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扉の向こう~黒ねこについて行ったら異世界へ~  作者: 碧衣 奈美


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09.闇の人形

「じゃあ、デューロウはどういうふうに聞いてるの?」

「人々の負の念を集める人形があって、それが意思を持つようになったんだって。その人形が人々をあやつって、街を破壊しようとして……その時代にいた金の姫と銀の王に封じられたんだ。それが扉の始まりで」

「おい、肩書きが変わってるぞ。姫と王?」

 ついでに言えば、性別も変わっている。

「うん。その時は父娘だったって、歴史書には書いてあるんだ」

 人間の恨みや嫉妬など、負の感情を集めた人形。

 人々はそれを「闇の人形」と呼び、やがて「闇」とだけ言われるようになった。

 闇は意思を持つようになると、さらに人々が負の感情を生み出すようにしかけてゆく。

 誰かを疑い、嫉妬し、怒り、暴力に走り……。あちこちで破壊や争いが起きた。

 それを止めるために現れたのが、最初の守扉者であり「金と銀」の力を持つ二人だ。扉の向こうに闇を封じ、自分達の力が消えるまで封印を維持し続けた。

 その頃には、現在の守扉者と同じような力を持つ人間が現れるようになり、この神殿で結界を張り続けることになる。

 最初に封じられて長い年月が経つ間、闇がその封印を破ろうとする危機は何度かあった。その都度、封印の力を持つ者が現われ、鍵をかけて扉は守られたのだ。

 その「金と銀」の力を持ったペアは、デューロウ達のようにいつも双子だった訳ではない。

 最初の時のように親子だったり、夫婦だったこともある。なので、別の呼ばれ方をしていたのだ。

 その二人にしか封印できる力がないので、王や王女などと呼ぶことで敬意を表わしているのだという。

 地位の前に「金と銀」が付くのは、二人にその色が濃く現われるからだ。デューロウの場合は瞳に、レイリーンの場合は髪にその色が現われたように。

「そう言えば、最初に地位だの位置だのって言ってたよな。そういう意味か。オレ達流に解釈すれば、その木偶(でく)人形の魔力が闇と呼ばれる……ってことだな」

 魔力と言うのも抽象的と言えば抽象的だが、ややこしい表現をされるよりは理解しやすい。

「そうね。闇のこと、何となくだけどだいたいわかってきたわ。じゃあ、レイリーンを捜しに行きましょ」

☆☆☆

 四人は部屋を出ると、早速レイリーン捜しをするべく、外へ出ようとした。

「デューロウ? どこへ行くのですか」

 後ろから声をかけられて、全員がびくっとなる。

「いきなり見付かってんじゃねーよ」

 誠一郎が、ひじでデューロウをつつく。

「ご、ごめんなさい」

 部屋を出る時、廊下に誰もいないのを確認したのはデューロウだ。

 人影がないから部屋を出て、さっき使った裏口から出るはずだったのだが……わずかなタイミングのずれで、誰かが廊下を曲がって来たらしい。

「あ、バルム様……」

 少しびくびくした様子で振り返ったデューロウだが、その姿を見てほっとしたような表情になる。

「守長をしてる人」

 デューロウがこそっと告げる。

 守長ということは、ここで能力および権力が一番強い人だ。

 デューロウがバルムと呼んだ相手は、五十代半ばくらいであろう長身の男性だった。遼太郎とほとんど変わらない。

 だが、しっかりした体格の遼太郎とは対照的に、バルムは細身だった。服に隠れてわからないが、そんなに筋肉質でもないだろう。

 薄い金色に白いものが混じった髪は肩まで伸び、その整った顔立ちは「若い時はモテたんだろうな」と思わせる。こちらに向けられた瞳は、きれいな紫色。

 おとなしくしていろ、と言われた少年を呼び止めはしたが、そこに怒りのような表情は見えない。

「まだ正気な奴みたいだな」

 デューロウの様子を見て誠一郎が遼太郎に耳打ちし、彼も小さくうなずく。

「レイリーン!?」

 そのバルムが、琴音の顔を見て違う名前を口にした。

「あ……いえ、別人のようですね。失礼しました」

 穏やかな声で謝られ、琴音は「とんでもないです」とばかりに首を振る。

 こんな反応をされたところを見ると、デューロウが話した通り、本当に琴音はレイリーンに似ているようだ。

「デューロウ、部屋にいなさいと言ったでしょう。どこへ行くつもりですか。それに……そちらの方達はどなたです。院の方ではありませんね。その女性も」

 同じ服を着ているのに、あっさりと見破られた。

 デューロウは守長と言ったが、お飾りなどではなく、ちゃんとしたリーダーのようだ。下の者のことを、しっかり把握している。

