カビが生えにくい餅
私が子供の頃は年末に飾る鏡餅はテレビの上で、三方の上に半紙を敷いてその上にうらじろ(シダ類の植物)を敷いてさらにその上に2段に大きさの違う餅を重ね、その上に薄い昆布を敷いて、串柿を置いて、その上に橙を載せる
この鏡餅は15日まで飾っていた
当然テレビを見ながら、無意識にでも日毎に鏡餅の変化を観察していた
だんだん艶がなくなって行き、ひび割れが出てくる、緑色のカビが生えてくる
この緑色のカビを見ながら、親から「緑色のカビはペニシリンの原料にもなり食べられるけど、赤とか黒いカビはアカンのや」とよく言われた
ほんとうかどうかの真実は解らなかったけれど、そうやって日常の生活や文化からカビについても自然に学んでいた
そう言えば食パンに生えるカビは黒くて、もったいないけど廃棄していた記憶がある
緑色のカビは大丈夫
そう言ってもカビが生えると、食べる時にあの独特なカビ臭い匂いがするのは嫌な気分になる
昔から誰もが当たり前に食べてきたのは解っていても、やはりカビ臭いのは餅の風味が落ちると感じる
カビの生えた部分を切り落としたり、水につけて水餅にしたりするが、カビの胞子はクモの巣状に広がっているので、やはりカビ臭さは抜けないのが悩みだった
考えてみれば歴史的に餅という人にとって特別なご馳走は微生物達にもご馳走であることに変わりなく人間は何もしないまま引き継がれてきた
また、すべも無かったのかもしれない
それがその後に食品ラップと言う物が開発されてから劇的に進化を遂げた
そう!パック餅の出現だ
最初は小さな個包装の餅が出現した
そうこうするうちにパックに入った鏡餅が現れたのだ
ほんと画期的だった
餅本体にホコリもかからないのはもちろんのことだけど、ひび割れもしないし、なんと言ってもカビが生えにくいのだ
あのカビ臭い餅から解放される発明だと感動した
それだけで笑顔になれる
今は小さな鏡餅は個包装の同じ大きさの餅がさらに鏡餅の形をした見た目のパッケージに入っており、プラスチックの橙まで載って装飾されて販売されている
食べる時に切ることさえしないでいいお餅
まさに鏡開きは裏のビニールのシートを開けることになった
中のもちを取り出したら、鏡餅の形をしたケースはグチャッと潰すことができる
このパックの鏡餅はみるみる世の中に普及していった
最近はカビの生えた餅自体を見ることがなくなった
でもカビ臭い餅を食べたいとは思わない
そこに郷愁の念は感じない
パックに入っているからカビは生えにくいと信じたい
けして変な添加物が入っているからとは思いたくはない