界なう。「前に扉閉じに行った人達、どうなったと思う?」さあ…言い辛いけどやっぱ…「他の世界に行ったんちゃうかな?」あぁ。確かにその目もあるか。俺もここにいるしな。生きたまま。「これはうちの想像やけど、扉って『向う側』からしか開け閉めできないんちゃうやろか?」
#twnovel 異世界なう。「…うち、ヒロの世界に行きたいねん。」やべ!今のすげえドキッとした。ちげえぞ俺!オオサカに、ってことだから!「向こうに行って、扉も閉じる。万々歳やろ?」…そうだな。「こんなチャンス二度と再びけぇへん、これやーって思ってすぐ志願してん。ほらこれ。」ん?
#twnovel 巫女さんは襟元の紐を外すとペンダントを見せてくれた。そのペンダントヘッドは…向こうの世界の家の鍵だ。見慣れたシリンダー錠の鍵。「カオルの形見。死に際にうちにくれてん。せめて向こうに持って行こうと思って。」カオルさん…考えることは一緒か。いつ帰れても、いいように。
#twnovel 異世界なう。俺も…あれ?ない!さっき脱がされた時か?…どこ?あ、あった!良かった。服と一緒に脱いだのか。地面に落ちてたよ。焚き火のそばに落ちてたアパートの鍵。巫女さんに見せる。巫女さんはちょっと驚いて、少し笑った。「お揃いやね。」クマゴリがいい焼き加減。食べよ?
#twnovel 異世界なう。クマゴリ相変わらず旨い。巫女さん食事が終わるとすぐ、うつらうつらし始めた。「は、ごめ…魔法、沢山使ったさかい…大丈夫。焚き火の見張り、交代やんな?」いいよ。焚き火は俺が見る。長い昼寝してるし。ファタリの魔法のお陰で絶好調だしな。「でも…」無理すんな。
#twnovel 異世界なう。目的地も近い。主役はファタリだ。眠むっとくのも仕事だろ。「じゃ…歌、歌って。」大阪で○まれた女?聞いて判るが歌えないぞ。「アンパン○ンの歌。」幼児か。…ここでそれ来るかぁ〜。結構いいシーンだがな。台無し。俺の完璧なまでの選曲ミス。ま好きだけどさ。
#twnovel 異世界なう。「だめ?」分かったよ!歌うよ!歌えばいいんでしょ。咳払い一つ。そうだ〜嬉しいんだ♫…ってもう寝てるんかい!早!完全に俺にもたれかかって。すーすー寝息立ててる。あれだな。俺間違ってたよ。この子、先輩に激似って書いたけど全然違う人だ。似てないや、全く。
#twnovel 異世界なう。俺、今までこの子のこと全然きちんと見れてなかった。内面を見ないとみたいなこと言ってその実、完全に外見に囚われてた。この子はこの子の人生を生きて、色々考えてるんだな。この子の想い、叶うといいな。そしたら送って行くよ。大阪まで。一緒に回ろうぜ、大阪名所。
#twnovel RPGっぽい異世界なう。アベさん達と合流できた。前の日の雷の魔法はやはり合図として伝わっており朝イチ総出で迎え来てくれた。あれ?人数…侍女さん、無茶振りさんがいない…まさか!「ン・エレレンナンシュタトは腕を折ったさかい帰した。やて。」無茶振りの人…名前長っ!
#twnovel 異世界なう。「奴も頑張ったで。一人で、ィアゴ一匹倒してん。腕一本と引き換えに。」無茶振りの人…漢。「ヒロに伝言や。最後まで付き合えんで残念や。成功を信じとる。アンパ○マンの魂と共にあらんことを。やて。」…ここでも出ちゃうか。アンパン兄さん。英雄って紹介に語弊が?
#twnovel 異世界なう。侍女さんはケガは大したことなかったが強いショックを受けてて、アベさんがこれ以上は無理と判断したらしい。無茶振りさんと侍女さんに一人ずつ元気な騎士が付き添って帰ったそうだ。減ったな。残るは騎士五人にアベさん、俺、巫女さんか。「ヒロ。」へい!アベさん。
#twnovel 異世界なう。「…話はン・ファタリから聴いたで。よう巫女を護った。立派だと褒めたいが、次からは自分の命も護りや。ええな。やて。」…はい。なんか漫才の師匠にダメ出しされてる感あり。芸が荒いってことか。あ、てか怪我人達、巫女さんの魔法で治せたんじゃ…帰さなくても。
#twnovel 異世界なう。「うちもおんなじこと言うたけど、巫女が魔法を使える状態かどうか分からんのに置いとけん。はよきちんと治療せんと腕の骨が繋がらんようになるって。」あ、そか。助けに行ったの俺だし、最悪助けられてないかも…は考慮するよな。アベさん冷静だ。やっぱ頼りになる。
#twnovel 異世界なう。騎士さん達も見回せば…ボロけてるな。クマゴリ戦の名残りか。ケガとかじゃなく、髪の毛とか鎧とかが。くたびれた感じに。無理もないか。「ン・ヒロ!」あ、竪琴さん。無事で何より。また…何をそんなに早口で?「ン・ヒロとン・アベェの歌を創らせてくれんか?って。」
#twnovel 異世界なう。またそれか…あんたそればっかだな。どうぞ。あ、一応アベさんにも訊いてくださいね。「君ら師弟はめっちゃすごい。きっといい歌になるわ、やて。」んー…なんか歌詞の中で話、盛られそうだな。俺が倒したクマゴリも体長20mで激しい炎を吹くとかになるんじゃ…。
#twnovel 異世界なう。谷から森を進むこと半日余り。森の奥ってこんなんなってたのか。谷もびびったが地形そのものに高低差がある。今歩いてるのは緩い下りの山腹。斜面は平地より疲れが溜まる。「コ!ルゥ!」誰かが叫んだ。「見てみ!…見えたで。ウェルトゥや。」…あれが。ウェルトゥ…。