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エクリプスレイン  作者: 鳥雛


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第39話 「静かな夜、考える者」

カードショップから戻った俺たちは、

ホテルのロビー脇にある小さなテーブルに集まっていた。


観光客用なのか、ちょっとした談笑スペースのような場所だ。

時間も遅く、周囲にいるのは他校の選手らしき高校生が数人だけ。


誰も騒がず、

それぞれが静かに明日に備えている――そんな空気だった。


「……思ったより、静かだな」


最初に口を開いたのは、俺だった。


レンジがソファに深く腰を沈め、伸びをする。


「全国って、もっとピリピリしてるかと思ってた」


「昼間で、みんな疲れてるんじゃない?」


カエデが、紙コップの飲み物を両手で持ちながら言う。


「それか、緊張しすぎて喋れないとか」


「それはありそうだな」


俺は苦笑しつつ、テーブルの上を見つめた。


開会式。

一回戦。

勝ったはずなのに、実感は薄い。


「……俺さ」


自然と、言葉が漏れた。


「まだ、全国って感じがあんまりしない」


レンジが少し首を傾げる。


「え? ハルトも?」


「うん。勝ったけど、なんか……通過点みたいで」


カエデは少し考えるように視線を落とす。


「分かる気はする。

 まだ、本当に強い人たちと当たってない感じ」


その言葉に、胸の奥がわずかに締まる。


会場ロビーの巨大モニター。

カードショップで見た、他県代表同士の対戦。


――速くて、迷いがなくて、完成度が高い。


「明日から、だよな」


俺が言うと、レンジが頷いた。


「二試合あるし、相手も今日よりガチだろ」


「一気に来ると思う」


カエデの声は落ち着いていたが、目は真剣だった。


「今日みたいには、いかないね」


少しの沈黙。


同級生三人で、全国の舞台に立っている。

それだけで、正直すごいことなのに。


「……俺」


レンジが、珍しく真面目な顔をする。


「正直、俺も怖いぜ」


俺とカエデが、同時にレンジを見る。


「でも、逃げる気はないだろ?

 ここまで来たんだ」


その言葉は、不器用だけど真っ直ぐだった。


「俺も」


自然と、声が出た。


「分からないままでもいいから、

 明日は全部出し切りたい」


カエデが、ゆっくり頷く。


「同感。

 私たち、同級生だし」


一瞬、空気が和らぐ。


「三人でここまで来たんだもん」


「だな」


「おう」


立ち上がりながら、レンジが言う。


「じゃ、今日はもう寝ましょう。

 明日、全力でやるために」


ロビーを離れる前、俺はもう一度だけ周囲を見渡した。


静かな夜。

それぞれの場所で、明日に備える選手たち。


――この中に、俺たちもいる。


「行こう」


そう言って、俺たちはそれぞれの部屋へ向かった。


廊下に残るのは、昼間の喧騒が嘘のような静けさだけだ。



ホテルの部屋で荷物を置き、シャワーを済ませ、照明を落とす。

ベッドに横になった瞬間、身体は確かに疲れているはずなのに――

意識だけが、やけに冴えていた。


(……カエデたちと意識は合わせることが出来た、明日、二日目か)


天井を見つめながら、今日の試合を思い返す。

自分の判断、デッキの動き、そして先輩たちとの差。


(勝った、けど……

ロビーでは勝とうぜと言ったけど…)


声に出さず、胸の奥で呟く。

勝利の実感よりも、「勝ち続けれるのか」という不安が残っていた。


目を閉じても、カードの効果や盤面が浮かび、眠れない。


意を決して、俺は静かにベッドを抜け出した。

廊下は薄暗く、足音がやけに響く。


「……飲み物でも買うか」


ロビー階の自販機で缶を一本買い、プルタブを開ける。

炭酸の音が、妙に大きく感じられた。


(俺、なんでこんなに緊張してるんだ)


一口飲んだ、そのとき――


「眠れないタイプか?」


振り向くと、そこにいたのはリア部長だった。


「……すみません」


「謝ることじゃない。俺も同じだ」


部長は苦笑しながら自販機に小銭を入れ、

俺たちは並んでロビー脇のソファに腰を下ろした。


「今日の試合、どうだった?」


唐突な問いに、俺は一瞬言葉に詰まる。


「……勝てました。

 でも、正直、自分が上手くやれたとは思えなくて」


「ほう」


「光を入れてるのも、結局“回復できるから”って理由だけで。

 先輩たちみたいに、ちゃんとした勝ち筋を作れてる気がしなくて」


部長はすぐに答えず、飲み物を一口飲んでから言った。


「それ、間違ってないぞ」


「え?」


「生き残るために回復を選ぶのは、立派な戦術だ。

 お前のエースはライフが命だろ。

 それは“自分を映すカード”だ」


俺は、はっとする。


「今日のお前は、ちゃんと盤面を見てた。

 部に入る前から、カエデに話は聞いてる」


「……」


「今のお前は、勝てる選手だ。

 前みたいに、無気力じゃない」


言葉が、静かに胸に落ちていく。


「成長ってのはな、派手な一手じゃない。

 “怖さを自覚したまま、それでも考え続けること”だ」


(俺は……まだ勝ち方を知らない)


でも、同時に思う。


(でも、“負け方”は前より分かってきた)


耐えて、繋いで、次に賭ける。

それは消極的じゃない。

未来を作る選択なんだ。


「勝てた方がいいのは当然だ。

 でも、負けることもある。

 そのときは、仲間を信じろ」


「……はい!」


「明日も早い。さっさと寝ろ」


「分かりました」


部屋に戻る足取りは、さっきより少し軽かった。


不安も、緊張も、消えたわけじゃない。

それでも――


(俺は、考えて戦う)


ベッドに横になり、目を閉じる。


明日、どんな盤面になろうとも。

俺はもう、「何も分からない新人」じゃない。


全国大会二日目は、もうすぐ始まる。

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