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厄獣指定都市の地方公務員  作者: 黄鱗きいろ
第一幕【03】無許可の集会はご遠慮ください
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第23話 公園は活気に満ちています

 公園には、地方の市民イベントのように、老若男女様々な多くの市民が詰めかけていた。


 そのほとんどは貧しい身なりをしており、騒ぎを聞きつけて物見遊山でやってきた野次馬は少ない。困窮という切実な問題を抱えた市民たちだということは、一目見れば明らかだった。


 彼らは手に手に容器を持ち、我先にとイベントの中心に向かっている。


「タダで飯がもらえるらしいぜ!」


「肉があるといいなぁ」


 無邪気に騒ぎながら自分たちを追い抜かしていった人間と厄獣の少年たちを見送り、タマキはつぶやく。


「本当に、ただの炊き出しのようですね」


「はい。みんな嬉しそうです」


 シータの言う通り、集まった市民たちの表情は笑顔で満ちていた。幸せそうにしている彼らを見て、タマキは表情を曇らせる。


「今からこの炊き出しを止めなければならないと思うと、気が重いですね」


「うん。でも、ルールは守ってもらわないと、市民生活はぐちゃぐちゃになっちゃうからね。……どうやら注目されてるみたいだし、先を急ごうか」


 ココに指摘され、タマキは周囲をさりげなく伺う。貧しい服装をしている彼らの中で、スーツ姿の自分たちは確かに浮いていた。


「ええ、スーツ姿で炊き出しに来るような人はいませんからね」


 声を潜めて答えたタマキに、シータは異を唱えた。


「そうですか? 僕たち以外にも、あちらの方々はスーツを着ているようですが」


 シータは無遠慮に、道行く先に立つスーツの集団を指さした。ココは慣れた手つきでそれを下ろさせて、シータをたしなめる。


「こらこら、シータくん。人を指さしちゃいけませんって、何度も言ってるでしょ?」


「すみません。伝達するのにわかりやすいので、つい」


「せめて改善する姿勢ぐらい見せてみない?」


「検討して善処します」


 うだうだと話す二人をよそに、タマキはスーツの集団を観察していた。彼らは先を急ぐ貧しい人々に、何かを手渡しているようだ。


「お願いしまーす、お願いしまーす!」


 声を張り上げて何かを配る彼らに、市民たちは警戒しつつも、もらえるものはもらっておこうという根性でそれを受け取っては、ポケットの中に入れている。


「……チラシ配りでしょうか」


 ココに顔を寄せてタマキは尋ねる。ココは頷いた。


「うん、広告がついたポケットティッシュを配ってるっぽいね。市役所に申請が出てるならそれでいいんだけど……」


 考え込むココに、タマキはさらに声を潜める。


「一応、話を聞いてみますか?」


「いや、今は炊き出しの件に集中しよう。ポケットティッシュだけもらっておいて、後で市民課に確認する段取りで」


「分かりました」


 タマキはさりげない動きでティッシュ配りたちに近づくと、差し出されたポケットティッシュを受け取った。


「お願いしまーす! 生活に華を添えましょう!」


「ど、どうも……」


 やけにテンションの高い男に笑顔を向けられ、タマキは半笑いになりながら彼らから距離を取った。


 そのまま戻ってきたタマキの手元を、ココは覗き込む。


「どうだった? どこの集団が配ってるか分かった?」


「いえ……」


 ココに促されてティッシュを裏返すと、そこには包装紙に包まれた飴玉らしきものと、手作り感があふれるイラストが書かれた紙が入っていた。


 だがそこには、集団の正体を示す名称や連絡先はどこにも書いていない。


「うーん、きな臭いなぁ」


 眉を寄せて唸るココに、タマキは頷いて同意する。シータもひょいっと上からそれを覗き込み、能天気に言った。


「それ、飴玉ですか? おやつに食べたいです」


 ほのぼのと言うシータに、ココとタマキは呆れた声を上げる。


「シータくんさぁ、知らない人にもらった得体のしれないものは食べるなって教わらなかった?」


「その危機管理能力で、どうやって今まで生きてきたんです?」


 口々に非難され、シータは不満そうに言い放つ。


「むっ。ちゃんと母は教えてくれました。僕が守っていないだけです」


「威張るようなことじゃないですよ。お願いですから言いつけを守ってください」


「タマキ後輩がそう言うなら仕方ないですね。先輩として後輩のお願いは聞きたいので。その上、僕たちは相棒ですからね。聞いてあげるのもやぶさかではないです」


 ふふんと鼻を鳴らしながら、シータは偉そうな言い方で答える。タマキは笑い混じりのため息をついた。


「はは……。日を追うごとに、あなたと相棒をやっていく自信がなくなっていきますよ」


「そんなに自分を卑下しないでください、タマキ後輩。タマキ後輩は立派な僕の後輩兼相棒ですよ」


「そういう意味ではなくてですね?」


 和やかな会話をしながら、一行は緑地公園の中心付近までやってきた。そこにあったのは、緑地の中央にそびえ立つ大樹だ。

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