第30話 「新たな戦術、風を読む」
地区大会が終わり、校内は静かな余韻に包まれていた。
ハルトは自分の風属性デッキを前に、卓の前で座り込む。手にしたカードを何度もめくりながら、思い返すのは決勝で樹里先輩に敗れた瞬間の光景だ。
「俺、まだまだ足りない……」
頭の中で何度もリプレイされるのは、速度を取り合う樹里先輩の冷静なカードさばきと、エクリプスデッキから召喚された暴風龍デザスターテンペストの圧倒的な力。
その時、リア先輩が軽やかな足音とともに部室に現れた。
「みんな早いな、新弾のカードパック買ってきたぞ」
机の上に置かれたパックから、リア先輩は丁寧にカードパックを取り出す。
「いやぁ新弾と聞いて7カートン買ってきたよねぇ、もちろん自費で!」
「先輩・・・買い方がエグすぎる」
「さぁ1人1カートンずつ開けていいよ、出したカードは全部自分の物だ、販売以外なら部員同士でトレードするも良しだぞ」
ハルトの目が自然と輝く。手にしたカードを見つめながら、自分も同じようにエースを持ちたいという気持ちが芽生えた。
「俺も、エクリプスデッキに新しいエースが欲しい……」
「俺も新しい火属性のエースを入れたいぜ」
「地属性をもっと強固にするんだから」
「俺様の闇属性エース来い」
「はーいじゅりじゅりだよ!今日は新弾の開封動画をやっていくよ!一緒にやるのはお友達の白百合ちゃん!」
「ども!白百合だにゃ~、新しいネコちゃんをお迎えしたいにゃ~」
「あの・・・リア先輩あの二人は一体・・・」
困惑するハルトがリア先輩に聞く
「あー樹里は動画配信しているぞ・・・たまにりりもゲスト出演してるみたいだな」
「なるほどです・・・」
なんとなくの理解をしながらハルトはパックを開封していく
「これは風属性汎用で使えそうだ、これは地属性か後でカエデとトレードしよう」
(先輩のエクリプス召喚強かった・・・俺も新しいエースを出したいな)
その中で、とあるパックから出たSRR仕様の1枚のカードが出てきた。
つむじ風の蝕ワールドウィンドキング・ジ・エクリプス/(0/0/0)/風属性/魔族 (エクリプス)/エクリプス召喚/召喚条件:風属性のアーティファクトを2つ破壊してワールキングをリリースし召喚/UR(SRR仕様)
[先制]相手の速度以上
[貫通3]
[連撃3]
[常時] ●このカードは効果・戦闘で破壊されずフィールドから離れない
●相手ユニットが存在する場合ダイレクトアタックできない
●エンドフェイズごとに自分のLPをー2する
●このカードのATK/LP/SPDは存在せず、プレイヤーのLPと同値になる
●このカードの常時効果は無効化されない
「おおぉぉハルト・・・コレ超ロイヤル仕様のワールドウィンドキングじゃん!すごいキラキラだねえ」
カエデが俺のカードを見てニコニコしている
「私もね良いカード当たったよ!」
その夜、ハルトは自室でデッキを再構築する。手札の順番、速度バトルの駆け引き、アーティファクトの使い方――すべてを頭の中でシミュレーションする。
つむじ風の魔術師やワールキングを中心に、デッキ全体の動きを整理していく。
「ここで速度を上げて……ここでバリアを貼る……」
細かな計算と試行錯誤を繰り返すたび、デッキの完成度が少しずつ上がっていく。
そして、新しいパックから引き当てたカード――風属性のエクリプスユニットの存在を確認したとき、ハルトは拳を握った。
「よし……これなら全国でもやれる」
心の中で、先輩たちとの再戦を思い描く。地区大会で見た樹里先輩の完璧なプレイと、カエデやレンジの戦いぶり――すべてが、自分の糧になる。
「次は……絶対に勝つ。全国では、先輩たちのチームに――俺が勝つんだ」
目の奥が熱くなる。悔しさ、期待、覚悟。すべてが混ざり合い、部室の静寂を満たした。
手札の1枚1枚を心の中で配置しながら、デッキの未来を想像する。
「よし、このデッキなら……絶対に負けない」
地区大会の結果はもう過去のもの。全国という新しい舞台が、ハルトを待っている。
風のカードを握る手に、確かな覚悟が宿った。
――ここからが、俺の本当の勝負だ。




