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DARK SIDE  作者: 白花 みのり
高専編
3/5

02話 惑いのさなか

 全員が清力を認識し、次に行われたのは清力を浄力に変える訓練。変えるといっても体内の清力を外へ出すことでそれは自然と浄力に変化する。この訓練での1番の目的は清力を外に出すこと。そして徐々にその量をコントロールできるようにしていく必要がある。


 「体内に巡っている清力を掌に集めて、それを外に出すイメージでね」


 生徒たちは三崎から説明を受けながら校庭に連れられた。

 これからキャンプファイヤーでもやるかのように組まれた薪に、篝火台に、燭台が用意されている。


 「ここにあるのはどれも浄力に反応する特殊なもの。それぞれに火をつけられるようにすることが次の訓練。やたらめったら出力すればいいってもんでもないから、力加減のコントロールもできるようにね」


 火をつけるために必要な浄力の量はそれぞれ異なる。それぞれに必要最低限の浄力量が定められていて、そこに達すれば火がつくようになっている。それができるようになれば、次は適した火を持続的につけられるようにしていく。ついた火が一瞬で消えるようでも、薪や篝火にか細い小さな火でも、逆に蝋燭に燃えさかるような強すぎる火でもダメ。この細かい力加減で得意不得意が出てくる。それ以前に強かろうが弱かろうが火をつけるのに時間がかかる生徒が毎年一定数いる。



 第1の訓練で結界をすぐに出た夜行、逸、藤弥、孝仁の4人は第2の訓練も難なくこなした。

 その様子を見ていた伊吹は、なあなあと近くにいた慧に声をかける。


 「四方堂と花京院はわかるんだけど、雀松と加賀も浄化師の家系なのか?」


 「俺も詳しくは知らないけどそうなんじゃないか? 寮に入った時に、こっちの世界に全く縁のなかった一般家庭からの入学は俺と大地と恒史と那須の4人だって聞いたから。少なくとも身内に浄化師はいたんだろ」


 「名家の2人が特出してるのはまあ当然として、雀松と加賀もそれに負けず劣らずだからな。差し詰め旧家の出なんじゃないか?」


 伊吹と慧が話しているのを近くで聞こえていた葉月も加わる。


 「そういや初日に四方堂が雀松に掴みかかってたよな」


 「前から知り合いっぽかったし、四大家と知り合いっていったらやっぱ旧家か」


 「つーか、2人とも浄化師に全く縁なかったのか?」


 「なかったな」


 「ああ、まったく」


 高専には一般家庭の出の生徒ももちろんいるが、そのなかでも2つのパターンに分かれる。伊吹や扇鈴のように身近に元浄化師や現役の浄化師など、その世界に縁のある人がいる場合。一方で身近に浄化師も視える人もおらずそういったものと無縁だった場合。前者は本人が浄化師を目指すかどうかはさておきその存在を知っているものが多いが、後者は浄化師も澱も一切を知らない。慧や葉月は後者にあたる。


 「それでよく浄化師目指す決心ついたな」


 「まあそこの理由は色々だろ」


 3人が話している間に雅やひかりも火をつけていく。

 4人に次いで3種類にバランスよく火をつけたのは葉月だった。雫もいい線をいっているが、周りの様子に集中力が切れやすく火が乱れがちになっている。


 「那須くんは要領もいいし、コツを掴んだら早いね」


 葉月の浄力コントロールは三崎も感心するほどだった。


 第1の訓練で苦戦した恒史は蝋燭にはいい具合で火をつけられたが、篝火には火が小さく、薪につけられたのは一瞬だった。一方で伊吹は火が強すぎ、蝋燭の火が噴射花火のように燃え上がってしまい、何度か挑戦してみても伊吹はなかなか調整できずにいた。


 「いやー、今年は優秀だねー」


 毎年ここで躓く生徒が複数人出るなか、火力調整が苦手なものはいるものの全員火をつけることに成功し、三崎は感嘆を漏らす。




 伊吹は寮に戻ってからもどうすればうまくいくのか、と坐禅を組みながら考えていたが、ひとりで考えていてもわからず、気分転換でもしようと部屋を出ると、ちょうど隣の部屋に藤弥が戻ってきたところだった。


