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厄獣指定都市の地方公務員  作者: 黄鱗きいろ
第一幕【03】無許可の集会はご遠慮ください
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第17話 無盾ココロはいつも陽気です

 夕日から差すあかね色が増していき、残業中のシータとタマキの影を長く伸ばす。シータはタイピング音を途切れさせると、不服そうに言った。


「まさかあそこまで怒られるとは思いませんでしたね、タマキ後輩」


「はい、本当に」


 二人が話しているのは、ファミレスの修繕費の件だ。


 あの後、請求書を受け取った二人は、のこのこと職場に戻り、ちょうど同じタイミングで戻ってきた安穏を驚きと絶望でひっくり返らせたのだった。


「怒られはしましたが、ギリギリ減給処分にならなくてよかったです」


 悪びれもせず平然と言うシータに、タマキはうんうんと頷く。彼ら二人には社会人としての常識が著しく欠けているのだった。


 そんなある意味似たもの同士の凸凹コンビが醸し出す緩い空間に、不意に明るい女性の声が飛び込んできた。


「おー、お二人さん。残業かい?」


 どことなく食えない雰囲気を醸し出す彼女は、無盾ココロ。タマキとシータの同僚だ。


「ココさん」


「お疲れ様です!」


 ぴしっと背筋を伸ばして挨拶をするタマキに、シータは首をかしげる。


「僕に対する態度となんだか違いませんか? 僕もココさんと同じ、部署の先輩ですが」


「あーそれは……」


 心なしか拗ねているように見えるシータに、タマキは曖昧な声を上げながら目をそらす。


 シータが年下だからというのもあるが、何より彼には尊敬すべき点が少ないので、敬意をなかなか払えないのだ。


「で? 二人は何してるの? パソコン仕事?」


「はい。間抜けにも報告書作成を怠ったタマキ後輩の尻拭いをしています」


「……シータさん?」


 しれっと貶してきたシータに、タマキは剣呑な目を向ける。


「それはわざとですか?」


「いいえ? 何のことですか?」


 そう言いながらシータは顎をつまむように触る。タマキは大きくため息をついた。


「はぁ……。嘘じゃないですか。拗ねているんですね?」


「はい、拗ねています。僕への扱いに敬意が感じられなかったので。ココさんばっかりずるいです」


「それについてはすみませんでした。尊敬してますので許してください」


「ふふん、そうでしょうそうでしょう。僕は尊敬できる先輩ですからね」


 鼻を鳴らして胸を張るシータに、一連のやりとりを見守っていたココは感心したように二人を見比べる。


「いやー、シータくんの感情をここまで引き出すなんて、タマキくん、本当にシータくんと相性がいいんだね。これが運命の相手って感じ?」


「ええ? 運命って大げさな……」


「いやいや、運命は意外と何でもない顔をして現れるからね。まあ、お互いにトコヨ市の住民である以上、平凡な出会いとは言えないかもだけど!」


「はは……」


 ケラケラと笑いながら適当なことを言うココに、タマキは乾いた笑いを浮かべる。ココはそんなタマキを見てさらに笑い、上機嫌そうに提案した。


「ま、それはそれとして! 何か手伝えることはある? 先輩である私も協力してあげようじゃないか!」


 偉そうに言い放つココに、怪訝な顔でシータは尋ねた。


「本来、ココさんが書くべき報告書もあると思うんですが」


 その隣でタマキも付け加えた。


「本来、シータさんが書くべき報告書もあるんですよ?」


「まあまあ、新人に報告書の書き方を慣れてもらうためだから! ね! 押しつけたわけじゃないって! ね!」


 飄々としたココの笑顔で押し切られ、タマキは乾いた笑いを浮かべながら答えた。


「では……事件のあらましの補完をお願いできますか? 今からまとめる事案は、ココさんも立ち会ったものなので」







 トコヨ市役所の昼は遅い。


 正確には町役場の地方公務員というものは、往々にして昼休憩が遅くなりがちだ。その理由は単純明快。


「だーかーらっ! うちで育ててた花が育ち過ぎちゃったから、引き取ってもらいたいんだって!」


「でーすーかーら! うちは生活安全課であってゴミ捨て場じゃないんですって! そういうのは市民課に行くか、地域に定められた集積場所にご自分でお持ちください!」


「はあ!? うちのツっちゃんをゴミ扱いするのか!? この人でなし!」


「なんなんですかアンタ! 処分したいのか処分したくないのか、はっきりしてください!」


 こういった面倒な市民の来訪は、お昼時に集中しているからだ。


 生活安全課の窓口で騒ぎ立てる市民たちを遠目で見ながら、無盾ココロはのんきに呟いた。


「ひぇー、窓口担当は大変だねぇ」


 他人事のように言うココに、タマキは居心地悪そうに囁く。


「あの、俺たちは対応しなくてもいいんですか? 一応俺たちも生活安全課なんじゃ……」


「ハハハ。適材適所ってやつだよ。自慢じゃないが私たちは、接客には向いてないからね」


「ええ……?」


 堂々と無能宣言をするココに、タマキはどう答えたらいいか分からずに困惑する。そんなタマキの肩をバシバシと叩いて、ココはさらに笑った。


「とりあえず、今のうちに昼休憩行っちゃいなよ。室長とシータくんが帰ってきたら、また別の厄介ごとが起きるかもしれないし!」


「そうですね。では、お言葉に甘えてそうします」

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