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扉の向こう~黒ねこについて行ったら異世界へ~  作者: 碧衣 奈美


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27.光の中で

 誠一郎は言われるままに、剣を正眼に構えた。その剣に、遼太郎は自分の持つ剣の刃を交差させる。

 その途端、剣の刃が重なった部分から白い光の珠が現われた。

 最初はピンポン球くらいのサイズが、見ている間にふくれあがる。やがて、人間一人を包み込んでも、まだ余裕があるまでになった。

 暗かった周囲が、その珠の光で昼間のように明るくなる。

「おー、すっげー」

「希望の光ってところか」

「なに……」

 その光に照らされ、ルーゼットの顔が苦痛に歪む。

「わざわざヒントをくれて、感謝するよ。お前は自分の不用意な言葉で己を追い込み、自滅するんだ」

「やぶ蛇って奴だぜ。人間が全部いなくなったら、お前も淋しいだろ。そうなる前に、オレ達が消してやるよ」

 ルーゼットへ向けて二人が剣を振ると、光の珠が飛んだ。身体が完全に戻ったばかりのルーゼットは、その光をよけようとしたがよけきれない。

 光が当たった身体の右半分が、砕ける。辺りの空間に、肉片のようなものが散らばった。触手のようだった髪も地面に落ちて、うねうねと動いている。

 しかし、ルーゼットの身体は、さっきのように元に戻ろうとする様子がない。

「おの……れ……」

 顔を半分崩されながら、ルーゼットが睨む。また声が低くなった。もう少女のようには聞こえない。

「お前は負の感情を食らってたみたいだけど、あいにく人間には他にも色々な感情があるんだぜ。オレ達に会って、それがよくわかっただろーが」

「もっとも、わかるのが遅かったな。お前にとっては自分の力を消そうとする、うっとうしいものでしかないから。見ようともしなかったんだろう」

 二人が再び、剣を重ねた。光が現われ、一気にふくれあがってゆく。

 遼太郎と誠一郎は、その光をルーゼットへ向けて放った。光はルーゼットの全身を、完全に飲み込む。

 珠の中に、うっすらと影が映った。その輪郭はぼやけ、かろうじて人影らしいとわかるくらいだ。

 その影を遼太郎が、続けて誠一郎が袈裟懸けに斬る。

 女の悲鳴のような声が、影の方からかすかに聞こえた……ような気がするが、それもほんのわずかな時間だ。本当に聞こえたのかも、定かではない。

 光の珠の中で、斬られた影は消えていく。影がなくなると珠そのものも次第に小さくなり、やがて周囲に静寂が訪れた。

☆☆☆

 しばらく、誰も動かなかった。動けなかったのかも知れない。

 またルーゼットが復活するのではないか、という不安のために。

 何度斬られても、何もなかったかのように戻ってしまう、人の姿を持つ闇の力。

 今もまた斬られ、消えたかのように見えるが、これまでのように復活し、あざ笑うのでは、という苛立ちや恐れがあった。不安や恐怖を抱けば、それだけ闇の力が増す、とわかっていても。

 しかし、ルーゼットの姿が再び見えることもなく、声も聞こえない。

「ねぇ、終わったの?」

 恐る恐る、琴音が口を開いた。

「そうみたい……」

 琴音にすがったままのレイリーンが、つぶやいた。

 その声は本当に小さいものだったが、その途端に守扉者達の誰もが力尽きたように地面に座り込む。

 遼太郎と誠一郎は互いの顔を見詰め、それから自分が持っている剣に目を向けた。

「すっげぇ……。やってる時は必死だったけど、剣からあんな光が出るなんてありかよ。レーザー銃じゃあるまいし」

「ああ。こういう世界じゃ、やっぱり何でもありってことさ」

 正直なところ、遼太郎も信じられない気分ではあったが、自分にそう言い聞かせておく。実際、あの光は確かに現れていたのだから。

「こうなるってわかってたら、最初から銃を出してもらえばよかったな」

「いや、ことが出すなら何とかなるだろうけど、デューロウに銃は出せないと思うぞ」

 この世界に「銃」という武器があるかも怪しい。

「まだ……残ってる」

 デューロウが、ある方向を指した。

 そこは、ルーゼットが封印されていた扉のあった場所だ。

 扉はルーゼットが現れた時の爆発でなくなっているが、その扉の向こうにあったブラックホールのような空間が残っていた。ガレズや守扉者達が吸い込まれてしまった空間だ。

 直接見てはいないが、ルーゼットはあそこから現れたのだろう。このままあの穴を放っておけば、またルーゼットが、もしくは似たような化け物が現れるかも知れない。

「さっきの光を……入れてください」

「光を?」

 誠一郎が聞き返すと、バルムは小さくうなずいた。

「ガレズ達を闇の穴から助け出す方法を……私は知りません。しかし、その穴をそのままにしておくことはできない。してはいけません。先程の光をその中へ向ければ、ルーゼットと同じように闇の穴も消えるでしょう」

