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無能なセリアーナ

ご好評につき長編化することにいたしました。原稿は最後まで書ききっており、4月中旬に完結予定です。


 ランタス伯爵家の邸宅には、今日も二人の女性の金切り声が響き渡っていた。


「セリアーナ! 部屋の隅に埃が残っていたわよ! ああ、嘆かわしいわ。掃除一つまともにできないなんて、なんて恥ずかしい子なのかしら」


 口元に扇子を当ててつり上がった眉を顰めるのは、ここランタス伯爵家の当主夫人だ。隣で腕を組み、整った愛らしい顔に令嬢らしからぬ醜悪な笑みを浮かべているのは彼女の娘ミアである。


「そのみっともない恰好、どうにかなさったらいかがなの? ねえお母様、もしかして、この汚い服から埃が出ているんじゃなくって? だから全く屋敷が綺麗にならないのよ」

「まあ、さすがミアね。その通りに違いないわ。……セリアーナ、分かるわね? 自分で汚しているのだから、きちっと美しく掃除しておくように。床に自分の醜い顔が映るまで磨き上げなさい。終わるまで夕食にはありつけないと思いなさい」

「いやだわ、お母様ったら。お姉様の食事は夕食とは言いませんわ。あんな残飯は豚だって食べませんもの」

「可愛いミアの言う通りだわ。それに、こんな木偶の棒よりまだ豚の方が役に立つものね」


 床にうずくまる少女が言い返さないのをいいことに、二人は次々と罵声を浴びせる。

 やがて悪口のネタが尽きると、ミアは蔑んだ表情で言い捨てた。


「姉様は魔能を持たない能無しなのに、うちにいられるだけありがたいと思ってもらわなきゃ困るわ。さあ、ぼさっとしてないで早くして頂戴!」


 二人は高笑いを残し、すぐにセリアーナのことなど忘れてしまったかのように、このあと出かける予定の宝飾店の話題に花を咲かせながら廊下の奥へと消えていった。


 座り込んで微動だにしなかったセリアーナは、ようやくのっそりと動き出す。


(はあ……。やっと行ってくれたわ。もう耳にタコができるほど聞かされているから、心も痛まなくなってきたわね。痛むのはずっとしゃがんでいた足だけよ)


 セリアーナは再び雑巾を絞り、冷たい床に手をついて磨き始める。彼女とミアはたった一歳しか違わない姉妹であるのに、その扱いには天と地ほどの差があった。


 妹のミアは美しいブロンドの髪と澄んだ海のように美しい青い瞳を持つ美少女で、怪我や病気を癒す魔能を持つ。一方姉のセリアーナは赤銅色の癖っ毛で、瞳の色もグレーと地味だ。華やかな色彩が魅力として挙げられるこの国では、醜い部類に入るだろう。


 それでも十歳までは、見かけ上は妹とほとんど同じような暮らしをしていたのだ。


 このようにメイド以下の扱いを受けるようになったのは、彼女に『魔能』がないと判明してからだった。ミアのように癒しの力であったり、あるいは見たものを鑑定できたり、身体能力を強化できたり。人それぞれ種類は違うけれど、貴族なら誰でも持つ特殊能力=魔能が彼女にはまるでないと分かってから、一族の恥とばかりに家族は態度を豹変させ、セリアーナを虐げるようになった。


 最初は家族の変わりようや心ない言葉に傷ついていたけれど、五年も経てば悲しい顔をしながら小言を聞くふりをして、頭の中では別の楽しいことを想像するという芸当も板についてきた。

 加えて、高等学園に入学してからの彼女は大きな生きがいを見つけていたから、これっぽっちも悲しくなんてないのである。


(早く掃除を終わらせて、あのお方の元へ行かなきゃ。今日はお休みだけれど、きっといらしているに違いないもの!)


 セリアーナは目にもとまらぬ速さで言いつけられた掃除を終わらせて、汚れ切ったお仕着せから制服に着替える。これが唯一、清潔な衣服だった。

 はやる気持ちを抑えながら屋敷を飛び出し、街を駆ける。息を切らせて辿り着いたのは学園の図書室だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] セリアーナの気持ち、分かるわぁ。 私も前の職場でそういう芸当身につけたから(ぇ
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