 「なあなあ雀松」


 「あ?」


 声をかけられた藤弥は不機嫌そうに顔を顰めるが、伊吹はそれを気に留めることなく続ける。


 「浄力のコントロールってどうやんだ?」


 「なんで俺に聞くんだ」


 「え? たまたまいたから。お前すぐ出来てたし」


 当然だろ、とでも言いたげな伊吹に藤弥はひとつため息を吐いて部屋のドアを開ける。


 「入れば」


 「お前、ツンツンして見えて実はいいやつだろ」


 「うるせー、追い出すぞ」


 「んな怒るなよ」


 藤弥は伊吹をひとつ睨むとベッドに腰を下ろす。


 「で? 浄力のコントロールだっけ?」


 藤弥の部屋を見回していた伊吹はそうそう、と相槌を打ちテーブルの前に座る。


 「コントロールっつってもな」


 「じゃあ雀松はどうやってんだ?」


 「どう……」


 伊吹の問いに考えてみるが、説明できそうになかった。


 「考えたことねーな」


 「お前あれか、天才肌か、感覚で出来ちゃうやつか」


 「違えーよ。昔からやってっから慣れるだけだ」


 「昔から……そういや、雀松とか加賀は旧家出身なのか?」


 「……まあな」


 藤弥はぶっきらぼうに答えると、さっさと話を戻す。


 「んなことより浄力だろ。今のお前は、キャッチボールをできるようになった子どもが楽しくなって加減もわからず全力投球してる状態なんだろ」


 「おい誰がガキだ」


 「ガキとは言ってねー。そもそも清力の流れはわかってんだろ」


 「おう」


 「じゃあ蛇口でも思い浮かべればいいんじゃないか」


 「蛇口?」


 「清力の流れ、その元がどこかは人によって感知する場所が違ってくる。大概脳か心臓か体の中心、臍とか鳩尾のあたりだ。そこに蛇口があると思え。いまのお前は常にその蛇口が全開みたいな状態になってる。それを閉めるイメージをしろ」


 伊吹は目を瞑り清力に集中しながら話を聞いていたが、藤弥の説明に次第に眉を顰めていく。


 「それができないから聞いてんだよ」


 「想像力が足りてないんだろ」


 「くっそぉ」


 「まあでも、訓練の1番の目的は達成してるからとりあえずはいいんじゃないか?」


 「1番の目的って……」


 「体内に流れる清力を外に出して浄力に変換すること。火をつけられた時点でそれはクリアしてる」


 伊吹含め、今年の新入生たちは当たり前のように火をつけているが、三崎が感心していたように本来なら火をつけるのにすら苦労することもある。




 藤弥の教えの甲斐があったかは定かではないが、訓練を重ね伊吹も多少の制御ができるようになり、何回かに1回は蝋燭に適した火をつけられるようになっていたのだが、


 「うわ、日浦くんストップストップ」


 反動のように薪の火が火事の如く燃えることもあった。


 「お前なんだいまの」


 「なにって、蛇口をイメージしろって雀松が言ったんだろ。ほら、自分ちの水道はレバーを上にしたら水出るけど友だちんちは逆でいつもと同じ感じで水止めようとしたら寧ろ勢いが強くなった、みたいな。そういうことあるだろ?」


