表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/50

 王都貴族街に位置する、とある伯爵家の邸宅には、ピシン! バシン! という物騒な音が響き渡っていた。

 静かな夜の帳。屋敷の外まで聞こえる鞭の音に、通りがかった人々は眉を顰める。

 激しい折檻を受けているのはセリアーナだった。


「まったく! セリアーナ、あなたってほんとうにごく潰しだわ。ユージーン殿下に盾突いたばっかりに、お父様が注意を受けたそうよ。我が家が冷遇されたらどうしてくれるのよ! このっ! このっ! 反省なさいっ!」


 鬼のような形相で鞭を振り下ろすお母様。サイドテーブルに腰かけて優雅にティーカップを傾けるミアは、鞭で打たれるわたしを見世物のように楽しんでいる。

 無口で仕事命なお父様は、日ごろ自ら手を下すこともないけれど、虐げられるわたしを助けることもない。鞭の音は屋敷中に響き渡っているが、仲裁に来ることはないだろうと分かり切っていた。


(――後悔なんてしてないわ。だって、コルネリア様はやってないもの。あの方がいるから、わたくしはこの世界は悪人だけじゃないって知った。唯一無二のコルネリア神を傷つける者は、誰であっても許さないわ!)


 薄汚いお仕着せは破れ、血が滲んでいる。意識が薄れるまで鞭打たれたわたしは、ぼろ雑巾のように極寒の屋敷外に捨てられた。

 仁王立ちしたお母様が、ゴミでも見るような目を向ける。


「勘当よ、セリアーナ。もう二度とこの家の敷居を跨がないで。能無しなのだから、せいぜい身体でも売るといいわ。まあ、大した値段なんてつかないでしょうけれど」


 言い捨てて、伯爵家の門はゆっくりと、そして固く閉ざされた。


 痛みで動くことができなかった。

ごろりと仰向けになって夜の空を見上げる。丸い月が涼やかに自分を見下ろしていた。


(……こんな日でも月は美しいのね。……でも、なにかしら。心はすっきりしたわね。これ以上あの家にいるくらいなら、一人で生活したほうがましだもの……)


 季節は真冬。鞭打たれたせいで皮膚は熱を持っている一方で、身体の芯はひどく寒かった。

 地面に倒れたままぼんやりと紫色の空を見上げていると、白いものが舞い落ちてきた。頬にふわりと乗ったそれは優しく溶けていく。


(雪……)


 なんだか眠たくなってきた。どこか温かい室内に移動しないとまずいと理解していても、動くことがひどく億劫だ。

 自分はこのまま死ぬのかもしれない。

薄れゆく意識の中で走馬灯のように見たものは、愛すべき場所だった図書館の風景。いつも真面目なメガネ君に、大天使コルネリア様。あの場所に戻りたかったと思いながら、わたしは知らぬ間に瞼を閉じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やべぇよ(;'∀') マッチ売りの少女より悲惨な状態になるよこのままじゃ(;'∀')
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