第29話 「束ねる風、渦巻く風」
地区大会決勝。
開始の合図と同時に、それぞれが自分の卓へ向かう。
ハルト、カエデ、レンジ。
三人一組のチーム戦。
だが、始まってしまえば助言も確認もない。
互いの盤面は、見えない。
聞こえるのはカードが置かれる音と、
遠くで響くジャッジの声だけ。
ハルトは席に着き、深く息を吸った。
向かいに座るのは、樹里先輩。
「決勝だね」
「はい」
短い言葉だけを交わし、
二人は同時にデッキをシャッフルする。
結果がわかるのは、すべてが終わったあと。
それまでは――
この卓だけが、世界だった。
「――始めましょう」
「「リンク!」」
### ▼1ターン目
●スタート〜ドロー
ハルト:7枚 / LP10
樹里:7枚 / LP10
●セットフェイズ
ハルト:2体
樹里:3体
(先輩はいきなり3体)
ハルトは焦らず、冷静に分析する
●開示フェイズ
**ハルト**
つむじ風の魔術師
つむじ風の奇術師
**樹里**
ミニマムナギドラゴン(1/1/2)/風属性/ドラゴン/R
[召喚]ユニット1体を選び(0/0/1)する、風C+1
[撃破]ユニット1体を選び(0/0/1)する、風C+1
つむじ風の魔術師
風の精霊 ウインドスピリット(1/1/4)/風属性/精霊/R
[召喚]ユニット1体を選び(0/0/1)する、風C+1
[常時]相手プレイヤーより速度が高い場合、自軍ユニットのダメージをー1する
召喚時スキル処理
速度順で樹里から
「ナギドラゴンとスピリットの効果で魔術師の速度を上げます」
「魔術師で全員にバリア1と速度を1上げます」
次にハルト
「魔術師で全員にバリア1と(0/0/1)上げます」
「奇術師で全員(1/0/1)上げます」
●メインフェイズ
風属性同士の速度を取り合い樹里が先手を打つ
「魔術師で奇術師を攻撃!バリアを剝がします」
「攻撃力0のユニットなのに!?」
驚くハルトに淡々と樹里は答える
「裁定では攻撃力0でもバリアを剥がすことが出来るんですよ」
「ナギドラゴンで奇術師を攻撃でバリアを剥がします、ナギドラゴンは破壊されたので魔術師の速度を上げますね」
「スピリットで魔術師を攻撃で破壊します、これで優先権を渡します」
「俺は奇術師でスピリットを攻撃!スピリットを破壊します、優先権を渡します」
「私はアーティファクトを発動します、暴風の塔テンペストを発動」
暴風の塔テンペスト/風属性/アーティファクト/SR
[常時]エンドフェイズに相手より速度が高い場合、全風属性ユニットにバリアを付与
●盤面
ハルト LP10 手札5
つむじ風の奇術師 (2/1/3)
樹里 LP10 手札3
つむじ風の魔術師 (1/1/7)[バリア2]
暴風の塔テンペスト
### ▼2ターン目
●スタート〜ドロー
ハルト:6枚 / LP10
樹里:4枚 / LP10
●セットフェイズ
ハルト:3体
樹里:1体
●開示フェイズ
**ハルト**
つむじ風の賢者
ウインドエルフ(1/1/3)/風属性/妖精/C
[召喚]ユニット1体を選び(0/0/1)する、風C+1
疾風の剣士ガル
**樹里**
風の精霊 ウインドスピリット(1/1/4)/風属性/精霊/R
[召喚]ユニット1体を選び(0/0/1)する、風C+1
[常時]相手プレイヤーより速度が高い場合、自軍ユニットのダメージをー1する
召喚時スキル処理
速度順で樹里から
「スピリットの効果で魔術師の速度を上げます」
次にハルト
「ウインドエルフで自分の速度をあげます」
●メインフェイズ
樹里
「スピリットでエルフを攻撃!撃破します。」
優先権がハルトに回ってくる
「行くぞ俺の相棒――発動!《つむじ風》!!」
