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エクリプスレイン  作者: 鳥雛


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33/35

第33話「風は、まだ名を呼ばない」

全国大会当日。


駅の改札を抜けた瞬間、空気が変わった。


人の多さではない。

音の密度でもない。


――視線の重さだ。


カードケースを抱えた人間たちが、無言で行き交っている。

誰もが誰かを値踏みし、誰もが余計なことを喋らない。


「……これが全国か」


ハルトは小さく息を吐いた。


地区大会の会場も大きかった。

だが、あれは“大会”だった。


ここは違う。


**選別の場**だ。


巨大な会場が近づくにつれ、足音が揃っていく。

早歩きでもなく、遅くもない。

まるで全員が、同じ速度で進んでいるかのようだった。


「レンジ」


「ん?」


「俺たち……浮いてないか?」


レンジは一瞬だけ周囲を見回し、肩をすくめる。


「浮いてない。

むしろ――埋もれてる」


その言葉に、ハルトは納得した。


ここでは、目立たないことが普通だ。

全員が“勝つつもり”で来ている。


カエデは会場を見上げ、静かに言った。


「風が、渦を巻いています」


「渦?」


「はい。

強い人たちが、もう中心を作っている感じです」


樹里先輩はパンフレットを一度だけ確認し、すぐに閉じた。


「全国では、肩書きは意味を持ちません。

勝った者だけが、名前になる」


淡々とした声だった。


「地区大会の実績も、ここでは参考資料です。

通用するかどうかは――」


視線を前に向ける。


「これから、証明するだけ」


会場前の広場には、各地から集まったチームが揃っていた。


制服の色。

校章。

カードケースの装飾。


どれもが個性的で、どれもが自信を主張している。


すれ違いざま、誰かと視線が交わる。


ほんの一瞬。

それだけで、胸の奥がざわついた。


(……強い)


話したこともない。

カードも見ていない。


それでも分かる。


ここにいる全員が、

**自分は勝てると思っている**。


リリ先輩が、静かに言った。


「いいですね、この感じ」


「緊張してないんですか?」とハルト。


「してるよ。でも――」


リリ先輩は笑う。


「緊張して逃げる奴は、全国まで来れないから」


やがて、会場への入場が始まる。


巨大な扉が開き、冷えた空気が流れ出した。

同時に、張り詰めた熱が吸い込まれていく。


観客席はすでに埋まり、照明が落とされる。


ステージ中央の大型スクリーンに、大会ロゴが映し出された。


**《エクリプスレイン 全国大会》**


ざわめきが、静まり返る。


司会の声が響いた。


「――本日は、エクリプスレイン全国大会にお越しいただき、ありがとうございます」


拍手。


だが、どこか抑えられている。


「これより、全国大会の開会を宣言します」


照明が一段明るくなり、各ブロックの表示が映し出される。


ハルトは、無意識にカードケースを握っていた。


中にあるのは、

何度も組み直したデッキ。

敗北の記憶。

そして、新しく加わったエース。


――まだ、カードは引いていない。

――まだ、召喚もしていない。


だが確かに、ここまで来た。


「……始まったな」


誰に言うでもなく、ハルトは呟いた。


司会の声が続く。


「なお、初戦の組み合わせは――」


一拍、間が置かれる。


「――この後、発表されます」


その瞬間、会場の空気が変わった。


ざわめき。

息を呑む音。

誰かが小さく笑う。


樹里先輩が、静かに言う。


「ここからが、本番ですね」


カエデは頷き、レンジは深く息を吸った。


ハルトは、前を見据える。


風は、まだ名を呼ばない。


だが――

全国という舞台は、確かに彼らを包み込んでいた。



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