第1話:追放された理由、カウンターだけの男
「これで、終わりだ!」
レオンは、目の前に迫るゴブリンの群れに対し、決然と叫んだ。しかし、その声は少しばかり力なく響いていた。
「いや、終わらねぇだろ。お前、攻撃するだけじゃどうにもならんだろうが!」
パーティメンバーの一人、アレックスが顔をしかめる。レオンのスキル「カウンター」の使い方は分かっている。だが、彼の攻撃力は、スライムにも劣るという最悪の状態だ。
「だって、どうせ僕が攻撃しても全然効かないんだもん……」
レオンは肩を落として、すでに自分の役立たずぶりを痛感していた。自分から攻撃すると、ほんの数ポイントのダメージしか与えられない。その間にゴブリンたちは次々と彼に向かって突進してくる。
「仕方ない! お前は盾役だ! カウンターでゴブリンの攻撃を跳ね返すんだ!」
リーダーのエリックが叫びながら、レオンに指示を出す。しかし、レオンはただ首をかしげるだけだった。
「うーん……カウンターって、そもそも攻撃しないといけないんですか?」
エリックは呆れ顔で頭を抱える。
「お前、ホントにカウンター使ったことあるのか?」
その時、ゴブリンの一匹がレオンに飛び掛かろうとした。レオンは意を決してカウンターを決める。すると、ゴブリンがレオンに向かって剣を振り下ろすと同時に、レオンの身体が反応し、ゴブリンの攻撃を軽々と弾いた。
『カウンター!』
瞬間、ゴブリンの攻撃が自分に跳ね返ったかのように、ゴブリンは激しく吹っ飛ばされ、ゴブリンの仲間を何匹も巻き込みながら爆発的なダメージを与えた。
「……え? あれ?」
レオンはその瞬間、あまりにも大きな反動に驚いた。カウンターのダメージは、何と数百万倍の破壊力に達していた。ゴブリンたちは一瞬でその場に倒れ込み、何も残らなかった。
「うっわ、ちょっと待って、何が起きたの?」
レオンは自分の手のひらをじっと見つめた。まさか、この程度の攻撃でゴブリンたちが全滅するとは思っていなかった。周囲は唖然とし、誰も言葉を発せずにその場に立ち尽くしていた。
「……レオン、何をしたんだ?」
アレックスが目を見開きながら問いかける。
「うーん、カウンターで返しただけだけど。だって、攻撃しなきゃダメだし?」
「お前、カウンターの倍率、何倍だと思ってんだ!」
エリックが勢いよく叫ぶ。
「え、倍っていうか……もしかして53万倍?」
「その通りだ!」
エリックは顔を青ざめさせて、レオンを指さした。
「お前、カウンターだけでゴブリンの群れを一掃しやがった。お前の攻撃力はスライム以下のはずだろ!? どうなってんだ、このバグみたいなスキルは!」
「それ、なんか間違えたのかな……?」
レオンは肩をすくめ、困惑した様子で言う。
「いいや! あんたのせいで、俺たちまでクビになりそうなんだよ!」
「えぇ!? それはちょっと違うと思うけど!」
エリックは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「お前みたいな破壊力持った奴を野放しにするわけにはいかないだろ! こんなことが起きるなんて予想してなかった! もうお前はここにはいられない!」
「え、追放?」
レオンはぽかんとした表情を浮かべ、呆然とエリックを見つめる。
「まぁ、だいたいその通りだ。これからは一人でやってくれ。お前みたいなやつは、もう連れていけない!」
エリックは、手ひらを広げて後ろに一歩下がる。
「うーん、でもさ、僕カウンターしかできないし、ちょっとでも攻撃するとこんなになっちゃうし、どうすればいいんだろうね?」
レオンはそのままボーっとしていた。
そして、次の瞬間には王国から追放されて、街をさまようことになったのだった。
――とはいえ、レオンにはまったく不安はない。だって、カウンターで受けたダメージが53万倍だって、どこかで活かせるだろうと楽観的に考えていたからだ。
次々と襲い来る魔物を一掃し、街の人々に感謝される中、レオンの冒険はまだ始まったばかりだった。