第5話「日常と顧問」
カエデに連れられて部活を体験した二日後。
ハルトはついに入部届を提出した。
その日の放課後、エクリプスレイン部の部室には、どこか新しい空気が漂っていた。
ハルトは隣でデッキを整理しながら、カエデとリリ先輩の視線を感じて落ち着かない。
「今日から本格的に部活に入るんだな……」
自分に言い聞かせるように呟くと、カエデがにこりと笑う。
そのとき——
部室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、担任であり部活の顧問でもある **神崎瑞希先生**。
普段通りの落ち着いた雰囲気なのに、その場の空気が一気に締まる。
「皆さん、お疲れ様。今日はちょっと試合をしてもらおうかしら」
「組み合わせはくじ引きにしましょう。同じ記号同士でバトルよ」
柔らかい声だが、不思議と全員の背筋が伸びる。
カエデとリリ先輩が顔を見合わせ、「アチャー」と小さく声を漏らす。
レンジは胸を張っているが、どこかそわそわしている。
「俺が先生とやるのか……!」
「頑張れよレンジ……いや、負けるなよ」
ハルトが小声で励ますと、レンジは自信半分・不安半分の顔で頷く。
「で、俺は……リリ先輩?」
「ってことは、私はリア先輩……」
カエデの顔が少し青くなる。
リリ先輩が淡々と補足する。
「今日はメインデッキじゃなくて“お楽しみデッキ”を使う日なので、普段よりカオスですよ」
そのカオスの象徴が——
すでに後ろでサイコロを振り始めているリア先輩の姿だった。
瑞希先生は静かに微笑む。
「じゃあ、よろしくね。軽く——“日常の中の練習”だから」
レンジと瑞希先生が互いにデッキを構える。
元プロレイナーのプレイを生で見られる。
そう思ったハルトが息を呑んだ、その瞬間。
「リンク!」
瑞希先生の宣言と共に、部室の空気が一瞬で戦場のそれへと変わった。
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瑞希先生の巧みなプレイングにより、レンジは終始翻弄される。
水属性の連携とカウンター魔法でレンジのバーンを完璧に受け流し、
じわじわとフィールドも手札も追い詰められていく。
見守るハルト、カエデ、リリ先輩は思わず息を飲む。
そして——
「水の騎士王でプレイヤーに直接攻撃」
レンジのライフが一気に削られ、静かに決着した。
「今日はここまでね」
瑞希先生は優しくカードを置く。
「良く頑張ったわ、レンジ君。次はもう少し楽しませてもらえるかしら」
「くっ……さすが、先生……!」
レンジは悔しげに頭をかきながらも、どこか嬉しそうだった。
ハルトはその様子に小さく息を吐く。
(これが顧問……圧倒的だ)
そのときカエデがぽつりと呟いた。
「ハルトも早くこの空気に慣れないとね」
「そういえばカエデもバトルしてなかった?」
「え、えっと……負けました……」
「どういうこと?」
「リア先輩とずっとサイコロ振ってたら……気づいたら負けてました」
その言葉にリリ先輩が眉をひそめる。
「リア先輩……またサイコロギャンブルデッキで遊んだんですか」
リア先輩はビクッと震え、肩をすくめる。
年上の余裕はあるが、リリの“呆れ”にはいつも少し弱い。
「え、えへへ……楽しかったし?」
「後で反省会ですね」
リリ先輩が静かに告げると、リア先輩は小さく悲鳴を上げた。
ハルトは思わず苦笑する。
「……りり先輩が一番強いかも……」
白浜リリ先輩はハルトの方を向き、穏やかに微笑む。
「でも、こういう試合を重ねてこそ、部活として成長できるのです。
さて——ハルト君。準備は出来ていますか?」
ハルトはデッキを握り直し、深く頷いた。
「出来てます。次は俺が挑戦だ」
胸の奥に熱いものがこみ上げる。
——戦いの時間が始まろうとしていた。
ハルト「先生強すぎ問題」
カエデ「毎回犠牲になるレンジ君・・・」
作者「元プロだから・・・」
カエデ「私が目指すべき人かも!」
作者「ウン!ソウダネ」
カエデ「???」