 「そういうことじゃねえし、そもそも自分のことなんだから勝手に普段と変わったりしねーだろ」


 「えー、わかんねえかなあ」


 火の勢いは浄力の量に比例する。そして浄力量は浄化師としての力に繋がる。


 「あいつの浄力量どうなってんだ」


 「高専のうちにあれはなかなかいないね」


 「何者だ、あいつ」


 そして伊吹の浄力量は高専生、それも入ったばかりの新入生とは思えぬほどで、名家旧家の4人が驚くほどだった。


 伊吹を含め力のコントロールが必要な生徒はいるものの、火をつけるという点をクリアできているため次の訓練に移った




 「基礎訓練の最後の課題は浄力を浄術に変えること」


 そのために、今度は用意された蝋燭の火を消せるようにする。

 前の訓練では浄力に反応して火がついていたが、今回は浄化に反応して消えるものではない。火や水や風。そういった形、術にする必要がある。

 この基礎訓練の間に自分にあった形で具現化し使えるようになればなお良し。だが、そのあたりは班に分かれてからそれぞれの教官から教わっても遅くない。

 人によっては術よりも刀などの武器を使う方が合っている場合もあるため、第3の訓練では全員に1本、短刀を支給される。この短刀をその後も愛用する浄化師もいる。

 術を使えるものにも支給されるのは、任務中トラブルに見舞われ接近戦になることも考慮し、多少は武器を使えるようにしておいたほうが良いためである。さらに、短刀を使うのが不得手でも、物に力を纏わせることができていた方がいざというときに役に立つ。


 「コツ、と言ってもこればっかりは想像力と感覚によるところが大きいからね。強いて言うなら自分にあった術を使えるようにするって意味でも、自分と向き合う必要はあるだろうね」


 生徒たちは授業の合間に各自訓練を行なっていた。

 基礎のできている名家旧家出身の4人は各々自分に必要な鍛錬を積み、他の生徒たちは術の習得や扱いに励み、精神統一をし己と向き合っていた。

 基礎ができている名家旧家の4人を除き、最初に安定して術を使えるようになったのは葉月と扇鈴だった。葉月は前回の訓練で三崎に言われた要領の良さと器用さ、それに伴う応用力で術の訓練もこなしていた。扇鈴は実家での経験もあるが、初日からの書物庫通いが訓練にも繋がっていた。


 「お前、いつの間にそんなできるようになってんだよ」


 最終訓練に入り何度目かには火、水、風の基礎の術は使えるようになっていた扇鈴に伊吹は驚いた。


 「書物庫に『浄術の基礎』って本があるから読んでみたら?」


 扇鈴の言うとおり書物庫で本を見つけたが開いたページを読み切るよりも先に睡魔に負け、本から知識を得るのは諦めた。道場にいた頃から日課にしている坐禅で精神統一をし、時々藤弥にコツを聞きながら蝋燭の火と向き合う日々を送った。






 4月末日。

 伊吹たちが集められた校庭には、三崎と由良をはじめ職員が数名に、1年の教官を担当することになっている桐野江、綿矢、市ノ瀬、そして学長までも揃っていた。しかしもう1人、1年の教官を担当するはずの相良の姿は今回も見当たらなかった。

 校庭に散らばった13人の生徒。


 「これから校庭に結界を張る。結界のどこかに13体の澱がいるから、みんなには1人1体それを浄化してもらう。浄化できたものから結界の外に出られるようになる。制限時間は1時間。それじゃあ危ないから動かないでね」


 説明を終えた三崎はお願いします、と由良に目配せする。


 「学長、どのようにしますか?」


 由良の問いに学長はふむ、と考え


 「庭だな」


 そう答えた。


 「では、そのように」


 由良は目を閉じ、手を合わせ意識を集中させる。


 「“叡智の定め、深淵の底、幻影の導、時の狭間に、望みし幽玄の路を織り成す”」


 詠唱とともに校庭に結界が張られ、その中には生垣の迷路が現れる。生垣は優に2メートルを超えている。生垣の枝葉は密集し、かつバラのような鋭い棘を持ち、掻き分けることも乗り越えることもできない。目の前の道を進むしかないが、通ったそばから道が閉じていき、あるいは塞がっていた場所が開き新たな道を作っていく。迷路は形を変えていく。日が昇っていたはずなのに結界内はどこか薄暗く、加えて霧がかっているため視界も悪い。


 「澱を浄化するどろこじゃないだろ」


 ただただ目の前の道を進んでいた伊吹はひとりごちる。

 澱を浄化し結界から出る。それが今回の目的なのだが、澱の気配を察知する能力を身につけるというもうひとつの目的もある。そのため道なりに進んでいるだけではなかなか澱と出会わないようになっていた。が、生徒たちがそれを知る由もなく、澱よりも迷路に気を取られている数人の生徒は澱から遠ざかっていく。

