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第13話 見覚えのある二人組


 装飾品を買った露店を離れ、私達は引き続き商店街を歩いていた。


 前回の時間軸でここに来た時は、何となく人混みの中に居ずらくて直ぐこの場所を離れてしまった。しかし今回は、少しずつ状況が分かって来たのも相まってかなり奥の方まで露店を楽しむことが出来ていた。悪字のことや自分が魔族であることなど警戒しなければいけない事は多いが、それでもそれを上回るほどにフィレーナさんとの時間が何よりも楽しかったのだ。


「うわっ!何ですか、これ……お肉?」


「ん?あぁ、これは”ラゴース”っていう魔獣のお肉だね。少し高いけど、柔らかくて美味しいんだよ」


 露店と言っても、売っているものは物品だけに留まらず食料品や趣向品なども取り添えている。しかもここが日本ではないということで、そこにある物は今までに見たことも無い商品ばかりであった。


 その中でも最初に気になったのが、恐らく精肉店であろう出店に置かれたお肉たち。一見見慣れた鶏肉や豚肉のようであっても質感や様態が若干違っていたり、そもそも見たことも無い形状のものが売られている。


「そうなんですか、初めて見ました……ラゴースってどんな魔獣なんですか?」


「…?……パンドラは見たことが無いの?この辺の一般の家庭じゃ、ラゴースの肉は主にお祝い事の日なんかに食べたりする定番のお肉なんだけど……」


「あ……え、えぇ、まあ……うち、そんなに裕福な方じゃなかったので……」


「――?」


 何となく当たり障りのない感想を言ったつもりが、フィレーナさんにはそれが珍しいこととして聞こえてしまったらしい。まあ確かに、多分だけどそのラゴースとやらは私にとっての牛肉くらいにありふれた食材なのだろう。

 そうなると、そんな常識的で当たり前の知識が無い私はおかしな子として見られてしまっても仕方がない。


「ラゴースはね、小さくて全身に毛の生えた四足歩行の魔獣だよ。足は速いんだけど力とかはそんなに強くなくて、子供でもなんとか狩れるくらいのやつ。……この街の近くの森を彷徨っていたなら、一匹くらい見かけたんじゃないかな?」


「えっ?……あ、あー!そ、そういえば、そんなのも居たかもしれませんねっ!」


 あからさまに誤魔化しつつ、されど言われてみればそんなものが本当にいたかもしれないと私は内心思っていた。ホーロスに最初に来た時だったか、或いは街から逃げ出す時か何かにそんな小動物を見かけたような気がする。といっても小動物自体は何種類かいた気がするから、どれがそのラーゴスという魔獣なのかわからないけど。


「そ、それより、その……あ!こ、こっちのお肉は何ですかっ?」


 バツが悪くなった私は、続いてその隣にあった肉を指差した。それは全体に赤みの掛かったブロック状で、筋が多く見るからに固そうな様態をしていた。恐らくは筋肉質な生物、或いは部位のお肉なのだと思われる。


「ん?あー、これは”エラフィ”だね。これくらいの大きさの、頭に二本の角が生えた四足歩行の魔獣だよ。ちなみに、さっきパンドラも食べていたノモス食堂のスティに入っていたお肉がこれだよ」


 あーなるほど、あれか。

 フィレーナさんが『これくらい』と表現したのは、彼女の胸の高さぐらいの大きさで横に長い形であった。また二本角というところから、恐らくそのエラフィさんは鹿のような何かだと思われる。それは流石に森の中で見た記憶は無いけれど、味なら何となく覚えている。あの美味しいスティに入ってたのは、元はこんな見た目だったのか。


「――――あれ?フィレーナじゃないか」


 精肉店の前に差し掛かり、引き続き商店の品物を眺めていた私とフィレーナさん。

 ……すると突然、私達の仲を邪魔するような訪問者が現れた。


「……あぁ!お疲れ様。奇遇だね、こんなところで会うなんて」


「まったくだ。……おっと、連れが居たのか?」


 それは、この街じゃどこにでも居るような所々の鎧を身に着けた衛兵さん。しかも相手も男二人で連なって歩いていて、更に更にフィレーナの反応から彼女の知り合いであるようだった。


 ――加えて、私自身もよぉーく知っている二人組である。


「あ?なんだぁーコイツ。見ない顔だよな……よそ者か?」


「相変わらず、口が悪いよズラ……彼女はパンドラ。さっきノモス食堂であったばかりで、今街を案内してるところなんだ」


「なるほど、そういうことか……まったく、フィレーナは相変わらずお人好しだな。街の案内なんて本来は衛兵の仕事じゃないだろう?」


 そう言ったのは見るからに真面目そうで、立つ姿勢すら整った青年。短く切り揃えられた金髪と、腰にはフィレーナさんと同じ見た目の鉄剣を差していた。

 

 一方、もう一人の男はこの場の誰よりも年上っぽく、そして傍から見ても分かる程に仕事が適当そうな者であった。茶色がかった長髪を無造作に後ろで結び、顔には無精ひげまで携えている。極め付きはその口調で、フィレーナさんも指摘していた通りとても衛兵として相応しいものでは無かった。


