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【完結】推しが婚約破棄されたので、悪役令嬢(透明人間)になって復讐いたします!  作者: 優月アカネ@重版御礼
第三部

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38/50

 しんとした部屋。

 殿下ははあと深くため息をつき、メガネを拾う。

 つける直前にパチリとこちらを見たような気がしたものだから、わたしは慌てて部屋から逃げ出した。

 勢いでお城まで来て覗き見までしてしまって、気まずいことこの上ない。

 城門のところまで一気に駆けてきて、物陰で呼吸を整えていると、門番たちの会話が聞こえてきた。


「なあ知ってるか? バロンド侯爵様のところの求人の話」

「求人? 知らないな。うまい話か? 教えてくれよ」


 バロンド侯爵、という単語に耳が反応する。

 なんだか嫌な予感がしたので、彼らと距離を縮めて会話を聞いてみることにした。


「紹介だけで集めてる求人だから、知らなくても無理はねえ。なんでも、引退兵とか若手の連中を中心に人員を集めてるらしい。しかも、高給ときた。月五千ペナンだ」

「五千ペナン!? そりゃすごいな。ジャレット公爵様のところより好待遇じゃないか」

「いい話だろ? 城の門番よりずっといい暮らしができるぞ。俺は応募するつもりだ」

「でも、そんなうまい話ってあるのか? 領地の警備仕事なんて、どの貴族でもやることは変わらない訳だし。高い給料を出す理由が分らねえ」

「細かいことはいいだろう。世の中、結局金が一番大事なんだからよ。ここですぐに動ける者だけが、結局成功するんだろうなあ」

「おい、今、さりげなく俺をバカにしたな?」


 ――話が横道に逸れたところで、そっとその場を後にする。

 バロンド侯爵様が、こっそり兵士を集めているですって?

 重要な話のように思われたので、公爵邸に帰ってさっそくコルネリア様に報告すると、女神は顔色を変えた。


「ありがとう、セリアーナ。それはとても大切な情報よ。すぐにお父様に伝えるわ」

「侯爵様は、やはり何かを企んでいるのですか?」


 コルネリア様は真剣な顔で頷いた。


「おそらくだけど、謀反を計画しているのだと思うわ。それも、隣国と手を組んでいる可能性がある。学園長の部屋から親書を盗んだのも、軍事演習の計画書がなくなったのも、全てそのためよ」

「演習の計画書はわかるのですが、親書も関係しているのですか?」

「隣国も一枚岩ではないからね。手に入れられる情報はすべて手に入れたいのでしょう。失敗のできない計画ですし、あちらに裏切られたら終わりだから」


 侯爵様は、隣国と手を組んでこの国の転覆を狙っている。

 予想を超えるスケールの話に、わたしは呆然としていた。


「どっ、どうしてそんなことをするのでしょうか?」


 コルネリア様は、美しい眉をひそめて難しい顔をした。


「動機については、それこそ確実なことは言えないわね。でも、重要なのは事実のほう。侯爵様の気持ちを変えることはできなくても、計画の実行を止めることはできるわ。ジャレット公爵家の名誉にかけて対策を練らないとね」

 

 気丈な笑みを残して、コルネリア様は急ぎ公爵様へ報告に向かっていったのだった。


 ◇


 その晩。わたしはふかふかのベッドの中で、薄暗い天井を見上げながら考えていた。

壁紙は鮮やかな青空に小さな雲が浮かんでいる柄。少しでも気持ちが晴れるようにと、公爵家に拾われた時、コルネリア様が張り替えて下さったものだ。


(バロンド侯爵様が謀反……。今、この国は大変なことになっているのね)


 今日も公爵様は屋敷に帰らないみたいだ。もう一週間以上お姿を見かけていない。身体が心配だと、夕食の席で奥様がぼやいていた。

 公爵家の一大事。国の一大事。――そして、殿下にとっても大きな問題に違いなかった。

 国王陛下に次ぐ高位王族として、殿下は役割を果たそうと毎日寝る間を惜しんで仕事をしている。今日お見かけした殿下のお顔には、うっすらとクマができていた。


(……わたしだけ、こんなベッドで寝ていていいのかしら)


 危機に備えて皆が自分のできることを頑張っているのに。わたしだけが安全地帯でのほほんとお茶を飲んでいるような、そんな状況に思えた。

 わたしも役に立ちたい。皆と一緒に立ち向かいたい。そんな思いが強く湧いてくる。


(コルネリア様とアルフレッド殿下、公爵様ご夫妻にわたしは救われたんだもの。温かいご厚意をたくさんいただいてきて、返しきれない恩がある。みんなのために、わたしもできることを考えよう)


 ふと脳裏に蘇ってきたのは、殿下の真摯な表情だった。

「セリアーナ嬢のことは、僕が必ず守るから」

「セリアーナに何かしようものなら、僕が全力で潰すから」

 ――殿下はいつだって、わたしのことを守ろうとしてくれている。

 わたしはもう、一人じゃないのだわ。お優しい殿下がいて、女神のような推しがいて、温かい家族がいる。辛いと弱音をこぼしたり、涙を流せる場所がある。

 そのことを考えれば、なんだって怖くないような気がした。だって、一番怖いのは、それを失うことだ。今の幸せな毎日が壊れてしまうこと以上に恐ろしいことなんてない。

 

 ――戦おう。自分が持つ能力の全てを使って。

 もやのかかったような頭と心が、すうっと晴れ上がっていく。


(ごめんあそばせ、バロンド侯爵様。あなたの計画はわたくしが阻止しますわ。だって、わたくしは悪役令嬢ですからね!)


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― 新着の感想 ―
[一言] 殿下の負担を減らすためにも、殿下以上に強くならんとなぁ少なくとも(;'∀')
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