表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクリプスレイン  作者: 鳥雛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/48

第38話「カードショップと炭水化物」

観光とカードショップでのデッキ強化を兼ねて、

俺たちは街へ出かけることにした。


グループメールで集合場所を指定し、全員が揃う……はずだったのだが。

一人だけ、待てど暮らせど来ない男がいる。


「……あれ、マックスは?」


沈黙。


レンジが、嫌な予感しかしないという顔をする。


「……そういえばマックス先輩、さっき

『ちょっと外の空気吸ってくる』って言ってました」


「一人で?」


「はい」


その瞬間、空気が一瞬だけ凍った。


リア部長が、額に手を当てる。


「……やっぱりか」


「まさか、もうカードショップ行ってる?」


「十中八九な」


「全国大会初日で単独行動はアウトでしょ」


「止められると思うか?」


全員、即座に首を横に振った。


「連絡は?」


「既読はついてます」


「内容は?」


「『掘り出し物あったら連絡する』」


「完全に観光気分だな……」


ため息混じりに、部長が切り替える。


「仕方ない。あいつは後で回収する。

 俺たちは全員で移動だ」


会場を出ると、ロビーに設置された巨大モニターが目に入った。

そこには、他県代表同士の試合リプレイが映し出されている。


足を止めて見ている選手や関係者も多い。

俺も、自然と画面に引き寄せられた。


――速い展開。

――迷いのない判断。


「……強いな」


ぽつりと呟くと、隣でりり先輩が頷く。


「全国だもん。ここから先は、こういう人たちばっかり」


一方で、レンジは楽しそうだ。


「やべえ、ワクワクしてきた」


「一年生、テンション間違えると怪我するわよ」


樹里先輩のツッコミで、場の空気が少し和らぐ。


リア部長は時計を確認し、歩き出した。


「先に食事にする。その後カードショップだ」


十分後、俺たちは一軒の食事処に到着した。


蕎麦・うどん・スパゲティ・ラーメン等、

**メンならお任せ**――

『麺処 メンメン』


「大丈夫! カレーとかもあるから!」


「カレーうどんだったりしてな」


そんな冗談を言いながら、席に着く。


「俺、カレーライスで」


「俺も!」


「私はミートソースパスタで」


「オムライスにゃんこ肉球すぺしゃるで」


「……カエデ、迷ってる?」


「うん。ざるそばは決めてるんだけど、割合が選べるから……」


「十割か二八か……ここは二八そばで!」


「俺はちゃんぽんでお願いします」


「あいよー!」


「なんでもありますね、ここ」


「全国大会の時は、だいたいこの店使うんだよ」


その時、恰幅の良い男性と、ひょろっとした女性が声をかけてきた。


「犬山君、お久しぶりだよ」


「店主と、そのおかみさんだ」


「さっきね、最上君が来たよ」


「……あいつ」


「それで、これを渡してくれって」


差し出されたのは、一枚の領収書だった。

内容欄には、しっかりとこう書かれている。


――リア先輩にツケ


「あんの野郎……」


久しぶりに、本気で怒っているリア先輩を見て、

俺たちは思わず背筋を伸ばした。


「あらあら……しかもこれ、この店で一番のメニューね」


りり先輩が、領収書を覗き込んで呆然とする。


「『デラックス炭水化物丼』……五千九百八十円」


「なんですかそれ……」


樹里先輩がメニューを読み上げ、げんなりした顔になる。


「チャーシュー大盛りのとんこつラーメンをベースに、

 そうめんとうどんが投入され、

 別皿でミートソースパスタ、

 さらにカツカレー大盛……」


「……胸焼けしそうですね」


誰も否定しなかった。


店を出た俺たちは、予定通りカードショップへ向かった。

……正確には、マックス回収を最優先任務として、だ。


「全国大会会場近くのショップなら、だいたい三択だな」


リア部長がスマホを見ながら言う。


「一番近いのがここ。次が駅前。最後が――」


「もう駅前行ってそうっすね」


レンジの言葉に、全員が無言で頷いた。


結果は、予想通りだった。


駅前のカードショップ。

入口の自動ドアが開いた瞬間、聞き覚えのある声が響く。


「うおっ、このシングル安くね!?」


「……いたな」


ショーケースの前。

大量のカードを広げ、目を輝かせている男が一人。


「マックス!」


声をかけた瞬間、マックスは肩を震わせた。


「げっ、部長」


「何が『げっ』だ」


「いや、ほら……全国来たら空気違うかなって」


「違うのはお前の行動だ」


リア部長の低い声に、店内の空気が一瞬だけ張りつめる。


「……一応、情報収集もしてたんすよ?」


「領収書は?」


「……デラックス炭水化物丼はごちそうさまでした」


「うん・・・後から払えな」


そのまま連行されるマックスを横目に、

俺は店内を見回した。


――人が多い。


全国大会期間中ということもあって、

他県の選手らしき高校生が何組もいる。


話し声、カードをシャッフルする音。

視線が自然と、デュエルスペースへ向いた。


そこでは、二人組が対戦していた。


展開が速い。

無駄がない。

互いに迷いがなく、カードを置く手が止まらない。


「……」


俺は、思わず足を止めていた。


「見入ってるわね」


隣に立ったのは、樹里先輩だった。


「強いっすね」


「ええ。たぶん、全国常連」


「でもこんなところでやったらデッキと戦法バレますよ」


「それもワザと見せつけて、心を折るという方法もあるのよ」


対戦していた一人と一瞬だけ、視線が合う。


相手は何も言わず、また盤面に意識を戻した。

それだけで、十分だった。


――ここには、俺たちと同じ“勝ち上がる気”の連中がいる。


「ハルト」


リア部長が声をかけてくる。


「はい」


「こういうの、どう見える?」


少し考えてから、正直に答えた。


「……無駄がない。

 でも、完璧じゃない」


自分でも意外な言葉だった。


部長は、ほんの少しだけ笑う。


「そうか」


「でも、強いです」


レンジが横から口を挟む。


「俺たちが優勝します」


「私たちを倒せるかしら?」


「次は私たちが勝ちますよ先輩方!」


そのやり取りを聞きながら、

俺はもう一度、デュエルスペースを見る。


勝ち負けじゃない。

派手さでもない。


――判断の速さ。

――切り替えの早さ。


全国は、そこが違う。


「……明日、二試合だよな」


ぽつりと呟くと、カエデが頷いた。


「うん。だから今日は、見ておくだけでも意味がある」


マックスがようやく解放され、苦笑しながら戻ってくる。


「いやー、やっぱ全国はレベル高いっすね」


「お前が言うな」


「ひどい!」


その軽口に、少しだけ肩の力が抜けた。


強い相手がいる。

知らない世界が広がっている。


でも――


「……負ける気はしないな」


小さく呟いた俺の言葉は、

誰にも聞かれなかった。


それでいい。


全国大会二日目は、すぐそこまで来ている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