光から現れた後
意識が戻ったとき、レオンハルトは即座に異変に気づいた。
――ここは、違う。
目を開けた彼の視界に広がっていたのは、あの緑に覆われた静かな遺跡ではなかった。
代わりにそこにあったのは、整然と並ぶ無機質な建物、耳をつんざくような轟音を上げて走る鉄の箱、そして灰色に舗装された硬い道――見たこともない「街」だった。
それまでの湿った風の匂いも、木々のざわめきもない。
空気は重たく、肌にまとわりつくような暑さが全身を包む。
まるで、空気そのものが煮え立っているかのようだった。
さらに違和感を覚えたのは――自分の服装だった。
明らかに、転送前とは異なっている。
質感も、裁断も、見覚えのないものだ。
まるでこの世界に“馴染むよう”に、誰かの手によってすり替えられたかのように。
「……どこだ、ここは……?」
その問いが脳裏に浮かぶと同時に、周囲の気配に気づく。
自分の周囲には、すでに十数人の人々が集まっていた。
年齢も性別も様々だが、皆一様に興奮した顔で、手に持つ“何か”をこちらに向けていた。
それは、光沢のある板のような形状をしており、小さな光が点滅している。
時折、ピピッ、と高い電子音が鳴る。
「今の見た!? マジで光の中から出てきたって!」
「やば……やばいやばい、ちゃんと撮れてる……!」
「これってドッキリ? いや、本物……? え、マジで?」
耳に入ってくるのは、聞き慣れない言葉のリズム。
だが、不思議と意味は理解できる。
言語そのものは通じている――だが、抑揚や言い回しが微妙に異なっている。
(……言葉は通じる。だが、ここは俺の知っている“世界”ではない)
理解が追いつかない。
建物も、人間も、道具も……何もかもが異質だ。
手にしている板状の機械、あれは武器か? それとも……?
そして何より――
自分は、彼らに“見られている”。
注視でも、尊敬でも、畏怖でもない。
それは、面白いものを見つけたと楽しんでいる、獲物を見る目だった。
「……っ!」
瞬間、レオンハルトは体を反転させた。
本能が告げていた――この場に留まってはいけない。
彼の脚が地を蹴る。
鋭い呼気と共に、兵士として鍛え上げられた脚力が爆発する。
「待って! 走った! 逃げたぞ!」
「誰か追って! あれ、警察呼んだ方が――」
誰かが叫んだが、誰一人として彼の動きについていけなかった。
その足取りは迷いなく、一直線に通りの角を駆け抜ける。
まるで、ここが戦場であるかのように。
見知らぬ街。
知らぬ者たち。
意味のわからない装置。
――すべてが未知。すべてが敵に見えた。
(ここは……どこなんだ)
胸の奥で、言葉にならない不安が渦巻く。
追いすがる足音はないが、見られていたという事実が焼き付いて離れない。
走る――
ただ、走る。
息が切れるまで、街の喧騒も、光の痕跡も、すべてから逃れるように。
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