ハルトは賢者をリリースし、デッキから対象となるカードを手に入れ掲げる。
「風の精霊よ、我に従え! つむじ風の王 ワールキング、降臨!!」
「魔法カード烈風の一撃を発動ワールキングはこのターンすべてのユニットに攻撃できる」
烈風の一撃/風属性/通常魔法/SR
ユニット一体を対象に発動、このターン対象ユニットは相手の全てのユニットに攻撃が可能となる
ワールキングは魔術師に連続で攻撃を叩き込みバリアを剥がし魔術師を倒す。続いてスピリットも撃破
「貫通3なので2体倒したことで6ダメージを与えます!そしてガルでダイレクトアタック」
「さらに俺もアーティファクトを発動!烈風の塔ストーム!相手より速度が高い場合エンドフェイズに攻撃力がプラスされます!優先権を渡します」
烈風の塔ストーム/風属性/アーティファクト/SR
[常時]エンドフェイズに相手より速度が高い場合、全風属性ユニットに(1/0/0)
「私は手札からアーティファクトを発動しますね。竜巻城トルネード!」
竜巻城トルネード/風属性/アーティファクト/SR
[常時]風属性ユニットの召喚時に(0/1/0)
●盤面
ハルト LP9 手札3
ワールキング(6/4/4)/
ガル
樹里 LP2 手札2
暴風の塔テンペスト
竜巻城トルネード
### ▼3ターン目
●スタート〜ドロー
ハルト:4枚 / LP10
樹里:3枚 / LP2
●セットフェイズ
ハルト:0体
樹里:0体
●開示フェイズ
開示フェイズセットユニットがいないので何もなければスキップされるが樹里が宣言する
**樹里**
「自分フィールドに2枚の風属性アーティファクトがあるのでエクリプス召喚を宣言します
「エクリプスデッキより風属性ユニットを召喚」
「暴風の王!吹きすさぶ風を纏いてすべてを薙ぎ払う!暴風龍デザスターテンペスト!」
暴風龍デザスターテンペスト/(6/6/8)/風属性/ドラゴン/エクリプス召喚/召喚条件:風カウンター5以上で風属性のアーティファクトを2つ破壊して召喚/UR
[先制]
[貫通X]Xは風属性カウンターと同値
●メインフェイズ
速度は同値なのでダイスを振る
ハルトは3、樹里は2だった
優先権をハルトが取る!
「ワールキングでダイレクトアタックします!」
この一撃通れば勝つ!ハルトの渾身の一撃がワールキングの一撃が樹里へ迫る!
しかし樹里は冷静に対処する
「インスタント魔法発動!防風林!相手の速度以上であればこのターン相手の攻撃を封じます。今私とハルト君の速度は同じよって防風林の効果は有効です!」
ハルトの攻撃が避けられ
「優先権を渡します・・・」
「では私の攻撃、烈風の一撃を発動してデザスターテンペストでガルとワールキングを攻撃します」
デザスターテンペストがワールキングを撃破してハルトのライフは0になる。
卓の空気が、ふっと緩んだ。
ハルトは盤面から手を離し、
しばらく視線を落としたまま動かなかった。
やがて、静かに顔を上げる。
「……負けました」
樹里先輩は小さく頷き、
カードをまとめ始める。
「いい試合だったよ」
それ以上は、何も言わない。
同時進行の他の卓は、まだ終わっていない。
勝敗も、チームの結果も、まだ確定していない。
それでも、
ハルトの胸にははっきりと残るものがあった。
――ここまで来た。
視線の先で、樹里先輩が一度だけ振り返る。
「次は全国だね。
当たるまで、負けないように、手札の枚数が、未来の可能性だよ」
その一言を残して、彼女は席を立った。
ハルトはデッキを握り直し、
ゆっくりと息を吐く。
負けた。
それでも、次は必ず勝つ。
何事にも無気力だったハルトの中に、
確かな変化が芽生えていた。




