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君がかつて神官をしていたことは知っている、と公爵様は言った。
「セリアーナの魔能測定をしたのはヨセフ殿だろう? ランタス伯爵家の魔能測定区はここのはずだし、当時君はここの神官だった。聞いたよ、セリアーナから。透明になれる魔能は秘匿しておき、いつか自分が信頼できると確信した人のためだけに使いなさいと助言したそうだね?」
「えっ!? そっ、そうなんですか!?」
思わず声を上げてしまった。ヨセフ様が、あのときの神官様だったの!?
顔もお名前も覚えていなくって、唯一覚えているのが彼がくれた金言だ。それはこの六年間、ずっとわたしの心の支えであり続け、同時に将来の希望でもあった。自分はいつか、真に信じあえる人たちと出会えるのだと言い聞かせて、辛い日々をやり過ごしていたのだから。
ヨセフ様はとても気まずそうな表情である。
「そう、ですね。ジャレット公爵様のおっしゃる通りです。透明になれる魔能というのはたいへん稀ですから、そういう子がいたことはずっと覚えておりました。けれども、セリアーナ様があのときの子供だったとは……。恥ずかしながら、今回の計画がきっかけで記憶が一致いたしました」
「君のおかげでセリアーナは我が家の子供になったし、ひいてはその魔能を生かして国まで救われた。素晴らしい助言をしてくれたね、ヨセフ殿」
「とんでもございません…………」
ヨセフ様は恐れ入ってしまい、深々と頭を下げてそのままの姿勢で固まってしまった。
――わたしは感動で胸がいっぱいだった。いつかまたお会したいと思っていた、親切な神官様。どこかわたしの知り得ぬ遠くの場所にいるのだろうと思っていたら、こんなに近くにいたなんて。
瞼に熱いものが滲み出てくる。すっかり鎖と縄が解けたわたしはヨセフ様の手を取った。
「ありがとうございます、ヨセフ様! あなた様のおかげで、わたくしは今日という日まで生きることができました。魔能を悪用されることなく、心から信じられる方々に出会うことができました」
「けれども、ご実家ではご苦労があったとか……」
殿下から話を聞いているのかもしれない。自分の助言のせいで実家で虐げられていたのではないかと気にしているのだ。
「今思えば、必要な苦労だったのです。あの日々がなければわたしは図書室に通うこともなかったですし、推しや王子様を見つけることはできませんでしたから」
陽の光が眩しい昼間に星を見つけることはできない。夜闇の中にいるときだけに、それはとびきり輝いて、わたしの心を励まし道を照らしてくれるのだ。
「お、推し??」
困惑するヨセフ様。彼は何度か口を開いたり閉じたりしてためらったのち、思い切ったように尋ねた。
「あなた様は、今、幸せなのですね?」
そんなの、答えはもちろん一つだ。
公爵様と殿下の顔を順番に眺める。そして、わたしはとびきりの笑顔で返事をするのだ。
「はい! とっても幸せです!」
~推しが婚約破棄されたので、
悪役令嬢(透明人間)になって復讐いたします!~
(了)
※残り2話、エピローグの更新があります。