「まあ、確かにそうだけど……困っている人を見かけたら、助けてあげなきゃって思うのが僕の性なんだ。仕事には支障をきたさない範囲でやるし、大目に見てくれよ」


「あぁ、いや……俺は別に、フィレーナの仕事に文句があるってわけじゃないんだ。ただ他の同僚の目もあるし、出来るだけ勝手な行動は控えて欲しいってだけで……」


「ハッ!そんなこと言って、カイルはこのよそ者が羨ましいだけだろ?本当は自分がフィレーナと二人で出掛けたかったってな」


「ばっ……!!…そ、そんなわけないだろっ!!」


 私を抜きにして、衛兵の三人は特に他愛もない雑談に花を咲かせる。どうやら話を聞いていた限り、カイルと呼ばれた青年の方はフィレーナさんに気があるようだった。しかもそれを隣のズラという男には知られてしまっているらしく、上手く揶揄われていた。もっとも、彼女に好意を寄せるカイルくんの気持ちも分からなくは無いが。


 ――――などということを考える余裕は、今の私には全く無かった。


 この二人に、私は見覚えがある。

 間違いない。彼らは、私が最初に世界をやり直したあの時、フィレーナさんを求めて街役場を訪れた際彼女と一緒に居た衛兵たちだ。あの時もこの二人は、フィレーナさんと話をしていて何やら衛兵としての仕事をしていたようだった。


 ……そして、今の私はそんな彼らを見て心底震えている。それはあの場でうっかり私が自身の正体を公に晒してしまった時、周りの住人達と一緒になってこちらに殺意を向けてきたという経験があるから。勿論彼らは衛兵としての仕事を全うしただけであり、私個人に対する恨み等があるわけでは無い。だが、それでもあの時私が受けた仕打ちは忘れようにも忘れられない辛く苦しい記憶であった。



 故に、私が恐れるのはあの事態の再臨。

 二度と同じ轍は踏まぬよう気を付けつつ、絶対にこの二人には私の正体がバレてはいけない。……出来るだけ俯いて、早くこの場をやり過ごすしかない。


「あはは、二人はホントいつも面白いね。それに、確かにカイルは良い人だけど……生憎、僕なんかじゃ君には釣り合わないよ」


「はぁ……ったく、フィレーナまでやめてくれよ。――――ところで、君。ちょっといいかな?」


 ズラと呼ばれた衛兵に続き、フィレーナさんもそれにつられて彼を揶揄っていた。

 ……しかし、そんな話の折突然こちらに矛先が向いた。まだ何も怪しまれるようなことはしてないはずだが、後ろめたい事実があるだけに私の心臓は大きく跳ね上がる。


「実は、今日上がってきた街周辺の調査報告で少し奇妙なものがあったんだ」


「えっ、報告?……どんなのだい?」


「詳しいことはまだわかってない。だが、何でも西側の森の中で魔族らしき連中を見かけたらしいんだ。付け加えるなら、大型の魔獣の影を見たって報告も上がってる」


「魔族と……魔獣か。なるほど、確かに気になるね」


 大型の魔獣……それって、もしかしてあの激ヤバ雄鶏の事なのかな……。

それに、あの森で魔族を見かけたって……魔族と魔獣には何かしらの因果関係でもあるのだろうか。


 いや、そんな事よりこの話題の中で私に注意が向いてるのはまずい。魔族と魔獣による不可解な報告、そしてそれと関連付けるように私に声をかけるなんて……本当に嫌な予感しかしない。


「そーいうこった。……んだから、今俺らは街中に居る今日ここに入って来た連中を片っ端から捜査してんだ。もしかしたら魔族の関係者や間者がいるかもしれないってな」


「えっ!?そ、それは幾らなんでもやり過ぎじゃないか……?」


「いや、勘違いしないでくれ。勿論無理矢理荷物を調べたりなんかしてないし、規則に反したことはしてない。俺たちがやってるのはあくまでただの聞き取り調査と、後は軽く身分を聞いたりこの街に来た目的を訪ねてるだけだ」


「そ、そうなんだ……それなら、まあ……」


「けっ。どっちだって一緒だろ、怪しい奴や侵入者がいたらどっちみち捕まえるんだからよ」


 この話の流れはマズいと思いつつも、私はその場を離れることが出来ない。本当は今すぐここから走って逃げだしたいくらいなのに、その方がかえって最悪な結果を招くことだけは目に見えていたから。


「……とにかく、そういうわけで君にも話を聞かせてもらいたい。一応フィレーナの連れだし、疑ってるわけじゃないんだが……一応こっちも仕事なのでね」


 彼はそう言うと、たった一歩こちらに歩み寄った。

 されど、実際にはまるで問い詰められているようなその視線に精神的圧迫感を感じる。


「名前は、確か――――パンドラ。君は、どうしてこの街に来たのかな?」


 真っ直ぐにこちらを見つめ、ハッキリとそう口にする一人の衛兵。その隣には同じく気怠げに、されど確実に意識はこちらに向けたもう一人の衛兵と。またその反対には赤い耳飾りを着けた可愛らしい衛兵さん。


 三人の衛兵に一斉に注意を向けられ、私はどうこの場を切り抜けたらいいのか考える。

 考えて、悩み、思い悩んだ結果……



 ――――私は徐に自分の懐の中に手を突っ込み、そしてそこから一枚の金属板を取り出したのだった。


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