 闇の穴の中で、ガレズ達がどういう状態でいるのか。ここからでは、一切見えない。

 生きているのか、それとも……。

 彼らを助けるべく、ここにいる誰かがブラックホールへ入っても、彼らを連れて再び外へ出られる、という保証はない。

 出られなくなってしまえば、被害者の数が増えるだけ。これ以上の犠牲者を出す訳にはいかない。

 ルーゼットと同じように、消してしまわなければ。

 吸い込まれはしたが、あの空間の中で死んだことを確認した訳ではない。

 それでも、バルムは決断した。

 守長として、今ならまだ守れる者を確実に守るために。

「誠、剣を構えろ」

「遼兄、けど……」

「やってくれって、守長が言ってるんだ。俺達がその言葉に従う義務はないけど、逆らう理由もないだろ。それに、俺達がこの剣を持ってるのは、あくまでも守扉者の……デューロウとレイリーンの代理だからな」

「ああ、わかった」

 誠一郎が剣を構え、遼太郎がさっきと同じように自分の剣の刃を交差させた。また白い光の珠が現われる。

 二人はその光が大きくなるのが止まるまで待ち、闇の空間へ向けて放った。

 光の珠は穴の中へと飛び込み……音もなく破裂する。一瞬、周囲が目を開けていられない程の強い光に満ち、誰もが思わず目をかばった。

 そして、次に目を開けた時。

「ガレズ様!」

 デューロウが叫んだ。

 闇の穴はなくなっている。暗くても存在がわかった黒い穴は、どこにもなかった。

 代わりにその場所の近くで、見覚えのある男が倒れている。他にも、数名の人間が同じように。

 穴の中へ吸い込まれた守扉者達だ。

 全員が気を失っているようで、仲間達が駆け寄って抱き起こす。もうまともに立つのもつらいだろうに、バルムも同じようにガレズへ駆け寄った。

「え?」

 遼太郎と誠一郎の手にあった剣が、ふっと消えた。

「なるほど。剣の役目は、これで終わったってことか。封印の扉とは違って、持続性は必要ない訳だし。ということは、解決した、と考えていいのかな」

 ここで「デューロウ達の力が未熟だから、消えてしまった」とは思いたくない。あのブラックホールのような不気味な穴は消えたのだし、これで決着したのだ。

 遼太郎がほっとしている横で、誠一郎は自分の手をまじまじと見ている。

「手品みたいだな。いや、手品でも、他人が握ってる物を目の前で消すなんて、できないよな。ああいうのってコインかカードだけど、オレ達が持ってたのは剣だったんだから」

「お兄ちゃん、誠ちゃん!」

 琴音が、二人に向かって走って来る。もう少し、という所でつまづき、誠一郎が慌てて手を差し出して彼女を支えた。

「お前なぁ、こういう所で転びかけるなよ。盛り上がりそうなシーン、ぶち壊しだろ」

「そんなことより、誠ちゃん、さっき飛ばされた時にケガしてない?」

 琴音にすれば、恋人に駆け寄って抱き付くようなシーンより、ケガの有無の方がずっと大事だ。

「あれくらいで、ケガなんかしてたまるかっての。ちゃんと受け身を取ったからな。あれなら、人間同士でケンカしてる方が、もっと傷ができるって」

「こと、お前の方こそ大丈夫なのか?」

「え? だって、あたしは何もしてないし、されてないし」

 強いて言うなら、地下倉庫に閉じ込められた、というくらいか。それだって、ケガはしていないし、もうずいぶん時間が経っている……気がする。

 さっきまでレイリーンと同じように震えていたが、ルーゼットに何かされた訳ではない。

「何もって……おい」

 遼太郎に言われ、琴音は遅まきながら気付いた。

「あ、そっか。あたし、銀の剣を出したんだっけ」

 何かされたのではなく、自分がしたのだ。

「その様子だと、全然問題ないみたいだな」

 レイリーンは、デューロウのようにしゃがみ込んでしまうまでにはならなかった。それでも、かなりの体力を消耗していたようだ。

 しかし、琴音は平気な顔をしている。気力はもちろん、体力が減ったような様子は全然ない。

「遼兄、さっきのバカでかい剣、本当に琴音が出したのか?」

 事情は聞いていないが、遼太郎が銀の剣を持って隣に並んだ時、誠一郎はおおよその状況を把握した。

 それはそれとして、剣の大きさにずいぶんと差があるので、その辺りが疑問だったのだ。何だ、あの剣は……と。

「どうして二人して、同じ言い方するのよ」

 でかいのは認めるが、そこに「バカ」を付けなくてもいいではないか。

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