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扉の向こう~黒ねこについて行ったら異世界へ~  作者: 碧衣 奈美


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15.捜索

 どこにでもいそうなおばさんよね……などと思いながら、琴音はフードを少し目深にかぶり、さりげなく誠一郎の後ろに隠れる。

 レイリーンを知っている人なら、別人とわかっても彼女に似ている琴音にあれこれと尋ねてくるかも知れない。そんなことに時間を取られたくなかった。

「今日はどうしたんだい? レイリーンは一緒じゃないんだね」

「うん……。あの、レイリーン、こっちへ戻って来てない……よね?」

「いや、あたしゃ見てないけど。何かあったのかい?」

「えっと……」

 デューロウは口ごもった。

 おかしなことは言えない。変に怪しまれたりしたら、妙な噂になって流れてしまう。こういったおばさん達の情報伝達速度は、驚く程に早いのだ。

 もっとも、情報の中身があまり正確でないことも多々ある。それはそれで、かなり厄介だ。

「街へ買い物に出たんですが、帰りが少し遅いので」

 デューロウが答えられないでいると、横から遼太郎が助け船を出した。

「彼女も神殿を出るのが久しぶりだったので、恐らく友達と会って話し込んでいるか、来たついでにここへ寄ってるんだろう、と思っていたんですけれどね。彼がひどく心配するので、来てみたんです。我々も別件でこちらへ来る用がありましたので、一緒に」

 神殿の人間が、街の人達に対してどういう話し方をするかはわからない。

 街を守ってやっている、という感覚から高飛車な態度を取るのか。街を守る使命を持つ、聖職者のような態度なのか。

 バルムは穏やかな話し方だったが、守院を出た時に話しかけて来た三人の守扉者は少し偉そうな言い方をしていた。個々の性格にもよるのかも知れない。

 なので、遼太郎はなるたけ無難な言い方にしておく。

「ああ、そうなのかい。家には戻ってないようだよ。少なくとも、ここ一週間は誰も来た様子がなかったしね。デューロウ、おとなしくたってレイリーンも女の子なんだから、おしゃべりくらいするよ。女からおしゃべりを取っちまったら、陰気な飯炊きババァになるのがオチだからね」

