第53話 「優勝と誇れる風]
「私の負けよ……そして全試合終わったみたいね。優勝おめでとう、ハルト」
「えっ……」
俺は反射的に、壁際に設置された勝利ランプへと視線を走らせた。
赤でも、点滅でもない。
**はっきりと、二つ。**
俺たちのチームに、勝利ランプが二つ灯っていた。
その意味を完全に理解するより早く、俺は椅子を蹴るように立ち上がっていた。
「先輩! またあとで!」
「あら……でも、まぁそうなるよね。おめでとう……ハル……うっ……ト」
背を向けた瞬間、言葉が途切れたのが分かった。
負けが確定し、一人になったところで、樹里先輩は堪えていた涙をこぼしていた。
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控室のドアを勢いよく開けた瞬間だった。
「――来たっ!」
最初に声を上げたのはレンジだった。
すでに結果を見ていたらしい。拳を強く握り、顔をくしゃっと歪める。
「よっしゃああああ!!」
「やった……本当に、やったんだ……!」
カエデは一拍遅れて立ち上がり、胸の前で手を重ねていた。
震える声を必死に抑えながら、それでも目は潤んでいる。
「ハルト……優勝、だよね」
「ああ……優勝だ」
その言葉を口にした瞬間、ようやく実感が追いついてきた。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
全国大会。
三人で掴み取った、優勝。
レンジが俺の肩を思い切り叩く。
「最後、ちゃんと決めやがって。
防風林、来たって聞いた時はヒヤッとしたぞ」
「光で無効化できるユニットが、間に合っただけだよ」
「そのために入れてたんだろ」
カエデも小さく笑って頷いた。
「二人とも……ありがとう。
一人じゃ、絶対ここまで来れなかった」
その言葉に、レンジは照れたようにそっぽを向き、
カエデは「うん」と短く答えた。
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しばらくして、決勝で戦った先輩たちと合流する。
「お疲れ。……ハルト」
そう言って笑ったのは、さっきまで盤を挟んでいた樹里先輩だった。
目は少し腫れている。それでも、その視線はまっすぐだった。
「風で来ると思ったら……光で無効化、か。
やられたわ」
「いい試合でした」
俺が頭を下げると、先輩は軽く手を振る。
「誇りなさい。
今日のお前たちの戦いは、文句なしよ」
そう言ってきたのはマックス先輩だ。
「……二年連続優勝、止められたな」
その横で、リリ先輩が悔しそうに息を吐く。
「あーあ、出来なかったかぁ」
その後ろから、リア部長と顧問の瑞樹先生が歩いてくる。
「やってくれたわね」
瑞樹先生は、いつもの落ち着いた声のまま、ほんの少しだけ表情を緩めていた。
「全国優勝。
簡単に言える言葉じゃないわ。
しかも二年生を倒して、ね」
「おめでとう、ハルト」
リア部長がそう言って、深く頷く。
「チームを背負うっていうのが、どういうことか。
決勝のお前は、それをちゃんと見せてくれた」
胸が、また熱くなった。
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表彰式の時間が訪れる。
会場の中央。
照明の下に立つと、観客席のざわめきが波のように押し寄せてきた。
名前が呼ばれ、トロフィーが手渡される。
その重みが、確かな現実として腕に伝わる。
周囲から、声が飛ぶ。
「次は俺たちが取り返すからな!」
「覚えとけよ、来年は負けねえ!」
「いい試合だった! 優勝おめでとう!」
悔しさと敬意が混じった声。
それが、何より嬉しかった。
そして最後に、MVPの発表。
「――今大会、最も印象的なプレイを見せ、
地区大会から全勝を果たした選手。
MVPは、リリ先輩です」
会場がどよめく。
リリ先輩は一瞬きょとんとした後、苦笑しながら前に出た。
「……まあ、そうなるわよね」
その一言に、笑いと拍手が巻き起こる。
俺は拍手しながら、はっきりと思った。
この大会で出会ったすべてが、
この瞬間のためにあったんだ、と。
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大会終了後、リア部長が会場の表側に皆を呼び集める。
「お前ら、記念撮影だ!
――そして、凱旋するぞ!」
俺はこの大会を通して、
今までの無気力だった自分とは違うのだと、
改めて実感していた。




