第31話 「カードゲームとバイクと俺と」
部室には柔らかい光が差し込んでいた。
机の上にはカードやルールブックが整然と並び、部室を満たす空気は静かで、まるで時間が少しゆっくり進んでいるかのようだった。
全国大会までの緩やかな時間の中
ハルトは手元のカードを整理しながら、ふと口を開く。
「……昨日見たアニメ、バイクに乗って戦う必要あるのかな。街とか、普通に壊れてたし」
隣に座るレンジが肩をすくめ、苦笑する。
「見た目が派手だからな。まあ、アニメ的にはその方が映えるんだろ」
「……俺たちのゲームだって、似たようなことになったらどうなるんだろうな」
真剣な顔で言うハルトに、レンジの表情が少し引き締まった。
「いや……現実に影響したら、世界規模でヤバいかもな。
だってこれ、神々の戦いを模したって設定だったろ?」
その言葉に、机の向こうからカエデが首をかしげ、微笑む。
「ふふっ。そういうことを考えるの、ちょっと面白いかもね。
確かに、ゲームの力が暴走したら、私たちの世界も大変なことになりそう」
「カエデ、それはさすがに大げさだろ」
レンジは笑いながら突っ込むが、その表情にはどこか考え込む色もあった。
樹里先輩は静かにカードを並べ、落ち着いた声で口を開く。
「……可能性としては、あるのでしょうか・・・・」
リリ先輩も小さく頷き、優雅な手つきでデッキを整えながら言った。
「ふふっ、ネコちゃんが、たくさん出てきますね」
リア先輩は腕を組み、肩をすくめて苦笑する。
「まあ、今のところそんなことは起きてないし、大丈夫だろ」
マックスは両手を大きく広げ、元気よく宣言した。
「その時はあれだ! 俺が止める!」
ハルトはため息をつき、カードの束を軽く叩く。
「でもさ、もし本当に起きたら、街が巻き込まれるとか、普通にあり得るわけで……」
部室が、ほんの少し静かになった。
樹里先輩もカードを揃えながら、静かに頷く。
「ええ。最悪の場合、ゲームが原因で大きな混乱を招く可能性もあります」
リリ先輩は顎に手を当て、微笑みを残しながらも真剣に言う。
「……興味深いのは、こうした日常会話の中でも潜在的な危機が見えてくることですね。
表面上は平和でも、大きな力は確かに存在している」
レンジは小声でハルトに耳打ちした。
「まあ、でも俺たちのバトルじゃ、まだ破滅は起きてないしな」
ハルトも小さく笑うが、その目は真剣だった。
「……そうだな」
そのとき、部室の外で小さな物音がする。
部員たちは顔を見合わせ、自然と空気が少しだけ引き締まった。
カエデがにっこりと微笑む。
「それにしても、考えれば考えるほど面白い話ね。
現実とゲームの境界って、意外とあやふやかも」
リア先輩は肩をすくめ、冗談めかして言う。
「まあ俺は、カードの暴走で街が吹き飛ぶところは見たくないな。
あと、バイクに乗ってカードゲームすると事故るぞ」
リリ先輩がため息混じりに言葉を続ける。
「そうね……。
リア先輩とマックス君が、去年自転車に乗りながらカードゲームをして、校庭で転んだ結果、
マックス君が骨折したことは、今でも覚えているわ」
マックスは両手を広げ、誇らしげに胸を張った。
「いや、あれは熱い戦いだったぜ!
次は成功させる!」
部室は笑い声と軽いツッコミに包まれる。
それでも空気の奥には、ほんのわずかな緊張が残っていた。
それは、カードゲームが秘める力を、誰もが無意識に感じ取っている証だった。
樹里先輩がカードを整えながら、静かに言う。
「……まぁ私たちは慎重に、そして楽しむべきなのでしょう」
リリ先輩も微笑む。
「ええ。日常の中の、こうした議論も学びの一環ですわ」
ハルトはカードをシャッフルしながら、小さくつぶやいた。
「……俺たち、何気なく遊んでるけど、
実はとんでもない力を手にしてるのかもしれないな」
カエデは机に肘をつき、楽しげに笑う。
「それも、この部活の面白いところだよね」
部室には、笑いと真剣さが入り混じった空気が漂っていた。
部員たちはそれぞれの思いを胸に、午後の時間を静かに過ごしていく。
そして、ハルトたちの心の片隅には、
カードゲームの無限の可能性が、静かに残り続けていた。