 迷路の仕組みに気付き、あるいは最初から澱の気配を辿り、見つけた澱を浄化し早々に結界から出たのは逸、孝仁、葉月、雅、扇鈴。逸と孝仁は5分ほどで、3人は開始から15分と経たずに結界を出てきた。

 結界内は空間が歪み、迷路は実際の校庭よりも倍近く広がっている。誰と会うこともなく、薄暗くどこか恐ろしい迷路に怯え、澱どころか迷路どころでもないのが恒史とひかりの2人。迷路にイラつき、または困惑しているのが夜行、雫、伊吹、大地。

 慧は迷路を特になんとも思わずに進み、澱を探していたがまだ気配を探るのに慣れず苦戦していた。

 そして藤弥はいまだスタート地点から移動していなかった。

 藤弥は自分が使える術が好きではなかった。が、浄化師の家系に育ち浄化師になるように言われてきた藤弥は昔からその術を使えるように育てられてきた。他の系統の術を使えないこともないが、術を使おうとすれば他の術よりも昔から植え付けられてきた術の方が無意識に出てこようとする。例え少しだとしても藤弥はその術を使いたくなかった。

 30分を過ぎて慧が、しばらくして大地が結界を出た。次いで45分が経ち雫が、残り10分を切ってひかりと、なんとか恒史も出てきた。

 怖かったぁ、とへたり込む恒史の肩を慧や葉月が叩き、お疲れと労う。


 「四方堂と雀松はとっくに出てると思ったけどな」


 「藤弥はともかく、夜行は案外単純な方が苦手かもね。今回みたいなのは特に、迷路にイラついて澱どころじゃないんだと思うよ」


 驚いている雫に逸は困ったような呆れ笑いで答える。


 「なんだかんだ日浦もすぐ出ると思ったけどな」


 「あいつも単純だから。迷路に気取られてるんだと思うけど」


 結界を眺めながら不思議そうに呟く大地に、今度は扇鈴が呆れてため息を吐きながら言う。

 残り3分を切る。

 そのとき、不穏な気配が結界内から漏れてきた。


 「何があった?」


 「わかりません。感知不能ですが、明らかに私たちの用意している擬似的な澱ではありません」


 「3人のうちの誰かの術ってわけでもなさそうだね」


 逸は訝しげに結界を見つめる。浄化師の力とは思えない禍々しい気配。擬似的な澱どころか、本来の澱であってもこれほどまでの気を発していることはない。


 「結界は閉じれるか?」


 「申し訳ありません。結界の精度のため、制限時間になるか全員が出てくるまで結界は閉じられません」


 「……そうか」


 「ですが本来、侵入もできないはずなのですが」


 「由良の結界術を凌ぐとは、何者の仕業だ」


 学長と由良の会話に周りにも緊張が走る。結界により中の様子も、いまだ中にいる3人が無事なのかすらわからない。




 制限時間5分を切っても3人は迷路を彷徨っていた。藤弥に関しては自ら澱から離れていくように進んでいた。短刀を使えばいいものの、そこは本人の変なプライドが邪魔をした。この訓練で結界から出られなかったからといって浄化師になれないわけでもない。藤弥はこのまま時間が経つのを待っていた。

 伊吹は迷路に迷い、夜行は迷路にイラついていたがようやく澱と対峙し浄化しようとしていた。結界の外に漏れるほど禍々しい気配のものが突如結界内に現れたのはそのときだった。


 「チッ、どうなってんだよ」


 悪態を吐く夜行の目の前にそれは降り立った。


 「……誰だ、てめえ」


 気圧されるほどの気配に、夜行は片膝をつく。現れたのは夜行やほかのものたちと変わらない人間の姿をしたもの。澱とも違う禍々しい気配を纏っていることを除けば、ただの男に見えた。


 「ほう、これでも気を失わないとは昨今の浄化師はなかなか優秀なようだね。ああ、まだ学生だから浄化師見習いといったところか」


 「誰だって聞いてんだ」


 「きみ、浄化師を嫌だと思ったことはないかい?悉く澱を浄化しようとする。澱に触れたものも等しく穢れたものとして排除する。そんな古い風習に嫌悪感を覚えたことはないか?」


