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4.立川ノイズストリート

 立川駅の北口。


 エスカレーターを降り、大通りを渡る。


 映画館に向かう広大な歩道と、謎のオブジェを脇目に見ながら目的地へと向かう。するとそこには、スマートフォンの画面で見たままの光景が、男の目の前にあった。


 粗末な木組みの台に、無骨なラジカセのような機械、――それは、70年代のSF映画に登場する小道具のガジェットのようにも見える。


 それを足元に置いて立つ少女。 黒髪セミロング、無造作に切ったような前髪。野暮ったい眼鏡。しまむらで買ったような服。田舎の中学生のような風貌だが、どこか異様な存在感があった。


  彼女が操る機械は「心霊サイザー」と呼ばれ、SNSでバズっていた。


“あの世からの電波を受信できる”、


 そんな都市伝説じみた説明が添えられ、画面越しにはただのノイズにしか聞こえなかったが、なぜか人を惹きつける音だった。

 実物の音は、もっと奇妙だった。


  ガー、キュイーン、ピー。


 無作為な電波の破片のようであり、ある種のポエジーのようでもあった。


  男は、ひと呼吸おいてから少女に声をかけた。



 「その、あなたの親しい人、降霊させます。ってやつ……お願いできる?」


 少女は一度だけ瞬きをして、こくりと頷いた。


 「はい。お布施は、お気持ち程度でお願いします」


 男は財布から千円札を取り出し、彼女の足元に置かれた缶に差し入れる。


 少女は無言で謎の機械をいじった。


 ボリュームダイヤルのようなものを回し、金属片のようなスイッチを数回押す。

 音が変わった。


  ガー……キュ…………ピーー……。


  それまでの無機的なノイズよりも、どこか“調子”がついてきているような、まるで誰かの呼吸のような、気がした。


「……お祖父様。あなたのこと、本当に、心配なさってるみたいですね?」


  少女は目を伏せたまま、ぽつりと言った。

  男は息をのんだ。

 祖父は七年前に亡くなった。


 生前、あまり話すことはなかったが、最期の病室で自分の名前を呼んだのを覚えている。


  だが、音は変わらずノイズのままだった。 ガガ……ガー……ピー。


 「あなたが、ちゃんと、ご飯を食べてないこととか……煙草を増やしたこととか……そういうこと」


 少女の声が、機械の音と同化していく。


「ちゃんと伝えて欲しいって」


 男は、何かを答えようとしたが、喉が詰まったようで言葉が出なかった。


  気づけば周囲に人はほとんどいなくなっていて、駅前のネオンだけが、ゆるくちらついていた。


  少女はもう音を止めていた。


 だが、音はまだ聞こえる気がした。 ピー……キュイーン……ガ。

 男は口を開いた。 「……ありがとう」


 少女は頷いたか、どうかも定かでないまま、背を向けた。

  心霊サイザーが、きぃ、と軋んだ音を立てたような気がした。


 

 帰りの電車の中、ふとスマホを開く。


 ニュースサイトやSNSには、先週突如として国分寺にあらわれ、自衛隊によって討伐された怪獣の死体をどうやって始末するか? その財源はどうするか?

 そもそも国分寺駅周辺の復興に関する政策はどうなるかというトピックが溢れる。


 "心霊サイザー、少女"と検索する。


 反乱するネガティブワード。


 頭おかしいってw

 あの子、音大生らしいよ! 

 ソースはどこよ?

 ノイズミュージックの新しい商売

 ノイズ系立ちんぼ笑

 感動した!!!

 come to brazil


 何が正しくて、何が間違っているか、 本当につまらない世の中だなぁ、とぼんやり考えた。


 そして、すぐに明日の仕事のスケジュールを記したLINEメモのページを立ち上げた。

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