頑張れ!白兎神さま(新説因幡の白兎)
登場人(?)物
・白兎神本編の主人公。ウサギの美少女にして、神。バニーガールじゃありません。
・ワニザメ 原作ではウサギの皮を剥ぐ役どころですが、本編では白兎神の舎弟。たくさんいます。
・オオナムジ すれてない美少年。神の兄弟の末弟でお人好し。後のオオクニヌシノミコト。
・八上比売 因幡の国きっての美少女にして美少年好き。今回の案件の黒幕。
・八十神 オオナムジの兄たち。たくさんいます。オオナムジに荷物を持たせ、八上比売に告りに行く。底意地悪し。
末尾にちはやれいめい様からいただいた白兎神さまのイラストを掲示しました。
「白兎神さま、もう八十神は家を出たそうです」
「何っ、そりゃいけない。急いで急いで」
「えーと、シナリオではワニザメが白兎神さまの皮を剥ぐんですよね。ほんとに剥ぎます?」
「ほんとに剥ぐわけないでしょ。そうねえ。適当に白兎神の毛を切って。それらしく見えるように」
「それじゃ失礼しまーす。ザクッ」
「いだだだだ。ちょっと待って、あーっ、血が出てるー」
「だって白兎神さま、毛が固まってて、毛玉だらけで、ちゃんと毛づくろいしてます?」
「しょうがないじゃない。八上比売さまからの依頼が急で、事前に八上比売さまの意中のオオナムヂさまがどういう神か調べたり、その兄の八十神のことを調べたり、無理のないシナリオ作るので大忙しだったんだから」
「すみませーん。八十神、もうすぐそこまで来てまーす。弟のオオナムヂさまに荷物全部持たせてるんで、歩くの速いでーす」
「わあああ、急いでっ! 急いでっ! いだーっ、あーっ、また血が出た。ワニザメ、不器用ねー」
「無理言わんでください。ワニザメ、胸びれにハサミ持ってるんですからね。どうしたって器用には切れない」
「いだーっ、まーた血が」
「何か本当に皮剥がれたみたいになってきましたね。リアリティが出てきました」
「すみませーん。八十神、ここまで来ました-」
「来たかー。ワニザメはシナリオとおり、沖合でこっちうかがってて」
「へーい。おーいみんな海行くぞーっ」
◇◇◇
「うえーん。しくしくしく」
道の真ん中で泣いている白兎神。
そこに現れた八上比売の意中オオナムヂの兄神たち八十神。
「おい、そこの汚い兎。道開けろ」
「俺たちゃ急いでるんだよ」
「これからこの先に住んでいる可愛いと評判の八上比売ちゃんに告りに行くんだからな」
(アホかこいつら、こんなに大勢で告りに行ってどうすんだよ。『ねるとん紅鯨団』か? 古すぎだろう)。
そう思った白兎神だが、もちろんおくびにも出さない。
「そんなこと言わないで助けてくださいよー。白兎神、あの沖合にいるワニザメたちに不器用に毛を切られ、じゃない、皮を剥がれて大変なんですよー」
「白兎神じゃなくて八上比売ちゃんが剥がれればよかったのに」
「まあ八上比売ちゃんは俺らが剥ぐからいいか」
「何で皮剥がれたんだ?」
「それはその、白兎神、あそこの沖ノ島からこの因幡の国に渡るのに手段がなくてですね。あのワニザメたちをだまして、自分の一族とワニザメとどっちが数が多いか調べると言って並ばせて、後一歩で渡りきるところで『(兎だけに)うそぴょーん。だまされてやんの』と言ったら皮を剥がれて……」
「……何それ、自業自得じゃん」
「ざまあだよ。ざまあ」
「さて、俺らは八上比売ちゃんを剥ぎに行かないと」
「そんなこと言わないで助けてくださいよー。特にこの血が出てるところとかヒリヒリして痛くてしょうがないんですよー。何とか治療法を教えてくださいよー」
「何? 痛くてヒリヒリする? じゃあ、海水で体洗え」
「後は山のてっぺんで強い風に当たってろ」
「で、日光浴でもしてろ」
「はっ、はい。そのようにします」
白兎神はそのまま土下座をして八十神を見送った。