「あ……あの……」

 デューロウは口を開きかけたが、廊下の向こうからまた声が聞こえてきた。デューロウはバルムの袖を掴むと、今出たばかりの部屋の中へと引っ張る。

 そのまま廊下に残っている訳にもいかず、琴音達もまた部屋へと戻った。

「なぜ隠れるのですか。やましいことをしているのですか?」

 こんなことをすれば、そう言われるのも当然だ。

「違います。この人達は……ぼくと一緒に、レイリーンを捜してくださるんです」

「デューロウ……しかし」

「何かあってはいけないからおとなしくしていろ、と言われました。心配してもらっているのは、わかってます。だけど……だけどぼく、じっと待ってるのがいやなんですっ」

「……よその世界へ行って、来てもらったんですね?」

 はっとしたように、バルムの顔を見るデューロウ。

「無茶なことを。もし帰れなくなっていたら、どうするつもりだったのです」

「ごめんなさい……」

 デューロウの力が未熟で、帰るまでに道が閉じてしまう危険があった、という話は本当だったようだ。

「あの……どうしてわかったんですか、あたし達がよその世界の人間だって」

「今の神殿の中で、デューロウに協力する人はいないでしょう。銀の王女を捜すためとは言え、金の王子を連れ回していたら、上の者からお咎めがあるのは目に見えます。街の人達を混乱させないため、今回の事件はふせられています。それなのに、デューロウが街の人達に協力を求めるとも思えない。わざわざ事件をふれて回ることにもなりかねないですからね。そう考えていくと、全く関係のない人達……よその世界の方だろうと思ったのです」

 一瞬でそこまで考えるなんて、琴音には絶対できない。

「だけど、他の世界の人なら、闇に対抗できるって思ったんです」

「デューロウ、闇の力の源は人間の感情です。生きて心を持っている以上、どんな世界の人であれ、何の影響もない、とは言い切れないんですよ」

「え……?」

「おい。『え?』じゃないだろ」

 後ろから誠一郎が、呆然となるデューロウの頭を指でつつく。

「お前、そういうことも知らないで、オレ達を巻き込んだのか?」

「ぼく……」

「申し訳ありません」

 デューロウの代わりに、バルムが頭を下げた。

「あなた方がどこまで話をお聞きになったか存じませんが、私がもっとこの子に闇のことをしっかり教えておくべきでした」

 デューロウとレイリーンは、一年前に両親を亡くしている。その後すぐ、二人は神殿に引き取られた。

 ここには「守扉者の力を持った人間」を見付け出す力を持った守扉者がいて、この二人が守扉者の中でも一番特殊な力を持つ「金と銀」だ、と言ったからだ。

 引き取られてからは、守長であるバルムや神殿の者によって教育がなされた。

 それまで庶民として普通に暮らしてきたデューロウとレイリーンは、自分達に備わっている力のことも知らず、当然使ったこともない。その力を引き出すための訓練を、ここでするのだ。

 もちろん、扉や闇のことも、街の人が知る以上に細かい部分を教えられた。

 しかし、彼らがもう少し成長する数年先まで扉の結界は保つと思われており、まだ基本的な部分しか教えられていないのだ。

「闇は負の感情を吸い込んだ人形だ、と聞きましたが」

「ええ、最初はそうだったようです。持ち主の少女がルーゼットと名付けた人形で、封じられたのもその人形本体と聞きました。しかし、人形は布などで作られていましたから、何百年も経った今では残っていないでしょう。次に現われる時、どんな姿になっているかは想像もできません」

「……どうも俺達が思ってるより、事態はシリアスみたいだな」

 どこかの国の映画みたく、悪い霊が入り込んだ人形が災いを起こす、というのではなさそうだ。

 人形の持ち主だった少女は、何の力もない普通の人間。人形の材料の一部に、負の感情を吸い込む何かが使われたのでは、と言われているが、昔のことなので真実はわからない。

 とにかく、その人形が問題だということで、封じられた。実際、人形が封じられた後は、平穏な世界が戻ったと言われている。

「ゲームなんかでよくある、魔石が使われてた、とかかしら」

「それに近いのかもな。やっぱり、オレ達が動くのはやめた方がよさそうだぜ。バルムさん、でしたっけ?」

「はい」

「あなたにはデューロウみたく、よその世界への道は開けないんですか。あなたでなくても、他の人だっていい。オレ達、なりゆきでこっちへ来て頼まれたけど、デューロウが今日はもう道を開くだけの力がないからってことで、人捜し……レイリーンを捜すことになったんだ」

「道を開く、ですか。今の神殿に、その力を持った者は他におりません」

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