第6話:過去と決意、再び旅路へ
二年の月日が流れ、リリィの記憶の中では、あの頃の出来事がぼんやりと薄れていった。彼女は日々、王国の騎士団で訓練を重ねていたが、あの奇妙な一緒に過ごした時間—レオンと一緒に戦った日々—がどんどん遠く感じられるようになった。
ある日、リリィは訓練の合間に手に取った古びた刀を眺めていた。その刃こぼれした刀は、誰からもらったのかは覚えていなかったが、しっかりとした重みがあり、心の奥底で何かを感じさせた。刀を握りしめながら、リリィはふと、「誰かに会いたい気がする」と呟いた。
その気持ちをどうしても捨てきれず、彼女は砦を目指して歩き始めた。たとえ記憶が曖昧でも、あの刀が示す何か—自分の中の強さや勇気、そしてかつての仲間—を感じていた。
一方、西部王国の酒場では、レオンが静かに飲んでいた。彼は数ヶ月前から酒場で過ごしており、周囲の喧騒にも動じることなく、ただ静かに自分の時間を楽しんでいた。しかし、その日は違った。突如として、酒場に駆け込んできた一人の使者が、大声で叫んだ。
「中央王国が魔王軍に宣戦布告した! 魔王軍の全勢力が動き出すという! 戦力差はなんと四分の一だ!」
その言葉を聞いた瞬間、レオンの心に何かが引っかかった。魔王軍が動き出すということ、それは全ての国々にとっての大問題だった。しかし、彼が気にしていたのは、そのニュース自体よりも、リリィのことだった。
「中央王国……リリィの国。」レオンは呟き、過去の日々が一気に脳裏を駆け巡った。
彼はリリィとの記憶を思い出した。釣りをして笑い合った日々、焚き火の周りで肉を焼きながら賑やかに語った時間、そして初めてのお酒で暴走したリリィの笑顔。それらの微笑ましい瞬間が、今となっては彼の心に温かい光を灯していた。
「なんでこんなことを忘れてたんだ…」レオンは頭を抱え、苦い表情を浮かべた。「俺、何やってんだ、全然だめじゃねぇか!」
突然の決意が彼の中で芽生える。リリィを忘れられない、その気持ちが溢れてきた。そして、今この瞬間、彼は自分がすべきことを思い出した。
「俺がやらなきゃ、誰がやる…!?」
彼はすぐに立ち上がり、鏡の前で髭を剃り落とす。顔をすっきりさせ、少しでも自分を取り戻すように、心を引き締めた。そして、腰に下げていた刀を見つめ、刃こぼれしたその刀に目を向ける。
「これじゃ、リリィにも恥ずかしくて会えねぇな。」
レオンは新しい刀を注文するため、すぐに鍛冶屋へと向かった。鍛冶屋の職人と打ち合わせをし、しっかりと自分に合った刀を作るように頼んだ。そして、それが出来上がるまでの間、彼はやるべきことを考えていた。
「戦力差が四分の一だろ? それでも、俺にできることはあるはずだ。」
レオンは決意を新たにし、再び旅路へと足を踏み出す。彼の心の中には、リリィのこと、そして彼女を守るために必要な力を得るために何をすべきかが明確になっていた。中央王国、そして魔王軍との戦いに向けて、レオンは一歩ずつ歩き出した。
「リリィ、待ってろよ。必ず、お前を守るために戦う。」