 なにともわからないものの戯言。聞き流せばよいその言葉に、けれど夜行には1人の少女が思い浮かんでしまった。

 浄化師とは澱を浄化する、本来清くあるべき存在。しかし大多数の人間が持ち得ない力を持ち、長らく継承してきたゆえに、四大家を筆頭に浄化師の世界は権力と保身と矜持と欲望と、そんなものがないまぜになって薄汚れている。そんな中でも屈託なく笑う少女。もう何年も会っていない。守りたかった。なのに手放し、見捨てた存在。


 「私はね、そんな世界を変えたいんだ」


 男の言葉に夜行ははっと意識を戻す。


 「あ?」


 「澱に呑まれたものを救いたいのさ」


 「んなこと」


 「できるさ。しかしそのためには今の浄化師は必要ない。それに、自分の負を制御できず澱を生むだけの人間もね」


 それはつまり、浄化師になる素質を持たない一般市民のこと。


 「私はいずれ、近い未来にそんな世界を実現する。そのためには浄化師側にも味方が必要でね。学生といえど、四大家の子息である君なら実力ともに十分だ。それに」


 男は善人らしい笑みを浮かべる。


 「協力してくれれば、君の大切な彼女を助けてあげよう」


 重く苦しく窮屈なこの世界で生きる自分の、唯一の光。彼女がいまどうしているのかを、生きているのかすら夜行は知らない。しかし、助けてあげようと言うからには生きているのだろうか。男の差し伸べる手を取ることも払うこともせず、夜行はその手を見つめる。いまからでも、助けられるだろうか。そんな淡い、定かではない期待に、ぴくりと手が動いた。


 「なんだ、お前」


 夜行が手を取るよりも先に男の背後から藤弥が斬りかかる。しかし男は藤弥の短刀をあっさりと受け止める。


 「おや、急に襲いかかってくるとはなかなか無礼な少年だ」


 「浄化師でも、澱でもねーな。なんだ?」


 藤弥は短刀を構えて不審そうに男を見る。


 バンッ。


 「まったく、躾のなっていない子たちばかりだね」


 男は伊吹の放った術もあっさりと払いのける。


 「そろそろ時間か。制限時間など関係なく継続させようと思ったのだが、手強そうでね。この結界を張った結界師に伝えておいてくれ。なかなかの腕だと。これから浄化師の世界を担っていく君たちとは良き関係築いていきたいと思っているよ」


 「おいっ」


 藤弥が止めようとするが、


 「ではまた、近いうちに」


 男は笑みを浮かべてその場から消えた。それと同時に制限時間を経過した結界が閉じ、本来の校庭に戻る。


 「おい、大丈夫か!」


 「なにがあった?」


 現れた3人に他の生徒たちや職員たちが駆け寄る。


 「浄化師でも澱でもない、変な禍々しい気配のするやつだった」


 藤弥は男のいなくなった虚空を睨み、伊吹は不可解そうな顔をしている。


 「お前、なんか話してなかったか?」


 「んなわけないだろ」


 藤弥の問いに夜行は荒く返し立ち上がる。




 翌日。上層部に呼ばれ生徒や職員たちは事情聴取を受けた。

 特に謎の気配の男と対峙した3人は他のものたちよりも長いこと話を聞かれた。

 男の目的も正体も一切わからない藤弥はその気配の禍々しさを述べるしかなく、伊吹は感じたなにかに引っかかるものを覚えたがそれを言葉にできずにいた。

 言葉を交わし、嘘か誠かわからない男の目的を聞いた夜行は、しかしそのことには触れなかった。

 一体何者だったのか。その正体はわからず、どうすることもできず、ただ警戒を強めるしか策はなく、この一件は保留とされた。




 その夜。


 『君の大切な彼女を助けてあげよう』


 夜行は男の言葉が頭から離れなかった。そして屈託なく笑ういつかの少女の姿を思い出す。


 「くそっ」


 イラつきを帯びた夜行の声が、暗い部屋に溶けて消える。







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