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光の中から現れた男

ネット上で突如として拡散された一本の映像が、瞬く間に人々の注目を集めた。

画面には、光に包まれて消える男と、その直後に現れる先ほどとは違う男の姿がはっきりと映し出されていた。服装は変わらないが背格好が変わる。

《光に包まれ消えた男、現れた男》

《カメラが捉えた超常現象の瞬間》

そんな見出しがネットニュースのトップを飾り、テレビのワイドショーやバラエティ番組までもがこぞって取り上げた。

自称専門家たちやコメンテーターたちは面白半分に語り、視聴率を稼ぐための格好の餌として扱った。


「これは超常現象です。これから起こる“異常”の幕開けにすぎません」

「フェイクですね。AIで生成された動画でしょう」

「でも、複数の角度から撮影された映像があるのに?」

「目撃証言が一つも上がっていないんですよ。不自然すぎる」


意見は割れ、議論は加熱した。だがその熱も、長くは続かなかった。

やがて、世間の関心は芸能人の不祥事や企業の汚職といった、より馴染み深く、より消費しやすい“話題”へと移っていく。

ネットの騒ぎも、テレビの喧騒も、いつしか静まっていった。

あの映像は、まるで最初からなかったかのように、人々の記憶からゆっくりと消えていった。



町の通りを、一人の男がふらふらと歩いていた。

少し汚れた制服に身を包み、シャツの袖から覗く腕は、無駄のない筋肉を宿している。膨れ上がるほどではないが、一般人よりも厚い胸板が、その身体がただの男ではないことを物語っていた。

彼の名はレオンハルト。

数日前、あの謎の“光”の中から現れた男だった。

今、レオンハルトの足取りは重く、どこか頼りなげで、まるでこの世界の重力に慣れていないかのようだった。

空腹が彼の体力を容赦なく奪っていた。

過酷な任務中に何日も食事を取らずに活動した経験はある。だが、こうして丸一週間、何も口にしないまま彷徨い続けるのは初めてだった。

腹の底がきしむように痛み、喉は乾いていたが、水がどこにあるのかもわからない。

何より、ここがどこなのかが分からなかった。

見慣れぬ街並みに、見慣れぬ言語。人々の服装も、何もかもレオンハルトの知っているものとは微妙に違っていた。いや、まったくの未知というわけではなかった。記憶の奥に、微かに刻まれた情報があった。


(これは……過去に存在していた、地球の街並み……?)


そう、昔、護衛していたアイリス姫の執事であったコンラッドから教えられた“歴史”に近い。

レオンハルトがいたのは遥か未来の時代であり、このような街はすでに失われた記録にしか存在していないはずだった。

看板に書かれた文字は読めない。だが、すれ違う人々の会話は理解できた。

言葉は通じる――そのはずなのに、どこか違和感がある。単語は聞き取れるのに、抑揚やリズムが微妙にずれているのだ。

レオンハルトの足取りが、ふと止まった。

視界が揺れる。耳鳴りがする。

体の芯から力が抜け、膝が崩れ落ちる。

――ああ、限界だ。

彼の体は静かに地面へと倒れ込み、その意識も深い闇の底へと落ちていった。

目の前が暗転する瞬間、走馬灯のように過去の情景が脳裏を駆け巡った。


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