 おばさんは、遼太郎の言葉をあっさり信じてくれたようだ。

「デューロウ、やっぱりレイリーンはどこかで友達と会っているんだろう。すれ違って、今頃はもう神殿に戻っているかも知れないよ」

「そ、そうですね……」

 ぎこちなくも、デューロウは遼太郎に話を合わせた。

「では、我々はこれで」

 軽く会釈し、デューロウを促して歩き出す。

 長居は無用だ。どこでボロが出るか、わからない。さっさと移動するに限る。

 デューロウもメイサおばさんに挨拶をして、その場を離れた。

「大変だろうけど、がんばるんだよ」

 何も知らないおばさんの声が、デューロウの背中にかけられた。

☆☆☆

 デューロウやレイリーンと仲よくしていた、友達の所へも行ってみた。何か聞かれると面倒なので、メイサおばさんにした作り話を繰り返しておく。

 やはり、有益な情報はなかった。あるとすれば、神殿の人間が捜しに来たことになっているのに、実際は誰も来ていない、ということだろう。

 友達の家を二軒行ったところで、誠一郎が「街をこれ以上捜しても無駄だ」と言った。

「あと何軒あるか知らないけど、たぶん同じ答えしか返ってこないと思うぜ。誰かに連れて行かれたとしたら、知り合いがすぐ近くにいるこんな所へは連れて来ないだろうし」

「デューロウ、他に捜す場所は?」

「神殿の裏山くらい、かな……」

「俺達が最初に出た場所だね。暗くなる前に行ってみよう」

 さっさと決断すると、四人は再び神殿の方へと早足に向かう。

「ねぇ、デューロウ。レイリーンは、封印以外にどんな力を持ってるの? あなたみたいに、よその世界に道を開くとか?」

「ううん、それはできないんだ」

 彼女にそういう力があって、一人でよその世界へ行ったまま戻って来られない状態であれば、捜しようがない。それについては、最初に話していたことだ。

「レイリーンは、声を送ることができるんだ。自分の声を、離れた場所にいる誰かに」

「オレ達の世界で言うところの、テレパシーとか念話ってやつかな。デューロウにはそれ、できないのか?」

「ぼくは送れない。レイリーンの声を受け取ることはできるけど」

 能力は人それぞれ、ということだ。

「レイリーンがいなくなってから、デューロウに彼女の声は届いてないのかな」

「うん……聞こえない」

 眠っていなければ。レイリーンに「声を送ろう」という意思があれば。ちゃんと声は届くはず。

 それがいまだに届かないのは、彼女がずっと眠らされた状態なのか、自分の居場所を伝える気が全くないか。

 どちらの理由にしろ、デューロウにとってはつらい。

 何となく空気が重苦しくなる中、琴音達が最初にこちらの世界へ来た時の場所、フッカの山へ入った。

「ここね、ぼくが道を開いた場所以外にも、小さな洞窟があちこちにあるんだ」

 デューロウが道を開いた場所は、彼がこの山で知る一番深い洞窟だった。

 少しでも邪魔が入らないように、デューロウはそこを選んだのだ。闇に囚われかけている仲間に見付かったら、何をされるか想像できないから。

 他の洞窟は、入ればすぐに突き当たってしまうような所がほとんど。雨宿りくらいはできるかな、という程度らしい。

「あたし、洞窟って呼ばれる場所で雨宿りなんてしたことないけど……土砂崩れとか、しないのかしら」

「絶対安全とは言えないだろうけど、そういう場所はそもそも最初から立入禁止になってるんじゃないかな」

「そういうのって、役所や土地の管理者とかがするもんだよな。デューロウ、この山は誰が管理してるんだ?」

 誠一郎の質問に、デューロウは戸惑う。

「誰がって……えっと、この山はみんなの山だし……」

「それって国か街のもの、もしくは無法地帯みたいなもんってことか。ま、この際、誰の山かなんていいや。デューロウが知ってる洞窟だか横穴だか、片っ端から捜そうぜ。そのうちのどこかに、放り込まれてるかも知れないしな」

 この周辺の地盤の強度なんて、もちろん琴音達は知らない。きっとデューロウに尋ねても、わからないだろう。

 今は晴れているからいいが、そのうちに雨が降り、琴音が言ったように土砂崩れでも起こしたら。

 その場所に、レイリーンがいたら。

 山にいないのなら、いっそその方がいい。もしどこかの洞窟にいて、そこが崩れたりしたら……。

 考えたくはないが、こういう場所だと悪い可能性はいくらでも出て来る。

 デューロウが先に歩き、思い当たる場所へ次々に向かった。その途中でも、人が隠れられそうな場所には目を光らせる。

 しかし、どこにもレイリーンはいない。それどころか、人が来たような痕跡の一つすらもなかった。

「今の時間だと、これ以上深入りするのは危険だ。戻ろう」

 太陽(この世界でも、太陽と呼ぶかは不明だが)は、すでに傾いている。

 琴音達の誰も明かりになるようなものは何も持っていないし、早々に戻るべきだろう。こんな場所で暗闇を歩き回るのは無謀だ。

「うん……」

 デューロウもどこか不承不承ながら、それでも素直にうなずく。

 その時、がさがさと明らかに風のせいではない、草の揺れる音がした。

「誰だっ」

 誠一郎が声を上げた直後、背の高い男が現われる。

「あ、ガレズ様……」

 出て来たのは、守院を出る直前に会った副守長だった。

「デューロウ? お前も、こんな所にまで捜しに来ていたのか」

「お前もって……ガレズ様も?」

「ああ。じっとしてはいられないからな」

 言いながら、ガレズはこちらへ寄って来た。

「どうだ、何か手掛かりになるようなものはあったか?」

 尋ねられ、デューロウは首を横に振った。

「そうか。こっちも何もなかった」

 ガレズは横を向いて、小さくため息をついた。

「一人で捜していたんですか?」

 遼太郎の質問に、ガレズはうなずいた。

「みな、交代でずっと結界に力を送り続けている。それだけでも、疲労は激しい。レイリーンを捜すのも交代でしているが、休んでいる者に一緒に捜しに来いとは言えん」

「ガレズ様だって、お疲れなのに……」

 守長の次に、強い結界を張る力を持つガレズ。その彼も、ここ数日は力を酷使しているはずだ。

 疲れている、と言うのなら、他の守扉者達と条件は同じ。神殿で会ったバルムよりは元気そうだが、彼も顔色はあまりいいとは言えない。

「私はまだ大丈夫だ。少なくとも、バルムよりは動ける」

 改めて彼の顔を見ても、初老のように見えた守長のバルムと同い年とは思えない。

「あの……バルムさん、具合はどうなんですか?」

 ガレズはちらっと琴音を見て、すぐに視線を外す。

「しばらく休め、とは言ってある。そう言っても、素直に休む奴ではないがな」

 やれやれ、といった口調だ。

「あいつは自分の限界ぎりぎりまで、力を使い続ける。そんなことばかりしていては命を縮める、と何度も言ったんだが……。性格なのでどうしようもないのです、ときた。まったく、迷惑な性格だ」

 琴音達はさっきバルムと会ったばかりだが、きっとあの穏やかな、でも少し困ったような表情で言ったんだろうな、というのは想像できた。

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