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敵勢は六名。バロンド侯爵を加えれば七名だ。
さっと場に目を走らせて状況を把握した公爵様は、着ていた旅装マントを剥ぎ捨て、隠していた剣を引き抜いた。
「僕に傷一つでもつける自信のある者は、相手をしてあげよう。かかってきたまえ」
相手は現役の将軍だ。勢い込んでいた私兵たちはぐっと胸が詰まったような表情をして、一瞬迷いを見せた。
その隙を公爵様は見逃さない。大きな一歩で距離を詰め、躊躇なく剣を振り抜いた。真っ赤な血飛沫がパッと散って、冷たい灰色の床にパタタタッと血痕が飛ぶ。
斬撃を受けた兵士は、何が起こったか分からない表情のまま、がくりと膝をついた。
「っ、くそっ!!!!」
「一斉に行くぞ!!!!」
やらなければこちらが殺される。五人という人数がこれ以上減る前にカタをつける必要がある。
瞬時にそれを理解した兵士たちは、一気に公爵様に斬りかかった。
公爵様は素早く守りに転じ、五つの剣を華麗に受け流していく。軽やかな足さばきで身をかわし、振りかかる剣筋を跳ね飛ばす。
(すごいわ、公爵様っ!)
さすが将軍様。見とれてしまうぐらい素晴らしい動きだ。
侯爵がこの場に招集したぐらいだから、相手の兵士も手練れなのだろう。けれども五人かかったって公爵様は一歩も押されていなかった。
◇
ところが、数分が経つと状況が変わってきた。
あれから公爵様は二人を倒したものの、顔には明らかな疲れが見え始めていた。何度も剣の柄を握り直したり、目に流れ落ちる汗を拭ったり。ちょっとした動きが増えて動きに雑味が混じり始める。
(それはそうだわ。だって相手は五人だもの。無傷で立ち向かっていることが奇跡よ)
相手は公爵様より若いうえ、なにより複数人だから疲労の度合いは段違いだ。
それでも公爵様は太刀を凌いでいたけれど、とうとう鋭い一撃を利き手に受けてしまった。
(――――!! 公爵様っ!!)
あっという間に二の腕に血が滲み、一瞬顔を歪めた公爵様。けれども腕を全く気にすることなく剣を振るい続ける。
とはいえ負傷した腕では明らかにパフォーマンスが落ちていた。ついに公爵様の剣は弾き飛ばされ、喉元には鋭い剣がつきつけられた。
三人の兵士と公爵様の、荒い息づかいが響き渡る。
バロンド侯爵だけが、悪魔のような笑みを浮かべていた。
「退け。私がとどめを刺す」




