21.発見、そして救出
「え、ガレズ様が? そんな……だって、他の人みたいに黒いもやは見えなかったのに」
「ああ、ことも何も言わなかったから、見えてなかったんだろう。そこまで細かい話は、ここには書いてない。二人を助け出せば、その時に詳しい話も聞けるよ」
「居場所は地下倉庫、としか書いてないけど……デューロウ、わかるか?」
「うん。こっちに」
デューロウを先頭に、三人は地下倉庫がある方へと走る。
そちらは確かに、琴音がありえない大間違いでたどり着いてしまった地下倉庫のある方向だ。
「んー、さすがは方向オンチ。来た道をどう戻ったら、ここへ来るんだ?」
「こと自身にとっても、永遠の謎だろうな」
「地下倉庫はこの下だよ」
デューロウが、回転する壁を動かす。
「ここだけ、からくり屋敷になってんだな」
「それを、ことが見付けたのか。もしくは、ことを見付けた人間がここへ連れ込んだか、だな」
三人で下へ降りて行く。
「どうして、こんな倉庫があるんだ?」
「昔、守扉者のしていることを信用してない人達がいて、襲って来たことがあったんだって。またそんなことがあっても問題がないように、少しでも食料の備蓄をするために作られたって聞いたよ」
「目に見えない力だから、信用しない人間がいても当然か。デューロウ、その倉庫はまだ使われてるのかな」
「うん。日持ちがする物が置いてあるんだ。ぼくは入ったことはないけど」
そんな話をしているうちに、扉が現れる。遼太郎が押してみるが、びくともしない。
「琴音! 中にいるのかっ」
「こと! 聞こえるか。返事してくれ」
二人して何度か扉を叩き、返事を待つ。
「お兄ちゃん、誠ちゃん!」
小さいながら、中から声がした。琴音の声だ。扉の前からなら、かろうじて声も届くらしい。
「くそっ。鍵がかかってるのか。ガレズが持ってるのかよ」
ノブを回すが、手応えがない。鍵がかかっているならノブは動かないものだが、このノブは動く。しかし、空回りしているような動き方だ。
よく見れば、鍵穴はない。このノブは、単なる取っ手なのだ。
「たぶん、ガレズ様の力で扉が固定されてるんだ」
「鍵じゃなくて、扉そのものを動かなくしたっての? こんな所でそういう余計な力、使うなってんだ」
誠一郎は、力まかせに扉を蹴った。
「ってぇ」
反動で足がしびれる。だが、扉は何も変わらず。動いてないし、扉に穴があくでもない。
「誠、無理するな」
「けど、こうでもするしかないだろ。鍵がかかってるなら、その部分を壊しちまえば済むけど。これ、木の扉だよな? でも、扉全部を壁みたいにされてんだぜ。だったら、その壁ごとぶっ壊すまでだ」
誠一郎は、もう一度扉を蹴った。
「誠、今微妙に動いたぞ」
「まじ?」
「ああ。次は俺がやる。こと、扉から離れてろ」
「わかった」
ちゃんと返事が聞こえた。
位置を交代し、今度は遼太郎が扉を蹴る。誠一郎より体格のいい遼太郎が蹴ると、扉に足が当たった時の音も大きい。当然、衝撃も。
扉がわずかにへこんだ。それに、数センチだが奥へ動いている。二人の蹴りは有効にはたらき、扉は確かに開きつつある。
「遼兄こそ、無理するなよ」
日常生活こそ不自由はないが、ひざを傷めて柔道をやめたことを誠一郎は知っている。今の衝撃は、遼太郎にとってはかなりきついはずだ。
「大事な妹を助けるのに、そんなこと言ってられるか」
「そりゃそうだ」
言いながら、誠一郎は強引に遼太郎と位置を交代し、扉を蹴った。遼太郎に比べれば、音が軽く感じられる。扉の位置も、そんなに変わっていない。
「ちぇっ。お兄様にはやーっぱ、かなわねぇのなー」
「つまらないこと、言うなよ」
「ぼくもやるっ」
遼太郎が交代するより早く、デューロウが扉の前に立った。
声はしなかったが、琴音の報告によれば、中にはデューロウの妹レイリーンがいるはずなのだ。助けたい気持ちは、二人と同じ。
「反動くるぜ。気を付けろ」
「はい」
デューロウが、力を込めて扉を蹴った。三人の中では一番背が低く、細い彼だが……扉が奥へと動いた幅は一番大きかった。
「デューロウ、もしかしてお前の力なら簡単に開けられるんじゃ?」
純粋な力業ならもちろん遼太郎が一番だろうが、特殊能力という点ではデューロウが一番。
この扉の場合、有効なのは特殊能力のはず……と、遅ればせながら二人は気付いた。
「簡単には……。今まで、こんな力の使い方は習ってないし」
「今から練習するって訳にもいかないしな。とにかく、順番にやっていこう」
また遼太郎が立ち、扉を蹴った。
