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厄獣指定都市の地方公務員  作者: 黄鱗きいろ
第一幕【04】トコヨ市は皆さんのための厄獣指定都市です
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第27話 寝起きには注意しましょう

「――タマキ後輩、起きてください、タマキ後輩」


 ぼんやりとした意識が徐々に浮上し、自分の名前が呼ばれているとなんとなく理解する。それでもなかなか目を開けないでいると、声の主は一度咳払いをしてから、俺の耳元で言った。


「【おはようございます】」


「うぐっ……!」


「ぎゃっ」


 舌禍によって叩き起こされ、タマキはガバっと頭を上げる。ちょうど顔を寄せていたシータの顎と後頭部がぶつかり、起床早々、タマキは悶絶した。


「いっづぅ……!」


 後頭部を押さえて机に沈むタマキに対し、床にひっくり返ったシータが顎を押さえながら立ち上がる。


「おはようございます。もう休憩が終わりますよ、タマキ後輩」


「えっ」


 慌てて時計を見ると、自分に与えられた昼休憩が終わる二分前だった。どうやら自分は、昼食を取ったあと眠気を我慢できずに、仮眠を取っていたらしい。


「すみません、助かりました。……顎は大丈夫ですか?」


「はい。ちょっと口の中に血の味がしますが大丈夫です」


「大丈夫じゃありませんよね!? ちょっと口の中見せてください!」


 すわ舌を噛み切ってしまったのかと、タマキはシータの口の中を覗き込む。結果として舌は噛み切られていなかったが、歯茎が傷ついて口の中は真っ赤に染まっていた。


 ちょうどその時、休憩終わりのココが戻ってきて、二人を見てニヤニヤと笑い始めた。


「お、何だい何だい。口の中におやつがないか確認する小動物の真似?」


「からかわないでください。俺が不注意でシータさんに怪我をさせてしまっただけですよ」


「ええっ! 労災沙汰は勘弁してよぉ!?」


 続いて戻ってきた安穏が悲鳴のような声を上げ、シータがそれに淡々と答える。


「口の中を切ってしまっただけです。つばをつけておけば治ります」


「ええ……? たしかに口の中は唾液で満ちてるけどさぁ……。一体どうして怪我なんてしちゃったの?」


 優しくはあるが責める言葉をかけてくる安穏に、タマキは言いづらそうに告白した。


「休憩中に眠り込んでしまった俺を、シータさんが起こしてくれたんです。ですが、飛び起きた拍子に頭と顎をぶつけてしまって……」


「ああ、なるほどね……。今後は気をつけてね……」


 どちらにもあまり非はないと判断した安穏は、一応注意の言葉をかけ、それからタマキの顔を見て心配そうな表情になった。


「ところでタマキくん、ここ数日顔色が悪いけど何かあった? 体の不調があったら、ちゃんと申告してね。病院を紹介することもできるから」


「はい……」


 自己管理不足だと自分を責めながらも、上官の命令で申告しなければならないと判断したタマキは、ためらいがちに言葉をつむぐ。


「実は体調不良ではなく、『飢餓』の抑制剤の副作用なんです。どうにも、必要以上に薬が効いてしまっているようで」


「ああ……。トコヨ市の抑制剤は、外のやつとは違うからね。一ヶ月も経てば体が慣れてくるだろうけど、無茶はしないでね。体の調子が悪いと、心の調子も悪くなるものだし」


「……はい、分かりました」


 すっかり落ち込んだ表情になったタマキの顔を、シータは唐突に覗き込んだ。


「もしかしてタマキ後輩は、夜に深く眠れていないのではないですか? でしたら、僕が母直伝の子守唄を歌ってさしあげます。安眠しすぎて永久の眠りにつく方もいるそうですが」


「謹んで遠慮します。フリじゃないので、絶対にやめてくださいね」


「む。僕は音痴ではありませんよ。母たちにも小鳥のように可愛らしい声だとよく言われます」


「そういう問題ではなくてですね」


 打てば響くような会話をするシータとタマキに、安穏はほのぼのとした表情を向けた後に、ぽんと手を叩いた。


「さて、そろそろみんな仕事に戻ろうか。ココちゃんとタマキくんは、午前中に来た相談の仕分け。僕とシータくんは五芒会議に出席だよ」


「五芒会議、ですか?」


 聞き慣れない単語に、タマキは思わず聞き直す。安穏はそんなタマキに頷いた。


「そっか、タマキくんには話してなかったね。五芒協定のことはもうなんとなく知ってるよね? 市役所を含めた5つの団体が協定を結んでるって」


「はい。有力者たちが協定を結ぶことによって、トコヨ市の均衡を保っているんですよね」


「そう。五芒会議は、そんな5つの団体の代表が定期的に集まって、トコヨ市で起きてる問題について話し合ったり、シンプルに罵倒しあったりする場所なんだよ」


「ば、罵倒……」


 会議の内容の説明としては不適切なワードに、タマキは頬を引きつらせる。


 シータは胸を張って偉そうに言った。


「食人植物の件について、少しでも手がかりを仕入れてきます。任せてください。僕は会議が得意なので」


 タマキは、本当かなあという目をシータに向ける。安穏とココが苦笑いしているので、つまりそういうことだった。


「じゃあ、ココちゃんとタマキくん、事務所でのお仕事お願いね」


「いってきます」

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