前編
任侠小説に初めて挑戦しました。
読んで戴けたら、倖せでございます。<(_ _*)>
オレは新宿志龍会志垣組の殉構成委員、久坂礼二。
オレははっきり言って、組の中じゃ入ったばかりのぺいぺいだが、この新宿を仕切る、組長志垣竜二さん率いる新宿志龍会志垣組は最強だと思っている。
竜二兄貴を筆頭に組の幹部と街を闊歩すれば、皆が頭を下げ、道を空ける。
オレはこうやって最強オーラを放出する竜二兄貴と街を歩くのが好きだった。
「なあ、礼二」
スーツ姿が駆け引き無しで本当に格好いい竜二兄貴が顔を少し傾けてオレを呼んだ。
「なんすか、兄貴? 」
オレは小走りで先頭を歩く竜二兄貴の横に並んだ。
「お前ももう16だ
彼女の一人も居ねえとカッコ付かねえだろ」
「なんすか、いきなり!? 」
突然の予期しない竜二兄貴の言葉にオレは目を白黒させた。
竜二兄貴は目は正面を向けたまま首をオレの方に傾げて言った。
「よう、お前童貞か? 」
「な、何言ってるんすか急に?! 」
オレはあわてふためいて自分でも目が泳いでいるのが解った。
「なんだあお前、筆下ろしもまだだったのかい」
オレは何が何やら、竜二兄貴の言わんとしている事も解らず項垂れて肩をすぼめた。
「図星っす·······」
竜二兄貴はタバコを口に咥えながら、オレが差し出したライターの火で美味そうに煙を吸い込んだ。
「それじゃあ俺も一肌脱がねえとな」
「は? 」
オレは訳が解らず、多分鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしていたと思う。
きらびやかな新宿の歓楽街を歩いていると、向こうから四五人の黒スーツの集団がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
新宿の街をオレ等志龍会志垣組と二分する勢力を持つ里中弘二率いる國龍会の連中だった。
真っ向から対峙したオレたちに並みならない緊張感が走る。
竜二兄貴はタバコを吹かしながら言った。
「よお、里中のお」
里中弘二は少しニヤけて言う。
「こんな処で逢うとはなあ」
竜二兄貴は挑発するように言った。
「國龍会は葉っぱで稼いで随分と羽振りがいいそうじゃねえか」
里中の下っ端どもがいきり立ってこちらに駆け込もうとするのを里中弘二が片手を上げて遮った。
「おいおい、それは都市伝説ってもんだ
そちらもそんな餓鬼連れて保育園でも始めようってのかい」
その一言がカチーンととさかに刺さっていきり立つと竜二兄貴が片手を上げたのでオレは歯をギリギリ言わせながら堪えなければならなかった。
竜二兄貴はオレを見て溜め息を吐きながら言った。
「お互い、長生きはしてえもんだよなあ里中のお」
「ああ、お互いになあ」
里中弘二は笑って返し、オレ等と國龍会は牽制しながら通り過ぎて行った。
國龍会の連中が大人しく去って行くと竜二兄貴はいかにも楽しそうに言った。
「さあて、礼二の筆下ろしに一肌脱がねえとなあ」
「勘弁して下さいよお、竜二兄貴ぃ」
オレのあまりにも情けない物言いに皆声を上げて笑った。
その後、オレは志垣組が経営する高級クラブに連れて来られた。
見たこともないキラキラ輝く装飾にオレは頭がふわふわした。
VIP専用ボックスに入ると、竜二兄貴は女の子たちを一端払って、背凭れに広げていた両肘を膝に載せて真剣な面持ちで話し始めた。
「國龍会の連中はヤク漬けにして女の子を縛り、客を取らせてるって話だ
これ以上、國龍会の好きにはさせられない」
舎弟の一人が訴えるように言った。
「俺の妹も國龍会の連中に薬漬けにされたんです! 」
その言葉に竜二兄貴は顔をしかめ直ぐに決意した顔をオレに向けて言った。
「やってくれるか、礼二? 」
オレはその言葉に、竜二兄貴がオレに信頼を寄せてくれているんだと思うとテンションが一気に頂点に達するくらいに舞い上がった。
妹を薬漬けにされたと言った舎弟は立ち上がって言った。
「なんで、俺じゃ無いんすか?!! 」
竜二兄貴は舎弟を迫力の睨みで黙らせて言った。
「俺の決めた事に異を唱えるのか? 」
舎弟は悔しさを振り切る様に拳を震わせて座った。
オレは座った舎弟に仇は取ってやると言わんばかりに熱い視線を向けて言った。
「オレに遣らせて下さい!