今度は、さっきよりもさらに動く。蹴った本人も、扉がさっきより少し軽く感じられた。
デューロウが力を加えたことで、扉を固定する力が弱まったらしい。
次に誠一郎が蹴っても、扉はかなり動いた。
「琴音、無事か」
今では五センチ程開き、琴音がそこにいるのが何とか見える。
「うん。何ともない。ねぇ、みんなで扉を蹴ってるの?」
「ああ。このまま遼兄やデューロウと続けたら、人が通れるくらいまで開くだろうから、もう少しの辛抱だぞ」
「ちょっと待って。あたしもやってみる」
「やってみるって……そっちから蹴ったら、また閉まるぞ」
「そんなこと、しないわよ」
信用ないなぁ、と思いつつ、琴音は扉に手をかける。
三人が蹴っている時はあんなに重たかった扉が、琴音が引くと何でもないように開いた。普通の扉が開いたかのように。
「お兄ちゃん、誠ちゃん!」
琴音は、扉の前にいた二人に飛び付いた。
「絶対来てくれるって思ってた」
「それはいいけど……どうして琴音が引っ張ったら、あんな簡単に扉が開くんだ」
交代しながら必死に扉を蹴っていた自分達が、ちょっと空しくなる。
「わかんないけど……きっと誠ちゃん達が扉の力を蹴り砕いてくれたからよ」
琴音自身も、ちょっとびっくりしたのだ。ちょっと試しにやってみよう、くらいの気持ちで引っ張っただけなのだから。
「ま、ことが無事で何よりだ」
部屋の奥では、デューロウが捜し続けた妹を抱き締めていた。その様子を見て、三人は少しほっとする。
これで、一つの件は片付いた訳だ。
「琴音、ガレズさんが闇にって、本当なのか」
「……うん」
琴音は二人にこの倉庫へ入るまでと、ガレズのこと、レイリーンから聞いたことを話した。
「あの人、扉が開くって言ってた」
「扉って……おい、まさか」
誠一郎がそれを聞いて、遼太郎の顔を見る。
「この扉を閉めながら言ってたから、何言ってるのって思ったけど。あの扉のことよ」
琴音がそう言った途端。
爆発音が聞こえた。
「きゃあっ」
琴音とレイリーンが悲鳴をあげ、誰もが首をすくめた。音とともに、地面が大きく揺れる。
一度はおさまったものの、細かい揺れが続いていた。さっきの爆発の余波なのか、別のものか。それはともかく。
「ここを出るぞ。急いでっ」
多少は丈夫に造られているだろうが、安全性は怪しい。倉庫より、階段の方が先に埋まってしまうこともありえる。
遼太郎が年少二人と琴音、誠一郎を倉庫から出るように誘導した。
地下倉庫が崩れないうちに、全員が慌てて階段を駆け上がる。
上へ出てお互いの無事を確認していると、守院にいた他の人達が次々と廊下へ出て来た。尋常ではない音に、誰もが大騒ぎしている。
廊下のガラスが割れ、床に破片が散らばっていた。さっきの爆発音は守院ではなかったようだが、ここまで被害が及んでいるのだ。
「何だ、今の音は」
「護所の方からじゃないのか」
「守長達はっ」
「護所にいらっしゃるはずだ」
あちこちで、怒鳴り声に近い会話がなされている。やはり、扉があるあの建物が現場なのだ。
誰もが右往左往している間にも、地鳴りのような音が聞こえ、細かく地面が震え続けていた。
さっきの音が何か爆発したものだとしても、ずっと音が聞こえ続けているのは妙だ。この音は何なのだろう。
「ここにいる人達、みんな正気だわ」
「え、何だって?」
周りの騒音と地鳴りでよく聞こえず、誠一郎が聞き返した。
「ここにいる人達、誰も闇に囚われてないの。さっき、トイレに行く時は何人かいたのに」
遼太郎がデューロウの方を見ると、彼も周囲を見回し、うなずいてみせた。彼にも、闇に囚われてる人間が全く見えないのだ。
「さっきの揺れで、正気に戻ったとかじゃないのか?」
「わかんない。でも……」
そう話しているうちに、守扉者達は外へ出て行く。爆発現場の護所へ向かっているのだ。
「みんな、あの扉の方へ行ったのね。あ、大変! バルムさんが」
護所には、バルムや数人の守扉者がいたはず。
彼らもガレズのように、闇に囚われたり正気だったりを繰り返しているかも知れないが、とにかくいやな予感がする。
琴音達も他の守扉者達に混じり、守院を飛び出した。
「うわ、えらいことになってんな」
さっきの音の大きさからして、相当な被害が出ているだろうと予測はしていた。
守院からそう離れていない場所に建つ、封印の扉があった護所。
それが木っ端微塵になり、ほとんど建物の土台部分しか残っていない。
その建物の中にあったはずの扉も、完全になくなっていた。





