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日常の終わりは突然に

翌朝。

スマホのアラームが鳴り響き、勇人は目をこすりながら布団から起き上がる。


「おはよう、勇人。朝ごはんできてるわよ」


母親の声も、昨日とまったく同じ。

焼き鮭、味噌汁、卵焼き。

食卓に並ぶ朝食も、いつも通り。

テレビでは天気予報が流れていた。画面の隅には「午後から広い範囲で雨」とのテロップ。

キャスターが折りたたみ傘を忘れずに、と笑顔で呼びかけている。

歯を磨き、顔を洗い、制服に着替える。

食べ終えた食器を流しに運び、リュックを肩にかけて玄関に向かう。

その時、母親が玄関の傘立てから一本の傘を差し出してきた。


「今日は降るって言ってたから、ちゃんと持っていきなさいね」

「んー……わかった」


しぶしぶ傘を受け取り、靴を履く。

扉を開けて外に出ると、まだ雨は降っていない。

空は一面の雲に覆われ、重くどんよりとしていた。

晴れているわけでも、完全な曇天というわけでもない、中途半端で不安定な空の色。

勇人はふと立ち止まり、空を見上げた。


「……嫌な空だな」


ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟く。

――その数分後、異変は起きた。

キィィィィィン……ッ

脳を切り裂くような、鋭い金属音。

頭の奥から響いてくるその音に、勇人は思わず足を止めた。


(……な、なんだ……? これ……?)


耳じゃない、“頭の中”に直接響くような、異様な音。

聞いたこともない感覚。気味が悪い。怖い。息が詰まる。


(何だよ……何が起きてる……?)


心臓が、ドクンと跳ねる。

視界の端がにじむような、現実がぼやけていくような違和感。

思考がまとまらない。頭が真っ白になる。


(夢か……? いや、でも……こんな……)


周囲には何の変化もない。

人々は歩き、車は走り、朝の喧騒は変わらない――ように見える。

勇人の阿多も野中だけに響く機械音。

だが、足元に視線を落とした瞬間――

地面に、淡い青白い光を放つ円形の模様が浮かび上がっていた。


(うそだろ……?)


魔法陣のような、それでいてどこか機械的な印象の文様。

それが勇人の体をなぞるように、徐々に上昇していく。


「なっ……」


下半身が、光に変わって崩れていく。

まるで空気に溶けるように、足元から消えていく感覚。


(消える……!? おれが……!?)


何がどうなっているのかわからない。

怖い。どうすればいいかわからない。叫びたいのに声が出ない。

――助けてくれ。

そんな言葉が喉まで上がってきて、けれど声にならなかった。

それは、周囲の人間にも異常として映った。


「ちょっと、今の……なに?」

「え、あの人、光ってる……?」


スマートフォンを取り出し、カメラを向ける人々。


「やばいやばい、撮っとけ撮っとけ!」

「これ、ネットにあげたらバズるぞ……!」


勇人の消失は、通行人の“映像”に変換されていく。

けれどその中心にいる本人だけは、

その現象が“現実”だとは、どうしても思えなかった。


(いやだ……どこかに行きたくなんか、ない……)


スマホ越しに撮られながら、勇人の体は音もなく、確かに現実から消えていった。

そして、彼の意識は――白く、何もない空間に吸い込まれていく。


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