必ず遣ってみせますよ!! 」
「それでこそ礼二だ」
そう言って竜二兄貴はオレの肩を強く掴んだ。
「頼んだぞ、礼二
決行は明日だ」
オレはその言葉が嬉しく思うと共に身が引き締まり、全力で答えた。
「任せて下さい!! 」
竜二兄貴はうっすらと笑みながら再び両腕を背凭れに広げた。
「今日は礼二の初仕事の前祝いだ
遠慮無く飲んでくれ」
竜二兄貴が軽く手を挙げると女の子たちがお酒を持って各組員の隣に付いてドリンクを作り始めた。
勿論、オレの隣にも見たこともない様な綺麗なドレスを着た女の子が座った。
女の子はオレにジンジャーエールを渡して言った。
「ワタシ、圭織って言います
今夜は宜しくお願いします」
オレはと言えばあんまり綺麗な人なので、俯き加減で自分の名前を言うのがやっとだった。
こんな綺麗な人が彼女になってくれたら、どんなにか倖せだろう·······。
しばらくワイワイと楽しく飲んで、カチカチだったオレも随分と場に慣れた頃、急に竜二兄貴が立ち上がって言った。
「俺等はまだ仕事が残っているんだ
礼二、気に入った娘が居たら持ち帰れる様に手筈は伝えてある
いいか、女一人モノにできねえ様じゃ一端の男とは言えねえ、しっかりやれ」
オレも行こうとしたが竜二兄貴が事の他怖い顔で睨むので、オレは仕方なく残ることになった。
みんなが行ってしまうとオレはまたカチカチになって何も言えなくなっていた。
圭織さんが気を利かして話し掛けて来る。
「礼二はんて真面目なんやね」
急にイントネーションの違う話し方になったので、不思議そうに圭織さんを見詰めていたら、「いややわあ、そんな顔しんといて」と両手で口を押さえて圭織さんは笑った。
「何処の言葉なんすか? 」
圭織さんは人差し指を口元に当てた。
「礼二はんには秘密や」
そう言って軽やかに笑った。
「なんすか、それ」
オレもつられて笑った。
圭織さんの方言は固まっていたオレを一気に解してくれた。
きっとオレみたいな客に慣れてるんだなと思った。
しばらく飲んでいたオレはいつの間にかボックスに居る圭織さんを含む三人の女の子たちとすっかり打ち解けていた。
オレは頃合いを見計らって立ち上がった。
「オレもそろそろお暇しますわあ」
オレがそう言うと圭織さんがオレの腕を掴んで言った。
「ウチをお持ち帰りしてーな」
オレは狼狽えたがかろうじて持ちこたえ言った。
「アレは竜二兄貴の冗談じゃないっすか」
「あら、ウチらは竜二さんにガチで頼まれてるよ
礼二を男にしてやってくれって········」
「え··················?」
オレが間の抜けた声を上げたもんだから女の子たちは各々可愛らしい仕草でころころ笑った。
オレはと言えば、そうゆう事には慣れていなくて、真っ赤になって俯いてるのがやっとだった。
「ほんまに礼二はんは生真面目なんねえ」
圭織さんは立ち上がってオレの腕を取ると自分の腕に絡ませた。
「あんまり可愛いから、ほんまに惚れてしまいそうやわ」
そう言って圭織さんは、顔から火を吹き出さんばかりに赤くなっているオレの肩に頬を預けた。
ふーんととてもいい匂いがオレの鼻先を擽る。
これが女の人の匂いちゅうもんなのかとオレはまじまじ圭織さんを見詰めてしまった。
「その顔、満更でも無いって感じやね
ほな、行きましょ」
圭織さんはぐいとオレの腕を柔らかい胸が当たるくらい抱き締めた。
オレは更に赤くなって肩をすぼめた。
スタスタと歩き始める圭織さんに引っ張られる格好で、ボックスを出ると、女の子たちが後ろから「頑張ってえ!」と言う声援が聞こえて来た。
オレはと言えばだらしなく圭織さんに引き摺られるように店を出た。
しばらくそうして圭織さんに引き摺られて、オレは何気に圭織さんに訊いた。
「何処行くんすか? 」
圭織さんは首を伸ばしてオレの顔を覗き込むと言った。
「つくづく初心な人やねえ
男と女が行くと言ったらきまってるでしょ」
読んで戴き有り難うございます❗❗゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
枝垂れ桜のお蘭様には私の感性で思いっきり書いてくれと言われていたのですが、個性の塊枝垂れ桜のお蘭様の作品です。
すっかり飲み込まれてしまって、このように書くのが精一杯でした。
読んで戴いた皆様に楽しんで戴けたら良いのですが。(T.T)