◇◇◇
「白兎神さま、いつまで土下座してるんですか?」
「わっ、びっくりした。思わず寝ちゃったよ」
「で、どうするんです。八十神が言ったとおりに海水で体洗って、山頂で強い風に当たって、日光浴するんですか?」
「するわけないでしょ。体中の皮膚にひびが入っちゃうよ」
「しかし、それではオオナムヂさまをお迎えするに当たり、リアリティーってもんが……」
「リアリティーならワニザメがザクザク切ってくれたもんでもう十分よ。はあ、それにしても八十神って噂に違わず、底意地が悪いねー」
「あなたたち、そこで何してるの?」
◇◇◇
「わあっ、オオナムヂさま。いつの間に?」
「え? オオナムヂの名前知ってるの? お会いしたことありましたっけ?」
「いっ、いえ、それはこちらの内部事情ってやつでして。実は……えーん。えーん。そこのワニザメたちに皮を剥がれて困っているのです。白兎神」
「え? そうなの? さっきまで仲よさそうにお話してたように見えたけど」
「それも内部事情ってやつでして、とにかく皮を剥がれて困っているのです」
「うん。分かるよ。お友達とケンカするとつらいよね。大丈夫。オオナムヂが間に立ってあげるよ。仲直りしたいんでしょ?」
「いえ、そっちはいいんですよ。もともとケンカとかしてない……いえっ、いえっ、それよりもこの皮を剥がれたのを何とかしてもらいたく」
「ふーむ。皮を剥がれたと言うより、体中の毛をハサミで切られたって感じだけど」
「それもこちらの内部事情で。とにかく、この血が出てるところがヒリヒリして痛いんですー。何とかしてくださーい」
「うん。ヒリヒリして痛いんだね。分かった。ちょっと待ってね。えーと」
オオナムヂは背負った大きな袋を下ろすと中を探した。
「殆どが兄さまたちが八上比売さまにプレゼントすると言ってるブランドものだけど。あー、あったあった」
「はい」
オオナムヂは二つのものを白兎神に手渡した。
「あ、あのオオナムヂさま、これは?」
「○ロナインと○ンドエイドだよ。先に○ロナイン塗って、○ンドエイドを傷口に貼っといてね」
「あ、はっ、はい」
ここでワニザメが白兎神に耳打ち。
「いいんですか? ここはシナリオだと真水で体を洗い、蒲の穂の花粉をつけろなんですが」
「しょうがないでしょ。事前打ち合わせしたわけじゃないんだから」
「あ、良かった。もう仲直りしたみたいだね。じゃあオオナムヂ行くね。早く追いかけないと兄さまたちに怒られちゃうから」
「あーっ、待ってくださいっ! オオナムヂさまっ!」
「うーん。なーに?」
「可愛いと評判の八上比売さまは兄神さまたちではなく、オオナムヂを選ぶでしょう。それは八上比売さまが美少年好きだから、いやもとい、オオナムヂさまが心優しいからです」
「何だかよく分からないけど励ましてくれるんだね。ありがとう。養生してね。破傷風には気をつけて」
「白兎神さま、行っちゃいましたね。オオナムヂさま」
ワニザメの言葉に白兎神は頷く。
「私たちはやれるだけのことはやったよ。八十神は意地悪でオオナムヂさまは優しいフラグを立てた。後は八上比売さまがそれを言うだけだよ」
◇◇◇
「白兎神さま、八上比売さまから成功報酬の白兎神社が落成したとの連絡が来ました」
「ふいーやっと。頑張った甲斐があったね-」
「ところで白兎神さま、ワニザメへの報酬は?」
「はいはい、分かってるわよ。○ナバの『○んちゅーる』と『○ゃおちゅーる』でいい?」
「そりゃ犬猫のおやつじゃないですか。ワニザメ、魚ですよ」
「白兎神さま、おくつろぎのところ申し訳ないです」
「ん~、なに~」
「八上比売さまのお話を聞いて、自分も恋愛成就の祈願をしたいという女性が十人ほど来てます」
「はー、まあいいわ。まとめて面倒みたるわ」
おしまい