エピローグ(前)
次話で完結いたします。
社交界では『バロンド侯爵が謀反を起こし、身柄が拘束された』というニュースで持ちきりだった。
隣国と手を組んで国家の転覆を企んだこと。学園から親書を盗んだり、王城から軍事機密を盗んだり。侯爵本人のみならず、娘にまで悪事の片棒を担がせたとあって、侯爵家の評判はどん底まで落ちていた。
アジトの廃教会からはさまざまな物的証拠が見つかった。また、侯爵が大事に持っていた通信用水晶も重要な証拠となり、一家は投獄されている。法に従って厳正な処罰が下される予定だ。
一時は顔を合わせるたびにこの話題で盛り上がる貴族たちだったけれど、一週間、二週間と時が流れ、新しい情報が入らなくなると、話題は次のゴシップに移っていく。夏が終わり秋に差し掛かるころには、侯爵家の話題をする人はほとんどいなくなっていたのだった。
図書室にも平和が戻ってきた。
以前は殿下とコルネリア様、そしてわたしという三人での貸し切り状態だったけれど、今はそこにアン様も加わるようになっていた。ローズ様がいなくなったことで学年内の力関係に大きな動きがあり、全体としてかなり雰囲気は良くなったように思う。ジャレット公爵家が名実ともに王国で最大勢力となり、身分を笠に着るような貴族たちは幅を利かせられなくなっている。
「セリアーナ様。今日もこの後、図書室に行かれますか?」
放課後。教室で帰り支度をしていると、アン様がやってきた。
「ごめんなさい。今日は殿下とお約束があって」
「そうでしたのね。実はわたくしも行けないので、お伝えに来たのです」
「ご用事でも?」
今日までのところアン様は図書室皆勤賞なので、珍しく思って尋ねると、彼女は照れたようにはにかんだ。
「父が勲章をいただくので、家族で式典を見に行くのです」
「今日でしたのね! おめでとうございます、アン様!」
「ありがとうございます」
アン様のお父様、ゴズリン男爵様。実は、彼はバロンド侯爵事件の陰の立役者でもあった。
侯爵が高給をちらつかせて兵を引き抜き始めた時、これは怪しいぞと勘づき、わざと侯爵側に採用されて内情を探っていたのだ。掴んだ情報は国王陛下やアルフレッド殿下に横流しし、大捕り物の計画にとても役立ったという。
その功績が評価され、勲章と子爵の位を賜ることになったのだ。
親子揃って義に厚い性格だ。今度アン様のお家に遊びに行くことになっているから、ご挨拶できることが楽しみだ。
「その。ご家族といえば。ランタス元伯爵様は残念なことでしたね……」
言いにくそうにアン様が呟いた。
「お気遣いありがとう。お父様は過ちを犯したわ。罪を償うのは当然よ」
バロンド侯爵一派についた者は粛清の対象となった。お父様ももちろん投獄され、しかるべき罰を受けることになっている。ただし、これまでの勤勉な勤務態度や取り調べに真摯に応じていることから、極刑は免れると聞いている。命が助かるだけでも良かったと思う。
(――それに。お父様はわたしのことなんて興味ないと思っていたけれど。少しは心配してくれていたのかもしれないわ)
廃教会で女神像に縛り付けられたとき。お父様は何も言わずに、わたしの腕に食い込んだ縄を少しだけ緩めてくれたのだ。ほんの数秒のその動作に、お父様の本音を感じることができた気がした。
これからは時間を見つけて、面会に行こうと思っている。
(お母様とミアにいじめられていたとき。助けてってお父様に声を上げていたら、なにか変わっていたのかしら)
ふと、そんなことを考える。
けれどももう、そういう心配をすることのない場所に自分はいる。逆に、働き者のお父様を失ったお母様とミアはこれからどうしていくのだろう。あの二人に自活する能力なんてないはずだから……。
「では、失礼いたします」
アン様の声ではっと我に返る。
「お気をつけて。また明日」
アン様と別れ、学園内のアルフレッド殿下のお部屋へ向かう。
今日は週に一度のお茶会の日だ。事件が解決してからまた再開された、とっておきの時間。
ドアをノックするとすぐに開いた。




